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女子プロ☆カウントスリー!!!  作者: totoron
Round5: TOP STAR クライマックス
24/27

TOPSTARクライマックス四日目~挑戦権~

 TOP STARクライマックスも折り返しを過ぎて興行四日目。終盤戦に突入した。

 現在のところ、勝ち点では前田さんが頭ひとつ抜け出し、それを他の四選手が追う展開となっている。ファンサイトの結果予想アンケートでは、やはりイーグル前田がダントツの一位であり、二位が私、三位が実鈴となっている。


 会場では本戦に先駆けて、新人リーグの第二試合、緒方ますみvs山田幸の試合が行なわれていた。

 女子高生レスラーの緒方は、体格も練習時間も幸には及ばない。実際、柔道で全国大会に出たレベルの幸には実力でも及ばない。はずだったのだが、試合は予想外の展開を見せていた。

 

「・・・・・・これでっ!」

「何のこれしきっ!この私に関節技なんて効かないのよ!」


 プロレスには、強さとは別に相性がある。

 幸の強さは、柔道経験を生かした投げと関節技にある。投げて横たわった相手を関節技で仕留める。それが幸のスタイルだ。しかし、対する緒方には陸上で養った敏捷性と共に、天賦の才と言えるほどの柔軟性を持っていた。決め技である関節技が、緒方にはほとんど効果が無い。どんな技をかけても、うまく転がってするりと抜け出す。

 焦った幸が無理やり脇固めにもっていこうとしたところでバランスを崩した。そこに緒方、全速力でのドロップキック。ふらつく幸に、今度はフライングニールキック!体格で勝る幸に、全身を投げ出すように浴びせかける。

 幸は投げで応戦するも、柔道の投げは背をつけさせることを目的としているため、背中が最も防御力の高いプロレスラーにはダメージが少なく、決め手にならない。プロレス経験がまだ浅く、プロレスらしい技をほとんど持っていない幸には、実は他に攻撃の手段が無かった。

 対する緒方はロープを走り回り、コーナーポストに駆け上がり、運動神経を活かした立体的な攻撃で幸を完全に翻弄。

 しかし、緒方もその非力さが仇となり、決め手に欠いて結局時間切れ引き分けとなった。


「あれ?もう終わり?命拾いしたね、幸さん。次は私の本気を見せてあげる」

「くっ・・・・・・」


 試合は引き分けだが、プロレスとしては受けきり、盛り上げた緒方の勝ちだろう。時間無制限だとしても、最後は緒方が勝っていただろうと思う。こういう敗戦を素直に受け入れる幸はいい性格だと思うが、プロレスラーとしてはそれだけではちょっと物足りない。一方、緒方がこんな試合ができると正直思ってなかったので驚いた。若者は少しの期間でグンと伸びる時がある。緒方にとって、今がそういう時なのかもしれない。


△緒方ますみvs山田幸△

     10分00秒 時間切れ引き分け

 

 第二試合はTOP STARクライマックス本戦。イーグル前田vs加藤ルミの試合。勝ち点3で、今日で最終戦となるルミとしては、ここで勝ち点6を持つ前田さんに勝たなければ優勝の可能性は消えてしまう。

 格上の前田さんに対し、ルミはどう出るのか。

 最初の答えは、入場リングイン直後の不意打ちだった。

 

「突然、失礼いたしますわっ!」

「想定の、範囲内ッ!」


 繰り出された拳を抜群の反応で受け止める前田さん。しかし、拳を受け止められたルミの目尻が下がり、形のいい唇の端が上を向いた。唇の端から、深緑色がわずかに覗く。


「--しまっ・・・・・・」


 毒霧。

 深緑の霧が前田さんの顔に吹き付けられる。ルミの腕をつかんでいたため、目を覆うこともできない。


「ルミさんの不意打ちは二段構えですよゥ!」


 たまらず目を覆った前田さんを叩き伏せ、故障を抱えている左膝に容赦なくストンピングを何発も叩き込む。視界のはっきりしない状態では、さすがの前田さんも防御のしようが無い。

 場外に逃げようとする前田さんの足を引きずってリング中央。ルミの足四の字固めが完全に極まり、約1分にわたって絞り続ける。苦痛に顔を歪めながら、何とかロープまで這いより、前田さんの手がロープを掴んだ。ロープブレイク。


「ロープ?そんなの知りませんわ」


 ルミは関節技を解かない!

 前田さんの顔から、完全に余裕が消えていた。


「ブレイク!ブレイクだ!」


 レフェリーが慌てて止めに入って、無理やり引き剥がして両者が離れた。

 最初の不意打ちから約二分、ルミが一方的に攻め立てた。

 なおもふらつく前田さんに、ルミは攻撃の手を緩めない。ロープの反動を利用しての得意のラリアット。細いながらも怪力のルミ、その豪腕がリング中央、前田さんの首を刈り取る。

 しかし、前田さんは倒れない!首にかかったルミの腕を掴むと、前田さんの体が宙に浮いた。

--飛びつき腕十字!

 油断していたルミの腕を完全に伸ばした。リング中央で、今度はルミが顔を歪める展開に。バタバタと体を動かし、何とか足を伸ばしてロープに引っ掛けるルミ。


「ロープ?そんなの知らないなぁ。ねぇ、ルミちゃん?」

「キィッ!歳をとると性格って悪くなるんですわね!」


 しばらくもがき苦しんだ後に、ここもレフェリーが引き剥がしてブレイクとなる。

 その後、試合は荒れ模様に。前田さんの裏拳がルミの顔面を捉え、ルミが拳で殴り返し、互いに流血する展開となる。

 テクニックで勝る前田さんに対し、パワーで勝るルミ。序盤の奇襲により飛び技がいつもより少ない前田さんを、時間の経過と共にルミが押し込む展開となっていった。


『おぉーっと、ここでルミ、低空で切り裂く死神の鎌、マッケンローォオオ!イーグル前田の左足に攻撃を集中させる!』


『ルミのスリーパー!いや、これはチョークだ!チョークが入っている!イーグル前田、前田!苦しそうだ!何とかロープに手を伸ばす!』


 そんな展開がしばらく続いた後、前田さんもフラフラになりながらバックドロップを放ち、傷めた足でムーンサルトプレス。また、裏拳からのフランケンシュタイナーなど多彩な技を見せて、ペースを取り戻していく。

 しかし、迎えた残り三十秒で、ルミの渾身のラリアットがジャストミートし、前田さんの体が一回転。甲高い叫び声をあげて、ルミが覆いかぶさる。


 カウント!ワン!ツー!ス・・・・・・っ返した!

 もう少しでスリーカウント、というところで前田さんの体がルミを跳ね上げる。大きく胸を上下させる前田さん。胸意外の箇所はべったりリングに張り付いて動きそうにない。

 起き上がったルミが悔しそうに前田さんの左足を踏みつけたところで試合終了のゴング。


「・・・・・・くたばり損ねましたわね。どれだけしぶといんだか」

「悪いわね、ルミちゃん。あいにく、これでも年金生活が夢なのよ」


 あと一分あれば、間違いなくルミの勝ち。しかし、勝たせなかったことに意味がある。両者、勝ち点一を獲得し、ルミは四戦一勝二敗一分。勝ち点4でシリーズ終了。優勝戦線からは脱落した。前田さんは勝ち点が7となり、単独首位をキープ。


△イーグル前田vs加藤ルミ△

     10分00秒 時間切れ引き分け


 前田さんの勝ち点が7となったことで、勝ち点3で並ぶ残り三人のうち、残り試合が一つしかないバッファロー山倉は最終戦に勝っても優勝には届かない。残り試合が二試合残っている私と実鈴には、優勝の可能性がまだ残っている。

 その私たちの試合が、今日のメインイベント。

 否が応にも緊張感が走る。今日の勝利者が、イーグル前田への挑戦者だ。そして対戦相手は親友でありライバルであるラニーニャ遠藤。不足は無いが、余裕も無い。

 私は昨日の山倉戦を引きずっていた。余裕を見せて試合に臨み、その甘さゆえに、格下だと思っていた山倉に完敗した昨日の試合。自分の中の甘えを、甘さを絶たなければ、実鈴には勝てない。


「集中、集中、集中・・・・・・」


 勝ちたいと思うのだが、昨日の無様な負け方が何度も頭に浮かんでくる。こんなにナーバスになることは私はあまりない。それが私の不安と苛立ちをさらに大きくしていた。

 そうこう考えていると、控え室に、試合を終えたばかりの前田さんが入ってきた。足へのダメージが大きいようで、一人で歩くのは大変らしく、今日試合のなかったなみこの肩を借りている。


「祐子、高みの見物、させてもらうよ。エースってやつを見せてもらおうか。昨日はあまりに不甲斐無かったから拍子抜けしちゃったけどね」

「前田さん・・・・・・」

「山倉にも負け、遠藤にも負けたら、勝ち点で言っても実力で言っても、私に挑戦するなんて百年早いんだよ」


 相変わらず手厳しい。

 思えば、今回のシリーズ、最初からずっと前田さんは私を煽り続けていた。まるで、私と闘いたいと言わんばかりに。

 売られたケンカは買うもの。プロレスは魂でやるもの。前田さんが闘いたいというなら、まずは私が、前田さんの所まで、行かなくちゃ。


「勝とう」


 決心した私の中から、モヤモヤしたものはもう消えていた。


「前田さん、引退の挨拶考えておいてくださいよ」



 そして数分後、秋山祐子とラニーニャ遠藤はリングの上で対峙した。


「実鈴、今日は容赦しないから。今のうち謝っておくわ。勝つのは私」

「はいはい、寝言はカウントスリー取られてから言いなさい」


 試合開始を告げるゴングが鳴った。

 それは、私にとっては奇策開始の合図だった。

 ゴングと同時に、ボクサーのように両腕を前で固めて低い姿勢で実鈴の懐に潜り込む。そして、左、右とワンツーパンチを繰り出す。左のジャブはギリギリ受け止められたが、右フックはガードが間に合わない。実鈴の側頭部にきれいに決まり、実鈴のこめかみが切れて鮮血が水のように流れ落ちる。思わず転倒する実鈴。

 実力派の実鈴だが、相手の出方を正確に読み、常に先手を取って攻撃しながら相手の得意な形を作らせないのが真骨頂。逆に先手を取られた場合は案外もろい。よって、私の作戦は開始三分の全力ラッシュでペースを握り、仕留めるというものだった。

 倒れた実鈴に、情け容赦なくキックを打ち込む。

 実鈴の体が大きく仰け反り、転がるたびに赤い血がマットを汚していく。

 起き上がったところにもキックのコンビネーションで注意をそらし、隙をついてハイキック。右フックが入ったのと同じ左のこめかみ付近に完全に入る。ふらついた実鈴の足をローキック二発で刈り取り、さらに胴と頭にキックを見舞う。

 客席からはリンチに見えるかもしれない程の、あまりにも一方的な展開。

 見慣れぬ光景に、観客席は静まりかえっていた。

 そして、リング中央付近で仕掛けたキャメルクラッチ。

 完全に極まったと思った瞬間、レフェリーが駆け込んできて、両手を交差した。レフェリーストップ。静かな会場に、ゴングの音だけが響いた。

 あまりにも呆気ない。あまりにも呆気ない、ライバルとの闘いの幕切れだった。

 私の腕の中には、血を流し、力なく崩れ落ちた親友の姿があった。


--実鈴は、こんなに弱くない。


 私は、自分が何をしたのか、理解した。


○秋山祐子vsラニーニャ遠藤×

     2分13秒 キャメルクラッチ


 試合後、興行最後のカーテンコールを済ませた後で、私は医務室に走った。カーテンコールに、実鈴は参加していない。医務室のベッドには、リングコスチュームのままの実鈴が横たわっていた。

 呼吸は深くしているものの、実鈴はまだ目を覚まさない。左の側頭部の赤く染まった大きなガーゼが痛々しい。


「ごめん、ごめん・・・・・・私が、私が勝負に走ったばっかりに・・・・・・こんなことに・・・・・・」


 医療スタッフの話によると、最初の右フックで脳が揺れていた可能性が高いという。おそらく、その後ゴングまで、半分くらいは意識が無かったかもしれないと。その後、よくも二分間もプロレスを続けられたものだと。

 元々、プロレスにおいて固めた拳で殴りつけるのは反則行為である。相手のペースを乱すためだとはいえ、私はやりすぎたのかもしれない。拳が入った後、もっと早く異常に気付いていればこうはならなかったかもしれない。

 自分が情けなくて、何度も壁を拳で殴りつけた。生身の拳はコンクリートに対して、あまりにも弱くて、すぐに皮が剥けて、血が滲んできた。

 前田さんに挑戦するのは、私。

 でも、そんな資格があるのだろうか。

 今日、私がしたのは、プロレスだったんだろうか。


 最終戦は、三日後の祝日。

 イーグル前田の、スタ女での最後の試合。

 挑戦者は、私、秋山祐子。


 【スタ女 新人リーグ戦 2日目終了時点】

 山田幸 1勝0敗1分 勝ち点4

 緒方ますみ 0勝0敗1分 勝ち点1

 田中なみこ 0勝1敗0分 勝ち点0


 【TOP STAR クライマックス 四日目終了時点】

 イーグル前田 2勝0敗1分 勝ち点7 

 秋山祐子 2勝1敗0分 勝ち点6

 加藤ルミ 1勝2敗1分 勝ち点4

 ラニーニャ遠藤 1勝2敗0分 勝ち点3

 バッファロー山倉 1勝2敗0分 勝ち点3


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