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女子プロ☆カウントスリー!!!  作者: totoron
Round2: スター女子プロレス
4/27

プロレスの教科書

2


 ストレッチと受身、そしてグラウンド(関節技)練習を経て、実鈴の希望通りに真剣勝負のスパーリングが始まった。


 まずは、実鈴と前田さん。


「前田さん、よろしくお願いします!」

「初日から歓迎が手厚いわね。お手柔らかにね」


 大胆にも前田さんに挑戦した実鈴だったが、試合序盤、実鈴は技を全く繰り出せず、組み合っては投げられた。

 逆に前田さんはボディスラムやロープワークから、多彩なキックと空中殺法で実鈴のスタミナを奪っていく。序盤は、まるで子供扱いだった。


 しかし試合中盤、打点の高いドロップキックを受けながらも、実鈴が倒れずに踏ん張る。そして倒れたところに即座に組み付き、リング中央で得意の逆エビ固めをきれいに決める。ここから流れが変わった。

 ロープブレイク後に前田さんのフランケンシュタイナーを浴びるが、すぐに実鈴は起き上がり、前田さんの左足を掴むと、そのまま間髪入れず必殺のドラゴンスクリューでお返しする。


「ぐぁっ!」


 前田さんの顔が苦痛にゆがむ。この試合初めての苦悶の表情。

 この瞬間、実鈴は照準を左足にロックオン。この左膝は、歴戦の中で古傷を抱えている箇所だった。


 ここからサイボーグマタドールは本領発揮。機械のような冷徹さでキックを左足に集める。すると、前田さんが繰り出した反撃のハイキックの途中、左膝が力なく崩れ落ちる。


 その隙を、実鈴は逃さない。

 素早く相手の両足を掴んで回転。足を四の字に極める。ロープ近くではあったが、完全に足が極まった。ベテランレスラーの表情に、もはや余裕の色は無い。

 何とか体を引っ張ってロープブレイク。


 再び両者が立ち上がった所で、がっぷり四つに組み合う。

 力比べの最中、一瞬、前田さんの体が沈んだ。やはり、膝に力が入らないのか。

 そう思った刹那、前田さんの体は宙を舞い、空中であっという間に実鈴の腕を絡め取った。

 必殺の飛びつき腕十字固め!

 必殺の刃を抜いたのは、相手の実力を対等、もしくは近いものと認めた証だ。


 しかし、勝負どころで実鈴は譲らない。極まりかけた腕を強引にほどく。そして、すぐさま足を取って、二発目のドラゴンスクリュー!

 悶絶する相手をロープに投げ、返ってくるところに闘牛士の一刺し、トラースキック!

 さらに、ふらつく前田さんに背後からフルネルソンで組み付き、必殺ドラゴンスープレックス!

 ズドン!と重い音がし、得意のフルコースが見事に炸裂。この流れは決まりか!?


「――カウント!――ワン!ツー!・・・・・・」

「――うりゃぁあッ!」


 カウント2.8!何とか跳ね返す。これでも決まらない!


 再び両者組み合ったところで、今度は前田さんが怒りのパワーボム!フラフラのはずだが、もの凄いパワーで相手を抱え込み、マットに叩きつける。強烈な一撃に、実鈴の意識が瞬間切断される。


「カウント!――ワン!ツー!・・・・・・」

「――くっ!」


 体のバネで大きく跳ねて、カウント2で跳ね返す実鈴。

 前田さんはすぐさま立ち上がると、傷めた足でコーナーポストを駆け上がる。そして、まだ倒れている相手に、体を高速きりもみ回転させながらの後方宙返り!これがイーグル前田の必殺、スカイツイスタープレス!


 ズドォォォオォォォン!!!


「――がほっ!」


 あまりの衝撃に、実鈴の体が一瞬「く」の字に折れる。


「――カウント!ワン!ツー!・・・・・・」


 カウント2.9で、何とか片方の肩を上げる。まだだ、実鈴もまだ終わっていない。


 練習のスパーリングとはいえ、真剣勝負の名にふさわしい、張り詰めた空気。

 リング中央で再びお互い組み合った。これが、最後の攻防――


 ――先手を取って、前田さんが実鈴の体を宙に浮かせた!

 ・・・・・・が、集中攻撃を受け、酷使してきた膝がここで落ちた。体勢が崩れる。

 ――その瞬間、実鈴が背後に回って腰をクラッチ。そのままジャーマンスープレックス!


「――カウント!――ワン!ツー!・・・・・・」


「・・・・・・スリー!」


 カウント3。

×イーグル前田 vs ラニーニャ遠藤○

     12分44秒。ジャーマンスープレックスホールド。


 真剣勝負と銘打ったスパーリングは、まさかの、ラニーニャ遠藤、勝利。


「あいたたたた。負けちゃったな」


 コーナーにもたれて、傷めた膝をさすりながら前田さんは言った。

 しかし、その顔はとても敗者の顔ではない。むしろ嬉しそうな笑みが浮かんでいる。


「いえ、私の負けです。膝、すみません・・・・・・」


 一方、勝った実鈴は、浮かない表情でうつむいている。


 「試合に勝って、勝負に負ける」とはこういうことを言うのだろう。


 徹底的に弱点を攻め立て、相手の持ち味を封じて実鈴は試合に勝った。

 相手の弱点を攻めるのは当然の戦術であり、悪ではない。

 だが、プロレスは一人でするものでもない。


 前田さんは、多彩な技で見せ場を作り、相手の得意技を全て受け、それでいて最後は紙一重のところまで試合を作った。相手の対応はどうあれ、相手が活きるように戦った。

 結果として膝の古傷の影響が出て負けただけだ。これが練習でなく、本番なら、またサポーターの一つやテーピングの一巻きでもあれば、結果は変わっていたかもしれない。

 

 何より、リングサイドで見ていた者たちに残った印象は「イーグル前田強し」だった。


 これがプロレス。

 プロレスの教科書、最初の授業はまさかの「負け勝ち」だった。


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