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Arts hunter   作者: kiruhi
青年編 ー最後の教えー
101/118

第百話 動き出した歯車(前編)

 現在、俺はベイウルフの後ろを追いかける形で森の中、山の中を走り抜けていた。


「ここで修行していたって事は、それなりに体力はあると見てもいいな?」

「はっはい」

「ふっベイウルフ。ルークは途中で闘気切れでヘトヘトになったから体力はあまりないぞ?」

「……ついて来れなければ置いて行く」


 出発する前、ベイウルフはこんな事を言っていた。

 そしてそれを有言実行するかのように、俺を置いて行くかのように走り抜けて行ったのである。

 ベイウルフの後をついて行く事自体実際は余裕だった。だが、問題はその道中に出くわす、魔物の出現率は思いの他高かった。

 魔物たちは、先頭を走っているベイウルフに狙いをつけるのではなく、何故か俺ばかり狙ってくるのだ。

 その度に倒し続けていると……


「おいっルーク。相手をするのはいいが、ここは魔物の生息が多い所だしキリがないぞ」

「俺だって……」

 好きで相手しているわけではないのだが……と言いかけた所でベイウルフは、不敵に俺を見下して言ってくる。

「魔物のせいにしないで、休みたいなら休みたいとはっきりと言え」

「なっ……まだまだ余裕ですよっ!!」


 と体力はまだまだ余裕である。ベイウルフに勘違いされ、後で何を言われるのかわからず、俺は可能な限り魔物を無視して進んで行く事にすると、今度は足の速い魔物が諦める事なくしつこく俺だけを、追いかけ回してくるのだ。


 “なんで、俺ばかり!!”


 と不満を抱きながら魔物の攻撃を回避し続けていたのだが、結局魔物を振り切れずにベイウルフがニヤニヤと笑いながら一撃で仕留めるのであった。


 “俺だって、余裕で一撃で倒せるのにっ!!”


 あまりベイウルフの事、好意にもてないかもしれない。それがこの旅で感じた第一印象だった。

 ベイウルフの攻撃によって魔物たちは、ぱたりと襲撃してこなくなった。

 不満は募るばかりだったが、ひたすらギレッドが待つ場所へと俺もベイウルフも走り続けた。



 ギレッドのいる場所は、メシュガロス寄りの場所だった。

 剣の聖地ウイッシュとは正反対の位置にある為、旅立ってから5日後。漸く到着する事が出来たのである。


「……」


 そして、ギレッドが隠れていると言う場所は……俺もよく知っている場所であった。

 足を踏み入れた瞬間、ヨロヨロと後退しながらも立ち尽くしてしまった。


「俺はギレッド先生を迎えに行ってくる。お前はここで待っていろ」


 “……っなぜ、ここなんだ!?”


 ベイウルフは何かを言っていたような気がしたが、既に俺の耳には入ってはいなかった。

 頭の中はこの場所に対する思いで、いっぱいだった。


 辺り一面焼け野原状態だったこの場所は、年月と共に風化し既に瓦礫と化し何も残っていなかった。

 しかし、何も残っていなくとも……

 俺の脳裏には、あの時の光景が鮮明に描かれ始めている。


 どこにでもあるすっごく平凡な小さな小さな村。

 毎日毎日変わらない日々を送り、刺激と言う物なんて殆どなかった村。

 そんな平凡な村を俺は大っ嫌いだった。


 そう大っ嫌いだった筈なのに……


 ここに立っているだけで、自然と涙がこぼれ落ちていた。




 干渉に慕っているとベイウルフは何処からともなく姿を現し、数歩遅れてゆっくりとギレッドは俺の目の前に現れたのであった。

「……ギッ……ギレッド先生」

「よぉ、剣の聖地はどうだった!?」

 今まで逃亡していたとは、微塵も感じさせないギレッド。

 その姿は、相変わらず元気そうであった。




 --- とある高台にて ---



 現在死神は、村が見える位置にある高台に立ち事の成り行きを見物していた。

 ルークの後をつけてきた死神は、予想通りとも言えるギレッドとの再会に暗殺対象であるルークを、今この時殺してしまおうか? どうしょうか? と悩んでいたのである。

 死神としては、せっかく見つけたルークを逃がしたくはなく、この場で殺してしまいたい。と言うのが本心ではあったのだが、そうなればギレッドともう一人のアーツハンターが邪魔な存在へとなっていく。


 無理矢理殺そうと思えば、出来ない事もないが三対一。

「う〜ん。どうしょうかなぁ〜」

 殺すのに時間をかけると、間も無く到着するであろう大量のアーツハンターたちと挟み撃ちになってしまう。

 更には、メシュガロス方面やその他からも多数この場に向かっている事を察知していたのである。

「それは、それで面白そうなんだけどねぇ〜」

 結局死神は今ではなく群衆に紛れて……ひっそりと、そう誰にも見つからずに確実に対象者であるルークのみ消し去る。

 死神は静かに、これから起こる事を見守る事にしたのであった。





 ◆◇◆◇◆



「話しは大体理解しておるな?」

「道中、ベイウルフさんから聞きました」

「うむ」


 そう俺はここに来るまでの道中、ベイウルフから全ての真相を聞いていた。

 信じていた通りギレッドは、協会長ローラを殺してはいなかった。

 死神の手によってローラは、殺されてその場にいたギレッドは死神の策略によってはめられたとの事だった。


 ではなぜ、それをアーツハンター協会の幹部たちは信じないのかと言うと、ギレッドは知っての通りの性格だ。どうやらそれが、災いしてしまったのである。

 ギレッドの存在を邪魔だと思っている幹部たちは実は大半を占め、特に協会長代理を務めているシドニー・ラーニアは早く引退して欲しいとさえ、ギレッドに言った事があるそうだ。

 そしてローラ暗殺事件。シドニーはこの機会に何が何でもギレッドには、表舞台から消えてもらうと……と誰が考えても不信感を抱かれるのを承知で企んだのであった。


 そんなふざけた話しで、最強のアーツハンターをどうにかしようだなんて頭明かしいんじゃないか? とさえ俺は、勢い余ってベイウルフに言ってしまったぐらいだ。

 まぁそれは、聞かなかった事にしてくれたが……


「間もなく、ここにアーツハンターたちは来るじゃろう」

「はい」

「その前に、お前が剣の聖地でどれ程の力を身につけたのか? 死神を、強いてはドランゴを倒せる力を手に入れたかどうか? それを確認しなければ、儂は死んでも死に切れん! おっと……死ぬつもりは毛頭ないがな」

「……はい」


 この話しの真意も、俺はベイウルフから聞いていた。


 元々ギレッドの隠れていたこの場所は、見つかるのも時間の問題だったらしい。

 そうなれば、命令に逆らえない大量のアーツハンターたちは死に物狂いでギレッドを捕らえに来るだろう。結果、ギレッドは捕まり幹部たちに殺される。


 だから……ギレッドは、その前にどうしても俺と最後の稽古と称して戦いたいそうだ。


『そんはふざけた話し、無実が証明されでば、幾らでも戦う事が出来るのでは?』とベイウルフに反論したのだが……

 仮にギレッドが無実と証明されたとしても、協会長ローラの殺害の実行犯を知っておきながらの逃走。真実を伝える事なく事態を長引かせ逃亡。長期的に、アーツハンターへの信頼を陥れたと言う事で、処刑はされなくとも処断は免れないらしい。


 要するにだ。

 周りの人たちが納得するぐらいの弁明しようとも、幹部たちは何がなんでもギレッドを表舞台から引きずり降ろす為なら、理由は幾らでも後付けするとの事だ。


 実にふざけた話しだ。


 結果がどうなるのかは、誰にもわからない。

 だが、ギレッドと万全の状態で戦えるのは今この時のみ。

 これは間違いない事で、俺もギレッドもあの時戦っていれば……と絶対後悔するのは目に見えている。だから戦え。と俺は、何度もベイウルフに諭され続け、渋々納得させられたのである。


 “納得しないと案内しない。とも言われたけどな……”



「さてと、儂に聞きたい事……あるじゃろう?」

「確かに……そりゃ色々とありますよ」

「そうじゃろ、そうじゃろ。では、知りたくば拳で……いや全身全霊をもって儂に語りかけてみろ!! ルークっ!!」


 アーツハンター史上最強の男と呼ばれるギレッドは、年甲斐もなく手加減するつもりはないらしい。

 全開に近い闘気が爆発して行く。


「……」


 “最後の戦いか……俺的にはそんなの嫌なんだけど……”


 ギレッドの闘気に応えるかのように、俺も闘気を纏い始めるのであった。




 ------



 小手調べとかは、不要だった。

 ギレッドとは、今まで幾度となく戦ってきたから。

 いや、あの時は一方的な戦いとも言えた。


 だが、今回は違う。

 俺はこの時の為に、修行をしてきたようなものだ。

 最後とかそんなの関係ない。

 ただ、悔いが残らないよう最初から全力で挑む。それだけだ。


「うぉりぁっ!!」

「ふんっ!!」

 俺とギレッドの叫び声と共に、拳と拳は激突。

 衝撃に耐え切れなかった大地は瞬く間に地面を凹ませ、深い深い大きなクレーターへと変貌して行く。


「うわぁ……師匠は、相変わらずの規格外っぷりの強さだけど……あいつ(ルーク)闘気もちかよ」

 ベイウルフは、クレーターの上でそう呟いていた。



 あの時……

 メシュガロスで見せてくれたドランゴとギレッドの戦い。

 言葉を通り俺はあの戦い目に焼き付けていた。今でもあの死闘は目を閉じれば鮮明に思い出す事が出来る。

 俺とギレッド。共に作り上げたクレーターは、巨大隕石が衝突し地面に大穴が開いてしまったかのような深くて広いクレーターで、あの時とは比べ物にならないくらいの大きさであった。


「ふはははっいいぞっ!! ルーク!!」

 どうやら第一関門は、喜んでもらえたようだ。だが、俺には全開で闘気を纏っていられる時間は、ギレッドよりも短い。

 これは今後の課題でもあるが、そもそも全開でやらなければギレッドと互角の戦いは不可能であり、俺としても最初から全力で挑みギレッドには、一ヶ月で十年分の修行の成果を見せつけたかった。


「ギレッド先生、全開で行きます!」

「こいっ!!」


 俺の拳が直撃すれば、ギレッドの拳はすかさず俺の身体にズシンと響き渡るかのような衝撃を与えて来る。


 “くっ……相変わらず、重い一撃だ”


 これをにこやかにとても嬉しそうな顔をし、それでいて余裕で繰り出して来るギレッドは純粋に凄いと思う。

 闘気を一瞬でも解除するものなら、たちまち勝敗決する。破壊力抜群の攻防だった。


「どうした? また余計な事考えているのではないのか?」

「癖でして……」


 短く答え、距離を取りながら移動しつつ今度は、不死鳥の力を借りていく。


「ほぉっ?」

 アーツを発動しないで、闘気を焰の闘気へと変えていったのは流石のギレッドも驚きが隠せなかったみたいだ。

 筋力が一瞬、強張ったのを見逃さなかった。その隙をついての攻撃。

 コンマ何秒遅れてギレッドも対応してくるが、構わず繰り出し再び激突!


 今度は俺の拳だけ(・・)が、ギレッドの身体を直撃していた。


「くっ……!」

 俺の攻撃によってギレッドは、三歩程後ろに下がっていく。


 闘気を全身に纏っているとはいえその大半を拳に集中させている為、当たればそれなりのダメージを与える事は出来るだろう。

 だがそれは、あの時……そう闘気を覚えたての俺がどんなに闘気を高めようと無理な話しだった。


 しかし、今は違う。

 自ら申し出た修行ではあったが、実際シュトラーフェの修行内容は厳しく死ぬかと思った事も何十回もあった。そしてその修行を乗り越えたお陰で、俺はギレッドを仰け反らせる程の闘気を手に入れる事が出来ていた。


 じぃぃーーーんと今だに衝撃は残っている拳を見ながら、頑張って良かった。と素直に思えた。



「ふはははっ!! なかなかやりおるわい!」

 ……直撃し仰け反らせる事は出来たが、悔しい事にギレッドはまだまだ余裕がありそうだった。

 あそこで追撃していれば、更なるダメージを与える事が出来たかもしれなかったが、俺には喜びの方が優ってしまっていた。


「よし、一発当てた褒美に質問して良いぞ」

「なっ!?」


 “拳で語れってそう言う事かよ!?”


 疑問に思う事は多々あるが、まぁ答えてくれると言うのだ。今はその言葉に従う事にした。


「……なぜ、隠れていた場所がここなんですか?」

「ほぉぉぉ〜どんなに荒れ果てようが、忘れるわけがないって事のようじゃな」

 質問に受け答えしながらも、容赦無くギレッドの豪腕が頭上を通過していく。

「当たり前です。ここは、俺の生まれ育った村……アーツバスターの手によって壊滅したロサの村です」

 俺もそう言いながらも拳を握り締め、下からすくい上げるように突き出すのだが、交わされてしまい体制を崩し所で、ギレッドの衝撃波が俺の身体を直撃。

「ぐっ……!!」

 僅か三歩しか後退させられなかったと言うのに、ギレッドは簡単に俺を後方へと弾き飛していく。


 “この力の差は、一体なんなんだよ!?”


 クルクルと身体を回転させ、ダメージを分散させて行くのだが痛い物は痛かった。


「いってぇ〜はぁはぁ……ギレッド先生はドランゴと戦いトドメを刺そうとした時言いましたよね?『我が孫、アルベルト・ゼナガイアの仇』と……」

「確かに言ったのぉ」

 深い深呼吸をした後、闘気を整え再びギレッドに突撃して行く中、俺も質問をやめない。

 我ながら器用な事をしていると思う。

「ギレッド先生が、この村に身を潜めていた事と孫発言」



「……全ては繋がっているのではないですか?」

「ふはははは。その通りじゃ」


 ギレッドの言葉に、ピタリと動きが止まってしまった。


 “ちょっとまて!? 俺にとっては笑い事じゃない。俺の父親はアルベルトだ。と言う事はだ……ギレッド先生は俺のひいじいちゃんって事か!?”


「隙だらけだぞ、ルーク」

「!!」


 “しまった!!”


 そう思った時、既に遅かった。

 考えごとに頭はいっぱいとなり、ギレッドから放たれる衝撃波をもろに浴びてしまうのである。

 それでも、咄嗟に闘気を全開にし防御面に回したお陰で、勝負を決する決め手にはならなかったが、今ので攻防で殆ど闘気は無くなってしまったようだ。


「はぁはぁ……」

 視界がぶれる中、ギレッドは更に俺の集中力を削ぐかのように語りかけてくる。

「アルベルトは、血の繋がった儂の孫じゃ」


 “まっまじかよ……”


「そしてルークお前は、儂にとって大事なひ孫じゃな。ロールライトで初めて会った時、儂は幼いアルベルトかと思ったぞ」

「……」


 闘気を再び展開させていくのだが、ギレッドの語る話しが気になり上手く闘気はまとまりきらないのが現実だった。


「ルークよ。この程度で話しで動揺しとるようでは、まだまだ未熟域じゃのぉ!!」

 ギレッドは容赦なく次々と攻撃を繰り返し、俺も負け時と闘気を使いながら避け続けるのだが、防ぐのに手一杯となり、それは……次第にジリ貧へとなって行った。


「くそっ……」


 未熟。

 そう言われてしまえばそこまでだが、当時の俺は五歳。

 五歳児の俺に父や母が、この話しをした所で当然理解出来る筈もない。


 これは、ギレッドの策略と俺は解釈した。

 どう考えてもこの曽祖父発言は、明らかに動揺してしまうだろう!? 考えるなってのが無理がある。


 だから、俺は割り切った。


 確かに話しの続きは、凄く気になる。

 ギレッドが俺の曾祖父だなんて、想像した事すらない。

 だがこれ以上この話しを聴き続けていれば、深みにはまり俺の集中力は削がれて行く。

 結果負ける。なんて結果俺は望んじゃいなかった。


 グッグッと力を込め、身体を巡る闘気が後どれ位残っているかを確認していく。


 “闘気は残り少ない……な。このままじゃ負けは確実。ならば……今は先ずこの戦いに集中しよう。爺さん発言は後からじっくりと聞く!!”


 己自身にそう言い聞かせ無理矢理、思考を停止させていく。

 そして……最後の攻撃のつもりで。ありったけの闘気を全開に出し、俺はギレッドに突進。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


 そんな俺を見ながら、ギレッドはニヤリと笑い腰をグッと落とし始め拳に力を溜めだしていた。


 “あの構えは?”


 腰を捻るように突き出し、掌から繰り出された衝撃波は俺に襲いかかってくる。

 それはラッセルでギレッドが、俺に闘気伝授の時に使った技だった。

 しかし、あの時よりも遥かにやばく、手加減が一切ない攻撃。

 闘気のみで耐えきるのは無理。と言うのは既に身を持って知らしめている。

 この攻撃を打破出来るのは、黒のアーツのみ。

 突進するのを急停止し、耐え切れるように両足に力を込め左手を前に突き出し叫ぶ。


「黒のアーツ発動!!」


 衝撃波が、発動した黒のアーツ諸共俺を弾き飛ばそうと激しい音を立てている中、踏ん張っていた両足もジリジリと地面をこすりながら徐々に後退していく。


「くっ……!!」


 “とっ闘気が足りない……”


 持ち堪えられたとしても後、ほんの数秒。

 数秒先には黒のアーツを吹き飛ばし衝撃波は俺に直撃する。

 そうなれば……


 “いやだ……ギレッド先生に俺は成長した姿を見せつけるんだ!!”


「グッ……このまま負けてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 黒のアーツは、俺の意志を汲み取るかのように光り輝く。

 そして、衝撃波を消し去るのではなく……


「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 衝撃波を吸収し、不死鳥を使って俺の体内に力を巡らして行く。


 ブォォォォォォォン!!


 力がみなぎってきた。

 全身に失った闘気が戻ってくる。

 いや、以前よりも遥かに闘気の質が違うような気もしたが、考える事を辞め俺はギレッドの視界から消え失せた。


「なんじゃと!?」

 驚いているギレッドの目の前に現れた俺は、素早く二発身体にお見舞いしていく。

「ぐっ……」

 怯んだ隙に両手にありったけの闘気を集中させ、焰の闘気を思いっきりギレッド目掛けて叩き込んでいった。

「だあぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ちっ!!」

 俺の叫び声と共に、この場にいる俺とギレッド諸共吹き飛ばす勢いで焰の闘気は爆発したのであった。



 爆炎が立ち込める中、ベイウルフは只々唖然として見ている事しか出来なかった。

「……」


 クレーターの下では次第に煙は晴れて行き、視界が見えていく中ベイウルフは目を細めて見下ろしていたのだが、その場に立っている者はいなかったのである。



「はぁはぁ……」

「……ぜぇぜぇ」

 俺もギレッドも、闘気切れで立っている事もままならず両手を広げて空を見上げていた。


「はぁはぁ……」

 呼吸を整えるのに精一杯だった。

 先に呼吸を整え、上半身だけ起こしたのはギレッドだった。

「……おいルーク……はぁはぁ……お前今、何をやったのじゃ……?」

「しっ……知りませんよ……」


 無我夢中だったから、はっきり言って覚えていなかった。

 あの時ギレッドの衝撃波を、闘気では防ぎきれないと感じ黒のアーツを発動した。ただそれだけだった。



「ふはははははっ!! 無意識の中で導き出した答えっと言った所じゃな」

「はぁはぁ」

 ギレッドの笑い声が響き渡る中、そっと俺に向かってごつく逞しい手のひらが差し出されていく。

「強くなったな。ルーク」

「……」

 その言葉、今の俺には最高の褒め言葉だった。





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