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Arts hunter   作者: kiruhi
青年編 ー最後の教えー
104/118

第百三話 最強のアーツハンターその名は……?(後編)



 ドドドドドドドドドドドッ!!!!!!


 地面にぶつかる音と共に、クレーター内部で土煙が舞い上がっていた。


「やったかっ!?」

 ユンムの声は、クレーターを見下ろしながらそう呟いていた。




 そして、風に吹かれながらも次第にクレーター内部にある土煙は晴れていく……


「なっ!?」

 クレーターを見下ろしていたユンムは、驚きが隠せないでいた。

 それもそのはず、クレーターの中にいた弟子たちは全て白のアーツによって守られ、無傷なのであるから。

「くっくそっ! もう一回だっ!!」

 ユンムは再び周りにいるアーツハンターたちに発動するように、命令をくだそうとしたのだが……

 座り込み既に限界だと言うのであった。

「情けない! それでも貴様らはアーツハンターなのかっ?」

「……」

 それは彼らの無言の抵抗でもあった。


「ならば、私だけで発動するっ!!」

 再びクレーターに向かってユンムは、せめてギレッドだけでも……と思い、アーツを発動していく所でユンムの手を掴み取る者が、後ろから静止してきたのである。


「もうやめろっ……」

「っ!?」


 それは、ガーゼベルトに残ると言っていた一人、アーツハンター専門裁判長ヒルヤン・ゴッドであった。


 元々アーツハンター専門裁判長とは、アーツハンターの不正などを調査したり解決するのが役目である。

 当然ギレッドの処遇についてもヒルヤンが決定を降さなければならなかったのだが、シドニーは先走り勝手に事を進め、ヒルヤンには後報告としてきたのである。

 それもヒルヤンでは覆す事が出来ないまでに発展してしまった事に、シドニーの独断専行に対して処断するべきか。とも考えたのだが、会長であるローラに続き代理であるシドニーまでもが失脚すれば、当然貴族たちも黙っている筈がなく……

 ヒルヤンはギレッドの件が決着するまでの間、シドニーの独断を見て見ぬふりをする事しか出来なかったのであった。

 なのにシドニーは『ギレッドが見つかったから一緒に来い』と言い放ち、ヒルヤンは呆れ果てるしかなかったのである。


 結果『書類を放棄する訳にはいかず勝手に行け』と言った物も、やはり裁判長と言う立場がヒルヤン自身をこの場へと(いざな)ってしまったのである。

 結果だけでもヒルヤンはその目で見届けよう。そう決意し、この場に現れたのであった。


「ヒルヤン、なぜ止めるっ!!」

「もう、決着(おわった)んだ。これ以上無駄な血は流すな」

「ぐっ……」

 悔しそうな顔をするユンムとシドニーを無視し、ヒルヤンはクレーターの方へ目を向けて行くのであった……




 ◆◇◆◇◆



 砂煙が晴れたのと、同時にアーツハンターの攻撃を全て受けた血まみれのギレッドが、俺の目の前で拳を突き出して立っていた。

「ギ……ギレッド先生……?」

 唖然としている俺にギレッドは話しかける素振りを見せなかった。ギレッドの目線は、突き出された拳の先へと向けられていたのである。

「お……お前の……好きには……させん!!」

「?」

 話すのも途切れ途切れのギレッドの拳の先を恐る恐る後ろを振り返ると、そこには白のアーツを発動した事によって、満足に動けない俺を殺そうと誰にも見つからずに忍び寄っていた死神の姿がそこにいたのである。

「しっ……死神っ!?」


 “いつの間に……”


 死神はギレッドの拳によって心の臓を貫かれ悔しそうに立っており、最後の力を振り絞り俺に何かをしようとしていたが……

「グフっ……」

 心の臓を貫かれてしまえば流石の死神でも何も出来ず。そのままうつ伏せに倒れこみ、目を見開いたまま動かなくなっていくのであった。


「はぁはぁ……残念だったな………死神っ!!」

 死神の死に顔を見下ろしながら、ギレッドはそう言い放ち血まみれの手で俺の無事を確かめるかのように頭を撫で回していく。そして、ニコリと笑ったかと思うと糸が切れた人形のように俺の腕の中で崩れ落ちて行くのであった。


「ギレッド先生っ!?」

「「師匠っ!!」」

「はぁはぁ……」

 ギレッドの身体は、深い切り傷によって全身血まみれだった。


 あの時……

 ギレッドは、無数の攻撃に対して俺に白のアーツと声をかけてきた。そして、俺も無意識にその言葉に従い白のアーツを発動。

 その結果、俺や弟子たちは無傷で攻撃を防ぐ事が出来たのにギレッドだけ(・・)が傷だらけなのは、どう考えても不自然だった。


「なっ……なんで!?」


 何をしたの? とギレッドに問いかけようとした所で既に答えられる状態ではなかった。

 マーシャルの月光のアーツを発動したとしても治す事は不可能に見えた。

 しかし、俺の持つ白のアーツは別格だ。

 死んでいなければ、大抵の傷は完治させる事が出来る。

 それが白のアーツだ。


 問い詰めるのを後にし、ギレッドに触れながらも俺は呟いていく。

「白のアーツ発動……」

 白のアーツは光輝き、白の波動はギレッドを回復するべく取り巻くのだが……

 一瞬にして四散、光の粒へと変貌してしまうのであった。

「っ?」


「む……無理するなルーク。……最早手遅れ……じゃ。ゴフッ……」

「ギレッド先生!!」


 再度白のアーツの発動を試みるも、先程と同じように上手く発動する事なく白のアーツは四散し光の粒になってしまうのである。

「なっなんで!!」

「ルーク坊ゃ、もう限界よ。黒のアーツで補えないぐらい今日一日で白のアーツを発動しているわ。これ以上発動しようとするのなら、ルーク坊ゃ、貴方が死ぬわよ?」

「それでも構いません、俺はギレッド先生を回復します!!」

「……ギレッド殿が、命がけで助けた命。貴方は無駄にするつもり……?」

「助けた……命?」

「そうよ……」


 現時点でギレッドを超えるアーツハンターは存在していない。

 幾ら負傷しているとは言え、最上級アーツでの攻撃を無作為に狙ったとしても、それは闘気で吹き飛ばせば、簡単に済む話しだった。


 しかし、ギレッドはそうしなかった。


 原因は、俺を狙う死神だ。

 俺がこの場所に現れれば、当然死神は狙ったかのように必ず殺しに来る。と言う事は俺もギレッドも当然わかりきっていた。

 だが、それはいつ? どのタイミングで? までは予測出来ても、確実にこのタイミングで殺しに来ると言う事は、俺はもちろん無理だしギレッドにも検討はつかなかったのである。


 そして、考えに考えた末にギレッドが導き出した答えは。

 戦いに誰もが夢中になり俺に注意が向いていない時。

 死神が狙ってくるとしたら、このタイミングしかないだろう。とギレッドは、死神の思考を読み取っていくのであった。


 ……ならば、逆にそのタイミングをギレッドの意志で操作する事が出来れば、死神を撃退出来るのではないか? そう結論を出し、ベイウルフやマーシャルは常に俺の側におり死神にチャンスを与えずにいたのである。




 あの時、誰もがクレーターから降り注がれる攻撃に見入っている中、案の定ギレッドの予想通りに死神は誰にも見つからず、俺の背後に忍び寄りその姿を解き放ったのと同時だった。

 闘気を最大限までに込められたギレッドの拳は、正確無比に死神の心臓を貫いていくのと同時に、無防備状態となったギレッド目掛けてクレーターの上から最上級アーツの攻撃が降り注がれ、闘気を再び纏う暇も与えられず全てその身を持って、ギレッドは受け止めなくてはならなかったのである。


 結果……死神は死に、ギレッドは死にかけていた。




 ギレッドの周りには、弟子たちが全員集まりその名を呼ぶ者や涙を流している者、何も言わずただ黙って見ている者と様々だった。

 月光のアーツや白のアーツでの回復は期待出来ない。と悟りギレッドの最後を黙って見届ける事しか出来なかった。


 そして、ギレッドは消え入りそうになりながらも黙ってマーシャルを見つめていく。

「……」

 マーシャルは、自分の力のなさに悔し涙を浮かべながらもギレッドの最後の意志を汲み取ったかのように頷き、月光のアーツを発動。


 それは、いつもの月光のアーツによる回復の光ではなかった。

「マーシャルっ!? お前っ!?」

 一人の弟子がマーシャルが何をやったのか理解したのだろう。慌てて静止させようとするが、既に遅く月光のアーツは発動し青白い光がギレッドを、優しく包み込んでいく。

「ギレッド殿の最後の意志よ……」

 弟子に、睨まれながらもマーシャルは淡々と答えていくのであった。



 発動し終わったマーシャルは、精魂尽きたかのような顔をしながらもギレッドを見つめていた。

「……ふぅ……ギレッド殿、十五分間が限界ですわよ」

「うむ、マーシャル殿。感謝する……」


 むくっと俺の腕の中から抜け出しギレッドは、傷など最初からなかったかのように平然な顔をして立ち上がったのである。

「えっ? えっ!? マーシャルさん、一体何を……したの?」

「……」

(わたくし)が使ったのは……」


 マーシャルが発動したのは、月光のアーツの中で今ではほぼ使われていない物の一つであった。

 その名を『月光の泡』と呼び、マーシャルの意志と発動対象者の意志が一致した時にのみ、月光の泡は発動対象者の残りの命全て(・・)吸い取り限られた時間内であれば、腕が千切れていれば再生したりと、どんな重症な怪我を負っていたとしても、再び動き出す事が可能である。

 マーシャルはこれをアーツ第一次対戦時に、最早手の施しようがないなく死しか残されていない者たちに語りかけ、同意の元で月光の泡を発動していたのであった。


 ギレッドの最後の意志とは言え、この時ばかりはこの事を教えなければ良かった。とマーシャルはひたすら後悔していたのである。



「さてと……時間は限られておるからのぉ、手短に済ませるとするわい」

 何事もなかったかのように、ギレッドは全身に闘気をみなぎらせていく。


 ビリビリ……


 空気が頬に当たる中、ギレッドは再び元気良く叫び声を上げていた。

「月光の泡を発動された者の末路。お主たちも知っておろう?」

「……」

「うっ…うっ……」

「……しっ……師匠ぉぉぉぉっ」

「残り十五分……儂もお前たちも悔いのないよう、最後の最後まで儂に根性みせてみんかぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 咆哮にも感じられる威圧感を前にして、弟子たちはギレッドの言う通り月光の泡を発動した者の末路を知っていた。

 ギレッドの言葉に意を決したかのように、弟子たちは流れ落ちる涙を拭き最後の力を振り絞るかのようにフラつきながらも立ち上がる。そして、ギレッドに殴りかかっていくのであった。


「「よろしくお願いします!! 師匠っ!!」」

「ふははははははっ!! かかってこいっ!!」




 ◆◇◆◇◆



「……そろそろ、時間ね」

 マーシャルの聞こえるようで聞こえない声を聞き取りながら、俺は黙ってギレッドの最後の戦いを黙って見ていた。

 その戦いは先程までの戦いとは全く異なっていた。

 遺言を残すかのようにギレッドは、一人一人弟子たちに短所を述べていき今後更なる強さを身につけられるようにアドバイスをしながらも、容赦なく弟子たちを叩きのめしていたのである。


 そんなギレッドの姿を俺は、この目に焼き付けていた。


 弟子たちは殆ど倒され最後に立っていたのは、ギレッドを中心として対照的に立っていたベイウルフとセルビアのみであった。


「はぁはぁ……ベイウルフ……よ」

「……はい」

 月光の泡の時間切れなのか、ギレッドは肩で息をしながら攻撃の手を止め仁王立ちしながらも、ベイウルフを睨みつけていた。

「……儂からの最後の助言じゃ……心して受け止めろ」

「はっ!!」




「はぁはぁ……そうじゃのぉ先ずは……セルビアと和解しろ」

「……えっ!?」

「何も夫婦に戻れとは儂は言わん、むしろ儂を越えられなかった以上、よりを戻す事は許さん。だがのぉ、いつまでも逃げておっては、お前もセルビアも前には進めんぞ」

「……」

「覚悟を決めて、きちんと話し合えっ……よいな?」

「かっ……考えておきます」


 言いたい事だけ言い終えたギレッドは踵を返し、セルビアではなく俺の方へと顔を向けていく。

 こんなに元気なギレッドが、もうすぐ死んでしまうなんて俺には信じられなかった。

 マーシャルに月光の泡を発動した者の末路を聞かされたが、認めたくなかった……


 だから……


「ギレッド先生、死にませんよね……?」

「……最早、それは逃れられんな」

「なら今からでも、俺は白のアーツを発動しますよ!!」


「ルークっ!!」

「はっはい!!」

 近寄ろうとする俺にギレッドは叫び、その行動を停止さえニコリと微笑んで来るのである。

 それは、全てを理解し決して後悔していない。全てを受け入れている顔だった。


「受け入れないで下さいよっ……ギレッド先生、死なないで下さい!!」

 子供の駄々をこねるかのように、俺は両目一杯に涙を流しながら拳を力の限り握り締め懇願していた。

「ルーク坊ゃ……」

 マーシャルの手が肩に触れていくのを感じていたが、それでも俺は構わず泣いていた。

「ルークよ、儂は……後悔なぞしておらんぞっ」


「……はぁはぁ……アルベルトの時は何も出来ずに守ってやる事すら出来なかったが……くっ……まっ孫であるお前(ルーク)を、わっ儂は守る事が出来たのじゃ!!」

「うっ……うっ……」

「死は誰にでも訪れるものじゃ。……儂は大勢の弟子たちに囲まれ、お前やセルビア……そして、弟子たちに最後の戦いを思う存分に見せつけてやる事が出来た。そんな男にお前もなれっ!!」

「……ヒック……」


「でも……!! 俺はまだ、ギレッド先生に教えてもらいたい事が沢山あります!!」

「ふははははは、今までの戦い全て。その目に焼き付いておるじゃろ?」

「……」

「儂が言いたい事は……そうじゃのぉ……誰にも負けるでない」

「っ!?」

「自分にも、ドランゴにも!! そう……誰にもじゃ!!」

「うっ……うっ」

 最早、大粒の涙で目は覆い尽くされまともにギレッドの姿を目視するのは不可能だった。

 それでも耳だけはギレッドの言葉を聞き逃さないでいた。

「くっ……とっ闘気をもっと……高めるんじゃぞ!」

「はいっ!!」


「グッ……はぁはぁ……あ……後は……」


 ギレッドは、最早立っている事、口を開くのでさえ辛く聞くのも見ているのも俺には出来なかった。

 そんな姿を俺は受け入れる事は出来なかった。


 “死なないで下さい。死なないで下さい、ギレッド先生!!”


 呪文のように唱えていたが、その願いは届かなかった。


 そして、その思いは俺だけではなかった。

 弟子たちだって同じ気持ちだったのだ。 ただ声には出さず、誰一人としてギレッドから目を背ける者はいなかったのである。




「セ……くっ……はぁはぁ……」




「セッ……セッ……セルビアァァァァァァァァァァァァァっ!!」

 腰を軽く落とし、両の拳をぐっと握り締め顔は空を見上げながら、ギレッドは最後の力の限りセルビアの名を叫び、セルビア本人はギレッドの元に近づき背中に両手を回して、抱きついていくのであった。

「……はい、師匠。(わたくし)はここにおりますわ」



「はぁはぁ……最早、何も見えん。指先一つ動かせん」

(わたくし)が最後まで支えておりますわ」


「はぁはぁ……ルークは……強くなったぞ……」

「はい。師匠のお陰ですわ」


「……ベイウルフと逃げずに、きちんと話し合うのじゃぞ……」

「ん〜それは、約束しかねます」


「しっ……仕事も……サボるでないぞ……」

(わたくし)には、優秀な参謀アルディスちゃんがおりますので……」


「闘気……ちゃんと身につけるんじゃぞ」

「……ルークちゃん、スパルタかしら?」


「ぐっ……はぁはぁ……」

「……」




「セルビア……頼みがあるのじゃが……」

「はい、師匠。なんですの?」





「……最後に父と……そう呼んでくれんかの?」

「……」











「はい、お父様……」



 最後の声をギレッドに聞こえたのかはわからなかった。


 だが、大勢の弟子たちに囲まれギレッドは最後まで最強のアーツハンターという名に相応しく戦い抜き満足気な顔をしながら、セルビアの腕の中で静かに刻を止め、泡のようにその身を消していくのであった………






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