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女子プロ☆カウントスリー!!!  作者: totoron
Round2: スター女子プロレス
7/27

素人とプロレスラー

4


 田中奈美子・緒方ますみvsラニーニャ遠藤のスパーリングが始まった。


「――どうしたの?口ばっかりで全然効かないわよ」


 試合序盤から、すでにバテバテの新人コンビだが、果敢に実鈴に立ち向かっていく。

 女子ということもあり、格闘技やケンカの経験も乏しいのだろう。形の定まらないキックや張り手を実鈴に次々繰り出すが、全然効いている様子はない。


 組めば簡単に投げられ、持ち上げることすらかなわない。圧倒的な実力差を前に、二人の手も止まる。

 逆に、スクワットでふらつく足に、サイボーグマタドールが容赦のないローキックを見舞うと、その一発で体が宙に浮いて転倒する。これじゃまるで大外刈りだ。


 三分ほど経過しても、悠然と構える実鈴。

 オオオオオォォッ!という雄叫びと共に、田中が組みにいく。それを軽くいなした実鈴の背後から、長い黒髪をなびかせて、緒方が飛びかかった!

 背中に飛びついて、首元に巻きついてのスリーパー。しかし実鈴はとっさに腕を絡めて締めさせない。

 すると、注意が緒方に向いたとたん、田中の全力のミドルキックが実鈴の腹に炸裂した。一発、二発。、だがそれも実鈴には全然効いていない。お構いなしにスリーパーを力ずくで解除する。


「――それならぁ!」


 今度は田中が助走をつけて走りこみ、体ごと飛びつくようにラリアット!


「――いッつぅ!」


 全体重をかけた一撃に、さすがのプロレスラーもバランスを崩して転倒。

 ・・・・・・あれ?今のちょっとノドの危ないところに入ってないか?


「――でも、効かないわ!」


 心配をよそに何事もなかったかのように立ち上がる実鈴。

 すると今度は緒方が真っ向から組みつき、体を下に入れておぶるように持ち上げた。水車落としのような、ショルダースルーのような、とにかく無理矢理バネを利かせて持ち上げ、体重で20kg以上差がある実鈴を持ち上げて投げた。

 陸上で鍛えあげてきたバネには、やはり天性の素質を感じる。


 お?と思ったが、やはりプロレスラー。またしてもケロっと立ち上がる。

 すると今度は田中が逆水平チョップを連発。きっと何かTVで見て練習したのだろう。それなりに様になっている。だんだんリズムがよくなってきたあたりで景気よく実鈴は倒れて見せた。

 あら、意外に優しいトコロもあるじゃないの。


「やるじゃない。でも、調子にのらないでね」


 実鈴は起き上がると、二人の足元にそれぞれ体重の乗ったローキックを見舞う。人生で受けたことのないだろう重たい打撃に、二人ともあっさりと体勢を崩してひっくり返る。

 圧倒的な実力差に恐怖しそうなものだが、二人の目はまだ死んでいない。


 転倒しながら、二人ははかったように顔を見合わせた。

 ――今日、初めて顔を合わせた二人。交錯した視線に、多くの情報が行き交った。


 フラフラと立ち上がった新人たちに両の腕を伸ばし、実鈴のラリアットが二人同時に炸裂する。軽量の緒方はあっさりと吹っ飛ばされて転倒したが、田中は何とか踏みとどまる。


 そして、意外な一発。踏み込んだ足を軸にして田中の体が半回転した!

 ――バックハンドブロー!


 意表をついて放たれた裏拳は、実鈴の顔面にジャストミート。

 まさか、一般人がプロレスラーの顔面を殴るなんて、普通に考えたら恐ろしいことだ。今日初めての顔面攻撃は、完全に相手の虚を突いた。しかも、意外な完成度で強烈にヒットした。


 ・・・・・・が、それでもプロレスラーは倒れない。自分より体重も軽い、しかも一般人の打撃で倒れるわけにはいかない。「受けて勝つ」がプロレスラーの美学。そのために毎日どれだけ鍛錬を積んでいることか――


「――今のはちょっと効いたよ!」


 驚いた実鈴が繰り出した張り手を何とか両手で受け止めると、田中はロープに向かって走り出した。ロープの反動を利用してのドロップキック。避けようとした実鈴の足を、倒れていた緒方が掴んだ。体勢を崩した所に捨て身のドロップキックが直撃する。


 バランスは崩すものの、それでも実鈴は倒れない。

 ボロボロの新人二人が何とか立ち上がって、最後の力でプロレスラーを睨みつける。


「――まだ、まだぁぁ!」

「――これでっ!」


 先に動いた緒方のローキック。きれいに当たったものの、実鈴にダメージは与えられない。

 しかし、ローキックは布石――本命は、足に意識が行ったところで、側面から再度、田中のバックハンドブロー!

 

 ――が、しかし!


「ああアアアァアアァアアアァァァァァッ!」


 裏拳を繰り出した田中が悶絶の声を上げた。

 当たり所が悪かったらしく、肘を痛めてしまったようだ。どうやらこの裏拳はまだ未完成。先刻のは奇跡の一発、よくぞ決めたもんだ。


 しかし、新人たちの強襲は、まだ終わっていなかった。


「エエエエエエエェェェェェェェイッ!」


 田中の声に気を取られた瞬間に、今度は緒方。

 正面から実鈴の首に右腕を巻きつけ、全体重をかけて後ろに倒れこむ。ややジャンピング気味の、リング上の殺虫剤「DDT」。

 プロレス素人の女子高生は本能で、生まれて初めて、プロレス技を人に繰り出した。

 キックや裏拳で体制が少し崩れていたのか、実鈴の体が「く」の字に折れ、キャンバスに頭から突き刺さる。だが、所詮は素人であり、パワーも軽量級。このDDTはそれほど深く決まっていない。

 

 しかし、リング上、倒れた実鈴は動かない。

 そして田中と緒方の二人が、這い寄るように必死で覆いかぶさった。


 ――そしてカウント1。


 フォールされた実鈴の左手は、私に向かって、グッと親指を上に立てていた。


(――祐子、こういうのが見たかったんでしょ?テストはもう十分よね?)

(あらあら、いい仕事するじゃないの実鈴ちゃん。こりゃ夕ごはんおごってあげなきゃね)


 ○田中奈美子・緒方ますみvsラニーニャ遠藤×

      8分10秒 DDT→体固め。


 フォールした勝者二人は、しばらく大の字でリングから動くことはできなかった。


 田中奈美子、緒方ますみ、スター女子プロレス入団テスト、合格。


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