第九話 火の街ロールライト 〜終〜
アードとセイントは『水の街ヴァル』にいるペリア・ヒーンにルークの目を看てもらうべく訪れていた。
ペリアに会えば、治してもらえると思っていた矢先にペリアは『私達がついた頃には、その子は失明しています』と言われアードたちは、途方に暮れていた。
「ペリアさん、なんとかなりませんか?」
「ん〜」
ペリアは返答に困っていた。
時間的に今から行っても間に合わないのは事実。
無駄骨になるぐらいなら、このままお引き取り願った方がまだいい。とさえ思っていた。
だが、アード諦めきれなかった。
「まだ五歳の子供なのです。アーツバスターたちに村は滅ぼされ、その中でたった一人生き残ったのです……これ以上辛い目には……」
「何でもやります!!」
アードとセイントの言葉にペリアは負けたのかもしれない。
迷いのない、絶対助けて上げたいと言う二人の意思にペリアは正攻法で行く道を諦め、ある男を頼る事にした。もしかしら、彼らが気に入るってくれる事が出来るのなら最短距離の道でロールライトに行けるかもしれない。
そう結論を出しペリアは口を開いたのである。
「……貴方たちは全財産全て投げ出してでも、その少年を助けたいとお思いなのですか?」
「はい!」
アードとセイントは、迷う事なく即答しペリアを見据えていた。
そして、その覚悟を見届けたペリアもまた、そうまで思われている子供に会ってみたいと思わずにはいられなかったのである。
「わかりました。では、ついてきて下さい」
ペリアは詳しい事は何も話さず、アーツハンターギルドを後にしたのであった。
『水の街ヴァル」にも、商店街、貴族街、繁華街、スラム街等があり、賑わいに満ち溢れていた。
繁華街を通り過ぎ、更に奥に進むと岩に囲まれた家が立っており、ペリアはその中へと恐れる事なく入って行くのである。
アードは見た瞬間ここはならず者が集まる集団。という事を理解し臨戦態勢に入るのだが、目の前にいるペリアは平然と執事の人となにか話していたのである。
「ルドベキアはいるかしら?」
「はい、こちらです」
アードたちは、案内されるがまま応接室へと入って行く。
意外と整理整頓の行き通った部屋にセルビアもこれくらい出来ない物かとかんがえていると、がっしりとした体型の男が現れたのである。
「ペリア、久しぶりだな!」
「えぇ」
ルドベキア・フォン・ガーファンクル。
彼は表向きは、アーツハンターとしてならず者集団のリーダーでありその目的は統率、厚生する為の組織を作り上げていた。
しかしその一方では、闇取引・更には奴隷商人としての裏の顔を持っている人物である。
なぜ裏の顔を持つ人間をアーツハンター協会が罰しないのか、それはわからないがルドベキアは捕まらずに今も生活をしているのである。
「それで、今日の要件は?」
「私とここにいる二人をロールライトまで行きたいの。それも早急に……ルドベキアに頼んだらどれくらいで着くかしら?」
「金次第だな、そこの二人の装備しているアーツは【剣、盾、そして鎖のアーツ】だろ? それ全てを渡すというのなら、明日には着くぜ」
「!!」
その言葉にアードは驚きが隠せないでいた。
そもそも、このような場所が存在していた事自体アードには信じられない事実。
そしてこのような、闇取引的な物をしてもよいのかアードは判断に困っていた。
「最終決断は任せます」
ペリアは二人の顔みながらそう言い、アードとセイントはうつむき考え込んでしまうのであった。
「ペリアさん」
先に質問したのは、セイントであった。
「明日着けば、なんとかなるんですか?」
「ゼロではありませんわ。ただ先ほども申し上げましたように、三週間かけて戻るのでしたらそれはもう手遅れです」
ペリアの言葉にセイントは自らのアーツをギュッと握りしめ、決意したかのようにルドベキアの顔を見据えていくのであった。
「ルドベキアさん、俺の【鎖のアーツ】だけではダメですか?」
「足りないな」
「では俺の命を!!!」
セイントは立ち上がり、そう言った。
セイントはセイントなりに真剣なのであったが、その言葉を聞いたアードは怒鳴り出すのである。
「それはダメだ!」
「でも早く行かないと………」
アードはセイントの襟首を掴み。
「アーツハンターは、理由なくアーツを紛失した場合、それは死刑になる決まりだ」
「なら理由を言えばいいでしょ!!」
「ルークを助ける為に、闇取引をしましたってか!! そんな理屈は通らないんだよ!!」
アードはセイントを突き飛ばし更に怒鳴りだす。
「セイント、お前はなにも反省しちゃいない!」
アードは熱く肩で息をするほど興奮。
「じゃどうすればいいんですかっ!?」
「くっ……」
拳を力強く握りしめたアードはセイントの質問には答えず、冷静さを保つ為に深呼吸。
その後再び椅子に座りなおしていくのであった。
「……ルドベキア、アーツの取引はしない」
「…………」
「別な方法なら、なんでも乗ろう」
ルドベキアはアードの真剣な眼差しに一度も、目をそらす事はなかった。
「一つ聞いていいかい?」
「なんだ?」
「あんた程のアーツハンターがなぜ、見ず知らずの五歳のガキにそんなにこだわる?」
「約束したんだ、必ず戻ると………」
「その為には全て賭けると?」
「あぁ………」
ルドベキアはアードの熱意に負けたのか?
「全財産置いてけ。死ぬ覚悟があるなら、5日で着ける通り道を教えてやる。これなら闇取引にはならんだろ。通り道をお前たちは、俺から買ったんだ。無事に通り抜けれるかは知らんがな」
「危険なの?」
ルドベキアの不気味なニヤリとの笑い顔にペリアはゾワゾワとした。
「そこはドラゴンが出る」
「!!!」
アードとセイントは全財産をルドベキアに渡し、五日で着けるという超危ない通り道を教えてもらい、大急ぎで『水の街ヴァル』から旅立つ事にしたのであった。
◆◇◆◇◆
セルビアはそわそわしていた。
落ち着いていたはずのルーク状態が、突然高熱を出し意識不明になってしまったからである。
医者にも手に終えず、セルビアとアルディスは交代で看病を続けていたが、日に日に弱って行き危険な状態だと言う言葉見てすぐにわかった。
「セルビア、変わります。休んで下さい」
「でも………」
セルビアはルークの側から離れようとはしなかった。
「支部長セルビア!! 貴方が看なければならないのは、その少年だけですか!?」
「アルディスちゃん?」
「貴方にはロールライトに住む、アーツハンターギルドの長ですよ! 休む時にはきちんと休んで下さい!!」
アルディスの言葉にセルビアはようやく納得したのか頷きながら、部屋から出ようとした時ドアは勝手に開いていく。
そこには激しい戦闘があったのか、服はボロボロになったアードとセイント、そして見慣れない女性が立っていたのであった。
「アードちゃん?」
「セルビア……遅くなってすまない。ペリア・ヒーン連れてきた」
「はじめまして、ペリア・ヒーンです」
「支部長のセルビアです」
ニコッと笑い、ペリアはルークの側に行き服を脱がし全身をくまなく看ていていく。
そして、額・両肩・お腹・両足に小さな石を置きブツブツと言い出したのである。
「【天使のアーツ】発動……天使の息吹」
ルークの真上に白い羽が生えた天使が現れ、スゥ〜と息を吹きかけ消えていく。
息を吹きかけられた小さな石は、光出し次第に石と石は一つの線と線で結ばれていった。
ペリアはそっとルークの目に手を当て……
「汝、光と共にあれ」
光はスウッとルークの中に消えて行き、石は粉々に散り去っていくのである。
ペリアは立ち上がり、心配そうに見守っている皆の方に振り向き。
「時期、目が覚めると思います」
「目の方は???」
「こればっかりは、目が覚めてからのお楽しみですね」
「えっ!!」
「この子、死にかけていました。さっきはそれを優先させてもらいました」
ペリアは別室で休み、セイントがルークを看ているとの申し出に甘え、アードはこれまであった事をセルビアとアルディスに説明するのであった。
「そう。アードちゃんが、マーシャルたちを助けてくれたのですね」
「あぁ……」
アルディスは腕を組み壁の方で聞いていたが、アードの様子がおかしい事に気がついた。
「で? これから、どうするんだ? 幹部達と旅していたのなら、なにか聞いているのではないか?」
「鋭いな、アルディス………俺は、ルークをここに置いて行く。セルビア、後の面倒頼めるか?」
「えっ?」
「俺はこれから、北にあるガルガゴス帝国領に行く」
「!!」
ガルガゴス帝国領の首都は、アーツバスターの本拠地と言われておりアーツハンターが一歩足をふみいれでば、たちまち捕まり生きては帰れないと言う大変危険な場所である。
「アードちゃんなぜそこに?」
「すまん。言えない」
「ちゃんと生きて帰って来ると、約束出来るか?」
「あぁ」
「なら、なにも聞かない」
それ以上セルビアとアルディスは、アードになにも聞けなかったのである。
◆◇◆◇◆
ハァハァ……………
俺は今あたり一面真っ暗な所を、ひたすら走っている。
なぜここにいたのかわからない。
だけど、気がついたらここで倒れていた。
そして、闇が突然俺を襲い闇に引きずり込まれそうになり、慌てて振り切り走っている。
出口の見えない、永遠の闇の中を………
突然目の前にアードが現れたのである。
「アードさん!!」
アードは黙ったまま、俺に近づいてくる。
なにか様子がおかしい………
アードは【剣のアーツ】を発動し、俺に切りつけてきた。
間一髪、白羽どりみたいな感じで剣を受け止める事ができたが、アードの攻撃は止まらず俺を蹴り飛ばし間合いをつめてきた。
「あっ………うあぁぁぁぁ!!」
咄嗟に左手の【黒のアーツ】が発動し、アードを消し去り闇だけが残っていた。
「ぁぁぁぁぁ!! アードさん!!!」
その場でうなだれながら倒れこみ、俺は闇に引きずり込まれていくのがわかった……
目の前では村のみんな、この短い旅で出会った人達が現れては消え、現れては消えを繰り返していた。
気が狂いそうだった。。
最初は助けようとしたが手が届かず、次も助けられず……
次第に俺の五感は麻痺し、なにも考えられなくなった……
目を閉じ、闇に全てを預けたくなってきた。
しかし、完全に闇に落ちる事はなかった。
最後の抵抗なのか、一筋の小さな光が見えてきた。
そして、セルビアの声が聞こえてくる………
「ルークちゃん、【白のアーツ】!!」
アルディスは……
「お前は誰も殺しちゃいない。安心しろ」
セイントは……
「すまなかった」
アードは……
なにも言わずそっと手を差し伸べてきてくれた。
その手をしっかりと掴み闇の中から俺は脱出。
目が覚めた。
「ゆっ夢……………」
目の前にはセイントがいた。
目が覚めた俺に話しかける事なく、セイントは慌てて皆を呼びに行くのであった。
見知らぬ女の人が、俺の側に座りながら優しく話しかけてきた。
「気分はどうかしら?」
「えっと…………みなさんの方が、具合悪そうです………」
「きちんと見えているようね」
「……はい」
ぼやけて見えていたのが、はっきりと見えていた。
セルビアとアードは泣くのを我慢し、アルディスもやれやれと言う感じて俺をみていた。
そして、セイントは俺に近づき頭を深く下げてきた。
「すまなかった………」
「夢の中でもセイントさん、謝っていましたよ」
「?」
セイントには訳がわからなかったが、それでもいいと俺は思った。
それから更に一週間が立ち落ち着いた俺を見て、安心したペリアは『水の街ヴァル』へと帰って行くのであった。
俺はセルビアに、執務室に来るように言われ執務室へと向かう。
執務室に入ると机の前にセルビアが座っており、その隣にアルディス。その反対側にはアードとセイントが立っていた。
「ルーク・ゼナガイア、貴方にはアーツハンター協会の幹部達が出した、決定書があります。これは、貴方のこれからの事についての書かれた物です。まだ一度も封は切ってはいませんので、私にも内容はわかりません。これから読み上げようと思いますが、いいですね?」
セルビアの言葉に俺は黙って頷いた。
『ルーク・ゼナガイアについて、アーツハンター協会は次の事項を決定とする。
一、【黒と白のアーツ】は封印する
一、アーツの発動を禁じる
一、10歳になるまで一般学校に通い、知識を高める事
一、10歳になった時アーツハンター訓練施設へ入学する事
一、ロールライトから出る時は必ず支部長に報告する事
ただしこの事項はアーツハンター訓練施設に入学するまで有効である。
これらを守られぬ時があった場合、如何なる正当な理由があろうとも認めず、監禁、拘束、または処刑とする。以上』
「まだあります………」
『アード・フォン・ルフにアーツハンター協会は次の事項を命令する。
一、今後ルーク・ゼナガイアとの交流を禁じ、本来の自分のやるべき事をやる事
『セイント・イーザスにアーツハンター協会は次の事項を決定とする。
一、【鎖のアーツ】は没収する
一、アーツハンターの資格剥奪
一、ルーク・ゼナガイアとの交流は今後一切禁じる
以上』
俺には難しく、さっぱりわからなかった。
「これはまた………」
「この決定は、幹部四人で出した結論です……どんなが事があっても決定事項で……覆る事はありません」
セルビアは皆が反論する前に言い切った為、誰もなにも言えなくなった。
「支部長、俺は……後悔はしていません………」
セイントはセルビアに【鎖のアーツ】を差し出した。
セルビアもなにも言わずに受け取ったのである。
「ちょっと待って下さい。なんでセイントさんがアーツを外して、セルビアさんに渡すのですか?」
「俺がルークに悪い事をしたからだよ」
「セルビアさん、俺は気にしていないよ! だから、セイントさんの事許して上げて下さい」
「そおいう問題じゃないんだ。もう決まったことなんだよ。ルーク」
「それでアルディスさんは、納得したのですか!??」
「俺だって納得はしてないよ、だけどしょうがないんだよ!」
「じゃなんとか……」
「ルークいい加減にしろ!!」
アードに怒鳴られ俺は黙り込む。
アルディスの言っている事も、セルビアがセイントのアーツを受け取った事も、セイントがアーツを差し出した事全てが納得できなかった。
「ルーク気にするな………」
セイントは寂しそうに俺の頭を撫でていた。
そこには微かに涙がうっすらと見えた。
「アルディスさん、お世話になりました………」
弟のように可愛がっていたアルディスにとってセイントの処遇には、納得は出来なかった。
出来なかったが、セイントを助ける事はアルディスには無理だった。
アルディスはセイントになにも言えないまま、セイントは執務室から出て行き、アーツハンターギルドには二度と顔を見せる事はなかったのである。
「アードちゃんの心は、もう決まりました?」
「あぁ、俺はルークの目の前から消える」
「えっ!?」
「さっき、セルビアが読み上げただろう? 意味わかんないのか?」
「アルディスさん、難しい言葉だったのでわからなかったです」
三人は頭をポリポリかきながら、セルビアはもう一度俺に説明してくれた。
「わかったかしら? ルークちゃん?」
「うん………もうアードさんに会えないって事はわかりました………」
アードは、俺の方を向いてはくれなかった………
そして一度も話しかけてもくれなかった………
「セルビア、ルークの封印は今するのか?」
「えぇ」
「そうか、では俺はそれを見納めてから、旅立つ事にする」
セルビアは、奥の部屋に行き、しばらくしてから戻ってきた。
そして、俺に腕輪を二つ渡してきた。
「ルークちゃんこれを………」
「これは?」
「アーツの発動を封印する腕輪『アーツブレイカー』です」
俺はセルビアから『アーツブレイカー』を受け取り両腕にはめる。
すると、【黒と白のアーツ】の文字を覆いかぶさるように【封】の文字が浮かび上がった。
「これでルークちゃんは、【黒と白のアーツ】を発動する事は出来なくなりました。十歳になるまで、『アーツブレイカー』はずっとはめてて下さいね。無理に外そうとすると、怪我しちゃいますから気をつけて下さいね」
「セルビアそろそろ俺は行く。ルークの事任せてもいいんだな?」
「えぇアードちゃん」
アードは俺の側に来て元気でな、とだけ言って姿を消した。
俺の声はアードに届いていたはずなのに、一度も振り向いてはくれなかった。
突然アードは俺に対して冷たくなった、その理由を聞きたかった。
そして
「ありがとう」
と言いたかった。
俺はアードにお礼を言う機会をもらえず、別れる事になってしまった。
俺はアードの後ろ姿をみながらずっと泣いていた。
そして……
身寄りのない俺は引き続き、セルビアの世話になり一般学校に通う事になった。
少年編序章終わりです。




