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真夜中探偵事務所  作者: どらごん
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第1話 特別篇 下 『夜』

トモユキが消えたのは〝惡魔〟という存在のせいらしいが、正直信用ならない。今、自分が存在しているここも裏世界と呼ばれる、普段俺達が生活している世界とは真逆の世界らしい。そして極め付けの、この俺が真夜中探偵って言う訳のわからない探偵に選ばれてしまったって事だ。


「早く慣れなさいよ。この業界でやってくには慣れが一番。下手に考えすぎない事が大切ね」


「はぁ…」


 篠原カオリは月明かりに照らされた廊下を駆け足で突き進む。裏世界だと警備も無いのだろうなぁとか、ぼんやりと考えながら後に続く。

 Mr.ハードボイルドと別れてから人気のない校舎を探索してどれくらい経っただろう。篠原カオリは依然としてそのふくれっ面を前面に押し出したような口調で話す。


「何であんたの友達が惡魔にこっちの世界に引き込まれたかは解らない。ただね、時間は無いの。さっき言ったでしょ? 存在そのものが消えちゃうって。あんたの友達の存在が表世界で消えたのが早くて昨日の夜。24時間はとっくに経っているって考えた方が良いわね」


「じゃあ、トモユキは…?」


 篠原カオリは走りながら振り向いた。月明かりによって艶やかに黒光る長髪の中の白い肌。黒く澄んだ瞳をこちらに向けながら。


「かなり危ない状態、はっきり言うとね」


 一瞬にして俺の心の中に緊張が走った。額からじんわりと汗が滲み出た。


「だったら、早く見つけないと!」


「だからこうして校内を走り回っているじゃない。惡魔は校内でしか活動できないの。ほら、見て。月よ。惡魔は月明かりの下じゃ活動できないの。だから校舎とか建物の中、月明かりが届かない所にいるのよ」


「そ、そんな…。月明かりが届かない所って、学校以外にもあるだろ? ビルの中とか、森の中とか」


「残念。惡魔はその活動範囲が双葉学園に限定される。何でだと思う?」


 篠原カオリの顔に笑みが浮かんでいる。はしゃぐ少女のように楽しげだ。

 俺は単純にわからないと答えた。すると彼女は、その答えが来る事を予測していたように、またその美しい顔に浮かべる笑みを強めて…


「この学園、結界が張られているからよ」


「結界…?」


 そう、と満足げに頷いた。


「ファンタジー小説とかの結界とはまた違ってね。魔法陣とか、呪文とかで出現させるものじゃないの。双葉学園高等学校は、裏世界の中でも特別な地点に存在している。あっちを見て」


 篠原カオリが指さす方には、真っ暗な街並みが広がっている。


「あそことここ。一見見ると全く同じ空間に存在しているように見えるでしょ?」


「えっ、ん、まぁ…」


「でもね、この校舎を含む学園の敷地はあの街とは別の空間に存在している」


 別の空間? 彼女はまた、何かわけのわからない事を言い出した。恐らく、俺の顔はさぞかしアホらしい顔をしていたに違いない。


「平行世界って聞いた事があるでしょ?同じ時間に異なる世界が存在するって。表世界と裏世界はまさにそれ。でもね、裏世界の中にも異なる空間はいくつもあって、この校舎を含む学園の敷地が別の空間の中に存在しているわけ。空間と空間は互いに干渉する事無く、孤立してあるわけだけど、表世界から裏世界に来るように出入口はある。仮にこの私達が存在する校舎の空間がAだとすると、それ以外の空間がB。Aの空間のBとの出入口、そこからBが見える。つまり私達は、校舎の空間からそれ以外の空間を出入口から覗き込んでるってわけ」


 目が点になっている、と篠原カオリは俺に向かってそう言った。整理すると、表世界と裏世界があって、それはパラレルワールド的な感じで、そして裏世界の中にも空間がいくつもあって…。恐らくだ、この問題は俺の情報処理能力では処理しきれない。一般では理解できるレベルなのだろう。

 呆れたように俺を見ながら、篠原カオリは更に続けた。


「表世界から裏世界に人は来れないでしょ? それと同じ。惡魔はこの空間から別の空間には移動できないって事。空間と空間が完全に繋がってないからね。だから、この校舎に惡魔はいるって事」


 そんなこんなで辿り着いたのは、怪談話でお馴染みの音楽室や理科室ではない。横にスライドする扉を持ち合わせた教室ではないのだ。鉄製のノブを回し入ったその空間。360度、真っ暗な空間に侵入した俺は、当然ながら言葉では表現できない異様な雰囲気を感じ取った。

 篠原カオリが隣で何やらごそごそと動く。光が一切入ってこないこの空間で、いくら目を凝らしても何をやっているのかは見ることが出来ない。しかし、目の前が急に明るくなった。

 篠原カオリの手に握られているのは小型の懐中電灯だ。


「いくら扉やカーテンで遮られても、月明かりは侵入してくる。でも、唯一光が侵入する事がない部屋が、学校には一つは必ずあるものよ」


 懐中電灯の光で照らされたこの部屋。電子器具が備え付けられ、分厚い白い壁で覆われた奇妙な小部屋。


「ほう…そうしつ?」


「そう、放送室。外部の音を遮断する為に、ここには窓がない。だから月明かりが入る事も無い。惡魔の住処ってわけ」


 懐中電灯の明かりが照らし出す壁に寄り掛かるように座り込むトモユキがいた。慌てて駆け寄る。


「おい、トモユキ!しっかりしろ!」


 身体を揺さぶるが返事はない。瞼を閉じたまま、ぐったりとしている。


「お、おい! 死んでねえよな!」


「バカ、見てみなさいよ。息してるでしょ」


 肩が微かに上下している。胸もわずかながら動いている。

 さっさと行くわよ、と篠原カオリはトモユキの肩を担ぐ。俺も慌ててもう一方の肩を担ぐと、放送室を後にした。


「な、なぁ篠原。惡魔は何でトモユキを攫った?」


「さぁ、惡魔が人を攫う理由なんて色々あるから。でも、一番大きな理由が、〝器〟にする為よ」


「器…?」


 篠原カオリは真っ直ぐ前を向いたまま、淡々と述べる。


「惡魔は暗闇の中でしか活動できない。だから入れ物が欲しいの。月明かりとか、太陽の光とかから自分を守る為に。その為に人が器に選ばれるの。でもね、惡魔が人に入るには、その人の心、精神、いわば魂が邪魔なわけ。だから、魂を身体から追い出してしまう」


 嫌な予感が俺の心に充満した。


「トモユキの…魂は…?」


「…大丈夫よ、私には〝見えて〟いるから」


 何を、言っているんだ?俺が不思議そうに篠原カオリを見つめていると、気が付けば正面玄関まで来ていた。靴箱のすぐ近くに取り付けられた鏡を見ると、篠原カオリはここが出入口と言った。


「鏡が表と裏を繋げている。彼を早く」


「わ、わかった!」


 トモユキを俺に任せると篠原カオリは振り向き、鏡に背を向けた。真っ暗く穴を空けたように続く廊下をじっと見つめている。


「篠原、君は?」


「あいつらが、来る!」


 鏡の方を向く俺の腰を思い切り蹴る。飛び跳ねるように鏡に向かい倒れ込む俺。目の前に映る俺が目前に迫った瞬間に、突然として床が現れた。

 勢いよく床に顔面をぶつける俺。擬音語ともとれる訳のわからない悲鳴を上げながらのた打ち回った。


「何すんだよ!」


 赤くなった鼻を押さえながら、怒りのままに振り向いた。するとどうだろう、鏡の向こうに篠原カオリがいる。当然、鏡に映っているわけじゃない。向こうにいるのだ。


「篠原、君も早く!何やってんだよ!」


『そっちを見て、月明かりがない』


 思わず、正面玄関から外を見る。真っ暗な外が、月明かりが無い事を現していた。

 雲だ。雲が月を隠している。もう一度、鏡を向いた瞬間、奇声にも似た甲高い叫び声とともに現れた真っ黒な煙が勢いよく、篠原カオリを包み込んだ。


「篠原っ!」


 流れるようにして煙は俺の前を通り過ぎた。そして、鏡越しの廊下には居るべき存在の人物が消えていた。

 篠原カオリが惡魔に飲み込まれたのだ。篠原カオリがいたその場所には投げ捨てられた懐中電灯だけが転がっている。煙は目の前を通り抜け、廊下の暗闇に消えていく。


「な、何だよ…」


 思わず腰を抜かして座り込んでしまった。だが直ぐに我に返る。そしてある言葉が脳内に思い浮かんだ。


――ヤツらは実体がない。真っ黒い煙みたいな姿をしてるんだ。


 Mr.ハードボイルドが言っていた惡魔の姿だ。今のが、惡魔なのか? だとしたら、篠原カオリはかなり危ないんじゃないか ?篠原カオリだって偉そうな態度してたって、いくら真夜中探偵だからって言ったって、彼女は人間だ。惡魔が人を攫うのは器が欲しいから、彼女も器じゃないか。

 物凄く焦り始めている。汗だって、さっきの比じゃないくらい出ている。このままじゃ、彼女は…。


「ヤバいよ、ヤバいよ! どうしよう…」


 と、とりあえずだ。トモユキを月明かりの下に置いとけば惡魔は近付けないんだろ? 太陽の光でも良いみたいだけど、あいにく夜だ。しかも空には雲がかかっていやがる。だったら。

 トモユキの身体を支えながら俺は歩き出した。闇夜の教室に辿り着くと、壁に寄り掛からせる。教室の電気を付ける。人口の光が有効かどうかはわからないけど、今の俺ができる最大限の事はこれくらいだろう。いや、違う。もっとあるだろ、俺が出来る事が。


――彼女を、助けたいか?


 どこからか突然声が聞こえた。思わず辺りを見回す。がらりとした夜の教室に人は自分を含め、壁に寄り掛かるトモユキと二人しかいない。だけど、今、どこからか声が聞こえた。


「何だ、何だ! だ、誰だよ!」


 手が震えている。首筋を汗が流れる。額の汗はもちろんじんわりと滲み出ていた。

 震える声で声の主に問いかけた。今自分が出せる精いっぱいの大きさで。


――これを使え。


 目の前の空間が僅かに裂けた。真っ黒い亀裂からにゅっと生えるようにして出てきた包帯を巻いた腕、その腕は何か持っていた。机の上にそれを置くと、その奇妙な腕はまたその黒い亀裂の中へと戻っていく。亀裂は何事も無かったかのように消えてしまった。

 あまりの違和感に、俺は思わず硬直してしまった。いや、だって可笑しいだろ。どっからかわからない声が聞こえて、空間が裂けて包帯ぐるぐる巻きの腕が出てくるんだぜ? 唖然も何も、そりゃあ驚くだろ。


――後は、君次第だ。


 それっきり、声は聞こえなくなった。机の上に置かれたそれ。光沢を持った翡翠色に透き通った輝きを持った石だ。よくわからない。恐る恐るそれを持ってみるが、手触りも、見た目もただの石だ。



 * * *



 廊下に響くのは俺の足音だけだ。一切の音が無いこの廊下を一人走っているのだ。窓の外から除く月には雲が被さっている。惡魔が現れたらひとたまりも無い事は解っている。だけど、篠原カオリを放って置くわけにはいかない。

 勢いよく開けた放送室の扉。だがそこには篠原カオリはおろか、惡魔すらいない。くそっ、と壁に拳を叩き付ける。考えろ、校舎の中で放送室以外に月の光すら届かない真っ暗な所。何処だ、何処だ、何処だ!


「…視聴覚室」


 確か、映像とかを見るために暗幕が掛かっていたはず。閃いた瞬間に身体はもう動いていた。廊下を全速力で駆け抜ける。

 薄暗い廊下の突当りにある扉を勢いよく開けた。


「篠原っ!」


 懐中電灯で照らした先に倒れているのは紛れもなく篠原カオリだ。急いで駆け寄り抱きかかえる。あんなに威張り散らしていたのに今目の前にいる篠原カオリは酷く弱っている様子だ。それに、嘘だと思うほど柔らかい。女の子に触ったのなんてこれが初めてだけど、今はそれどころじゃない。急いでここを出なきゃ。


――何処ヘ連レテイクンダイ?


 瞑っていた目がぎょろりと開かれた。白目の無い真っ黒な目がこちらをじっと見つめていた。そうして、篠原カオリの口元が醜く、ぐにゃりと歪む。

 胸に衝撃を感じた。突き飛ばされた俺は涎を吐き出した。もがく俺を尻目に、篠原カオリはまるで糸に吊るされたマリオネットのように実に奇妙な動きでゆっくりと立ち上がった。


「し、篠原…?」


「あぁぁぁぁっ。イヒヒ…」


 不可思議な声を上げながら嫌に不気味な笑みでこちらを見直した。まさか、惡魔が中に? ぎこちなく一歩、また一歩と近付く篠原カオリ。歯を食いしばり、胸を押さえながら立った俺は思わず壁にもたれ掛かった。


「篠原、惡魔に、惡魔に器にされたのか?」


「コイツハ、器。ダケド、足リナイ。我々ハ多スギル。ダカラオ前モ、我々ノ器ニ」


 再び、醜い笑みを浮かべる篠原。思い切り振りかぶったかと思うと、俺の左頬に篠原カオリの右腕が迫った。吹き飛ばされる俺。弾け飛んだ俺は床に思い切り叩き付けられた。人間技じゃない、なんだこの怪力は。唇から血が出ているのを感じたけど、痛みはなかった。このままじゃ殺される。そう感じた俺はすぐに立ち上がった。扉に向かって駆け出すが…


「あか、ない…」


 鍵を掛けられたのではない、びくともしないのだ。まるで扉自体が巨大なコンクリートのように全く動かない。

 嘘だろ? こんな事ってあるのかよ。この高校に入学して早々に友人の存在が消えたり、別の世界行ったり、よくわからない探偵にされたり、そして、目の前の女に殺されかけている。不運過ぎるんじゃないかい? ゆっくりと迫りくる足音に焦りを感じながら、扉を必死に動かそうとする。

 すると、足音が止まった。全身から噴き出る脂汗がすっと引いた気がした。違う、全身から血の気が引いているんだ。ゆっくりと振り向く俺。歯を剥き出しにして目の前に立つ篠原カオリ。


「アァァァァァァァッ!!」


 甲高い奇声を上げた篠原カオリは右腕を勢いよく振り下ろした。思わず腕で顔を庇うと、俺の左手がありえないほどの光を放つ。何が起こったかなんて解るはずがない。指の隙間から溢れ出す翡翠色の輝きを持つ光が真っ暗な教室全体を照らし出し、同じように翡翠色に染めた。目の前の篠原カオリは悲鳴を上げながら口を大きく開ける。真っ黒な煙が口から勢いよく飛び出し、蒸発するように次々に消えていく。

 その光景をぼんやりと見ていると、ふと、顔を庇うように目の前に上げていた左腕に何かあることに気が付いた。あの時もらった、翡翠色の石だ。



 * * *



「恐らく、彼は穴に落ちたんだと僕は推測している」


 ぼんやりと柔らかく暖かな光に包まれた事務所の自らの机の前で、Mr.ハードボイルドは指を組みながらそう言った。


「鏡以外にもこの世界に入る手段が穴なんだ。表と裏を繋げてしまうその穴からは本来行ってはならないもの、来てはならないものが行き来してしまうからね。それを塞ぐのも僕ら探偵の仕事なんだ」


「じゃあ、トモユキはその穴に落ちてこっちの世界に?」


「そうだと思う。惡魔は存在自体が不安定なものだからね。異なる世界を行き来する事は出来ないから、彼らが浚ったとは考えられないからね」


 目の前に用意された椅子に座る俺はぼんやりとその話を聞いていた。


「それにしても、トモユキ君は勿論、カオリ君も君に助けられるとは思ってもいなかっただろうね」


「二人は、今どこに?」


「トモユキ君はあっちにいる僕らの仲間に。カオリ君はこの部屋の奥で休んでいるよ」


 Mr.ハードボイルドがちらっと見た部屋の扉。閉ざされた扉の向こうに篠原カオリが休んでいるのだろう。


「ただね、君が何でこれを持っていたのか。これが問題なんだ」


 机の引き出しからそれを取ると、机の上に置く。あの時、篠原カオリの中にいた惡魔を追い払った翡翠色の石だ。


「これが何なのかは今の段階では解らない。でも恐らく、とてつもなく危険な物だ。一体何処でこれを手に入れた?」


 Mr.ハードボイルドは真剣な表情だ。初めて会った時とは違う、鋭い目つきで俺を見ている。


「こんなこと言ったら、馬鹿にされるかもしれませんけど…。声が聞こえて」


「どんな?」


「彼女を助けたいかって、そしてこれを使えって。真っ黒い何だろう、隙間っていうか、亀裂っていうか。何にもない場所から包帯を巻いた腕が出てきて…」


 そう言いかけたとき、Mr.ハードボイルドの目の色が変わった。


「それは右腕、だったか…?」


「えっ、あんまりよく覚えていません。でもたぶん…」


――包帯を巻いた右腕でした。


 Mr.ハードボイルドは眉間を抑えたまま黙り込んでしまった。恐る恐る覗き込むとその表情は固く、とても話し掛けれるレベルではない。

 固く閉ざされた唇がゆっくりと開いた。


「もし仮にそれが包帯を巻いた右腕だとしたら、君は彼に狙われたことになる。これはかなり危険な問題だ」


「だ、誰に狙われたんですか? 俺って、何かヤバい事したんですか?」


 焦りだす俺を見つめると彼は考え込むようにして、篠原カオリがいる部屋を見た。そして顔を近づけ、耳元でそっと呟いた。


――君は、白鴉と接触したんだ。


「しろ…からす?」


 そうだ、とMr.ハードボイルドは神妙な面持ちだ。


「目的はおろか、本名すら解らない謎の男だ。一年前、ある事件があってね? 奴はその重要参考人なんだ。そして今そっちで休んでいるカオリ君もその被害者だ」


 Mr.ハードボイルドはまた耳に近付き小声で話す。


「君が白鴉に接触したということは誰にも言ってはならない。いいかい、これは絶対に守ることだ。今日はもう遅い、帰ってゆっくり休むことだ」


 そう言うと、机の引き出しから一個の懐中時計を出した。そしてそれを俺に向けると


「戻り時計だ。君の意識以外の全ての存在の時間を元に戻すことが出来る。これを君にあげよう。家に帰って、ゆっくり休んだらいい。明日、また君をここで待っているからね」


 と言った。彼は朗らかな微笑みを浮かべる。閉じられたままの懐中時計を見ながらそれを受け取った俺。もうこれがタイムマシンの一種だが驚くことはない。今日という短時間で色々ありすぎたからだ。

 軽く頭を下げた俺はドアノブに手を掛けた。暗闇の廊下が現れた時、後ろから声が聞こえた。


「良い夢を」


 彼ははにかみながらそう言う。俺は黙ってその部屋を後にした。

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