ハイスパートレスリング
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NIWP興行、本日の第五試合。メインイベントの二つ前に私の出番はやって来た。
相手は、「迎撃隊長」の異名を持つ、NIWPの門番、ブレイカー桜田。
この桜田を倒してこそ、NIWPのトップ陣と戦う資格がある。そういう位置づけの選手が通称「門番」だ。実力はもちろん、対戦相手にトラウマが残るほど痛めつける性向でも知られている。
『――青コーナーより、スター女子プロレス、「赤いカリスマ」秋山祐子の入場です!』
アントニオ猪木のような赤と白のガウンに身を包み、入場口で「シャアァァァ!」と気合の一声。
対抗戦ではないが、アウェーの会場は既にホームを応援するムードになっていた。応援よりも、私に対するブーイングの声が多い。私は正統派のレスラーだが、ここではヒール(悪役)。それならそれで、ハデにやってやろうじゃないの。
リングと観客に一礼してリングに上がると、リング中央で右腕を真上に高く突き上げてアピールし、リングに向けて拳を打ち下ろした。
そして、桜田が入ってくる赤コーナー側の入場口に向かい、首を掻っ切る仕草をする。
会場のボルテージが上がる。ブーイングはますます大きくなって場内を揺らす。
『――赤コーナーより、新国際女子プロレス、「迎撃隊長」ブレイカー桜田の入場です!」
特攻服と柔道着を足して2で割ったような服装で、ブレイカー桜田が登場する。観客たちは待ってましたとばかりの大歓声。観客の多くは、桜田によって連敗の鬱憤が晴らされ、気持ちよくメインイベントに入ることを願っている。
事実、下馬評では桜田の方が格上と見る向きが強い。
桜田コールが会場にこだまする。
『――只今より、秋山祐子vsブレイカー桜田の30分一本勝負を行ないます!』
カーン!
張り詰めた空気の中、ゴングの乾いた音が響き渡った。
――直後、桜田が猛ダッシュで距離を詰めてくる。
そして、初っぱなから、顔面へのナックルパート!
プロレスでは拳での顔面攻撃は危険なため、反則となっている。しかしファンはあくまで桜田の味方だ。私の顔面を桜田の拳が捉えると、観客席が大きく沸いた。異常とも言える高いテンションで試合はスタートした。
『――ワァァァアァァァアア!!行けぇ、桜田ァ!』
「――痛ッたぁ・・・・・・」
倒れはしないものの、ガクッと膝が落ち、片膝をつく体勢に。
ちょっと口の中を切ったか。かすかに血の味がしてきた。本気で潰す気みたいね。できたばかりの弱小団体と思ってナメられてるのかもしれない。
「アウェー・・・・・・ってことね。――上等じゃないのッ!」
すぐ立ち上がって、キッと睨み、右の拳を固めて殴り返す。
それほど効いている様子はないけど、顔へのパンチは布石。本命は、注意がお留守になった左足へのローキック!
ビシィッ!と弾くような音と共に、桜田の左膝が落ちる。続けさまにもう一発。体を吹き飛ばすような重いローキックが、桜田の左足を刈り取る。
いつもならここで一旦様子見だけど、今日は悪者だし、ケンカ売ってきたのはそっちなんだから、容赦はしない!
続けて、倒れている桜田の脇腹にキック!
悶絶の表情を浮かべる桜田。
「新国際女子プロレス、こんなもんか!?アタシがぶっ壊してやるよ!」
倒れている桜田をもう一度全力で蹴飛ばし、観客席に対して「どうだ!」とアピール。
その隙に桜田は立ち上がり、張り手の連発からブレーンバスター。しかし、しっかり受身を取っておけばそれほど痛くはない。
しかしさすがにキャリアの長い桜田、私の得意な打撃戦では不利だと感じたようだ。組み付いてからの投げを中心に試合のリズムを掴もうとする。ボディスラム、フロントスープレックスと、様々な投げを繰り出して私のスタミナを奪いにかかる。
しかし、毎日バカ力の山倉に投げられているせいか、正直、どの投げも軽く感じる。
試合開始から3分過ぎ、ロープに振ってからのローリングソバットが一閃し、桜田の脇腹にめり込む。最初のキック連発と同じ所に当たったらしく、悶絶の桜田。ここからキックの雨あられを胴と左足に集中させる。
総合格闘技のような、こういう戦い方は正直好きではない。しかし今回はアウェーだし、旗揚げ興行を前にエースの私が負けるわけにはいかない。
キックのコンビネーションから最後はハイキックでダウンを奪い、吊り天井固め。しかしギブアップまでは取れない。さすがに門番、桜田も粘る。
桜田の意地のスリーパーやジャーマンスープレックスを浴びるも、私の攻撃の手は緩まない。すぐさまバックドロップやジャーマンスープレックスで反撃。
フラフラですぐに立ち上がることができず、片膝をつく桜田。その逆の左膝を駆け上がっての、顔面への膝蹴り!これが私の必殺技――シャイニングウィザード!
何とか起き上がろうとするところに、もう一発シャイニングウィザード!!!
力なく崩れ落ちた桜田の体を上から押さえ込む。
『カウント!ワン!ツー!・・・・・・スリー!』
○(SWP)秋山祐子vsブレイカー桜田(NIWP)×
6分32秒 シャイニングウィザード→体固め。
電光石火のハイスパートレスリングを制し、SWP、三連勝。
――しかし、試合で私の役目は終わりじゃない。エースの仕事はここからだ。