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女子プロ☆カウントスリー!!!  作者: totoron
Round5: TOP STAR クライマックス
21/27

TOPSTARクライマックス一日目~カリスマと最高の敵~

 広報やルール決めなどで慌しくしているうちに、あっという間にスタ女最強決定リーグ戦「TOP STARクライマックス」第一日目を迎えた。

 こころなし、いつもの興行よりも客の入りが良いように感じる。確かな手応えを感じながら、私は控え室に戻った。


 前座試合のラニーニャ遠藤・緒方ますみ組vs山田幸・田中なみこ組の試合は、この中で飛びぬけた実力を持つ実鈴の前に幸もなみこも沈黙。新人ペアも緒方を集中して狙い、活路を見出そうとする。

 幸の柔道技でもう一歩まで追い詰めたものの、緒方の渾身のフライングニールキックが顔面を捉え、幸が悶絶している間に何とかタッチ。最後は実鈴のトラースキックからドラゴンスープレックスという必殺メニューの前に幸が崩れ落ちた。


「まだまだ上位とやるのは難しいカナ?」

「・・・・・・くっ」

「・・・・・・勝つまで何度でも挑戦するッス!」

「フッフッフッ、遠藤さんの前に、この緒方ますみという高い壁を越えてごらんなさい」

「ますみちゃんはドングリの背比べだったけどね」


 実鈴が微笑みがなら、リングで倒れている幸を助け起こした。リング上、コーナーを前になみこと緒方は睨みあっている。


「なみこさん、新人リーグは私がもらいますよ!」

「上等だ。決着つけてやるよ」


 そして退場していく四人。通路を歩きながら、握り締めた拳をプルプル震わせる幸が何だか可愛かった。



 それから、今回限りのフリー選手2人の試合を挟んで、いよいよ本戦が始まる。


『さぁ、皆さんお待たせいたしました!只今より、TOPSTARクライマックス第一日目の試合に入ります!今回のリーグ戦は総当り戦、勝者には勝ち点が3点、引き分けなら1点が与えられることになっています!さぁ、輝く一番星は、一体誰の上に昇るのでしょうか?』


 提案者である青木君の実況もヒートアップし、会場のボルテージも上がる。


『TOPSTAR クライマックス 第一試合。青コーナーより、「デンジャラスルミ様」加藤ルミの入場です!』


 露払いに緒方を引き連れての、ルミのリングイン。緒方はなぜかルミを慕っているようで、練習の時もよく一緒にいるのを見かける。

 ルミは虎柄の毛皮のコートを身にまとい、長い金髪を振り乱しながらゆっくりとリングイン。コーナーポストに上って観客に手を振って応える。そして、最後に恒例の火吹きパフォーマンス。


「さぁ、ズッタズタのメッラメラにしてやりますわよ!」


 ルミが叫ぶと、会場のボルテージがまた一際高まった。美形で派手で危険という悪の女王様を応援するファンも意外に多いようだ。


『赤コーナーより、「赤いカリスマ」秋山祐子、入場!』


 露払いになみこを従えて、セカンドロープからリングイン。

 ルミを睨みつけ、そして右腕を高く掲げて観客に私もアピールする。

 リングを挟んで、セコンドについているなみこと緒方の視線も熱く交錯していた。


「ルミ、私にケンカ売るなんて千年早いって教えてあげるわ」


『さぁ、打撃を得意とする両者がどのような攻防を見せるのか。火花散る星たちの対決は、ヒールとベビーフェイスの両カリスマによる一戦となりました!いよいよゴングです!』


 そして開戦を告げるゴングの音が響いた。


 先手はルミ。迷わず私の顔面にナックルパートの構え。

 私はそれを――避けない!


「――効かないんだよォッ!」


 返す刀で繰り出した全力のエルボー一発で、逆にルミをなぎ倒す。倒れたルミの胴体に強烈なキックを見舞い、悶えて転がるルミを見下ろす。


「ズタズタにするんでしょ?早く立ちなよ」

「――お生憎ですわ。私はリングに寝そべるのも好きですの」


 しっかり転がりながら距離を取ってルミが立ち上がる。

 再びリング中央で組み合うと、今度はルミが私をロープに振り、帰ってきたところに体重を乗せたラリアットを見舞った。なかなかに重く、強烈な一撃。倒れないようにこらえるのも一苦労だが、根性でこらえる。

 するとルミが場外へ降りた。私を手招きしながら微笑みを浮かべている。場外はルミの主戦場のため、下手に行くのは気が引けるが、今回に関しては時間が無い。取りこぼしての引き分けが痛いのがリーグ戦だ。

 躊躇することなく、しかし慎重に、私はリングを降りた――するとそこには、いつの間にか竹刀を握ったルミが待っていた!

 一発、二発と振り回される竹刀を受け止め、かいくぐり、隙を探してルミに打撃を加えるが、浅い。武器を持った相手に踏み込むのは難しい。昔から剣道三倍段といって、剣道初段と空手三段が戦ってはじめて互角といわれるのがわかる。

 その後も何度も何度も振りかざされる竹刀。観客席からのルミコールが大きくなっていく。


「ホーッホッホッホ!ズッタズタですわー!」

「――ルミぃ~っ、いい加減にしろーっ!」


 さすがに数発クリーンヒットももらって、私の堪忍袋の緒が切れた。

 振り回された竹刀を左手で受け止めて掴み、右手を固く握り締めてルミの顔面にぶち込んだ。鉄拳制裁。怒りのナックルパート!ルミが吹っ飛び、口の端からうっすら血が出たのが見えた。

 私はここでリングに復帰する。


 ルミはすぐにリングに戻らなかった。回復の時間を稼いでいるのか。

 リング上でルミの同行を警戒していると、ルミが自分のコーナー近くから上がってきた。口元の血はそのままに微笑みを浮かべている。

 そしてリング中央で組み合い、私がルミをロープに振ろうとしたところ、逆にパワーで勝るルミに振られてしまう。まずい、得意のラリアットか?と思って腕を上げてガードしようとしたところ、待っていたのは――火炎放射だった。


「うふふふふふ。ナイスガード。メラメラしそこねちゃいましたわ」

「バッキャロー!乙女の顔に何かあったらどうすんだ!」


 その後、いくつかの攻防を挟んで私の怒りの延髄斬り→シャイニングウィザードが炸裂し、勝負あったかに思ったが、今日のルミはなかなかしぶとい。逆にラリアットを見舞われ、そのままリング中央でねちっこくスリーパーで体力を奪ってくる。


 しかし、流血でスタミナも落ちたルミの反撃はここまでだった。最後はジャーマンスープレックス二連発で、何とかルミを沈めることができた。


「・・・・・・祐子さん、次こそはズタズタのメラメラですわ・・・・・・」

「・・・・・・アンタが更生するまで、何度でもぶん殴ってあげるわ」


○秋山祐子vs加藤ルミ×

     7分33秒 ジャーマンスープレックスホールド


『続きまして、第二試合、バッファロー山倉vsイーグル前田の試合を行ないます!』


 両者が入場して、リング上で対峙する。前田さんもしっかりした体格だが、100kgに達した山倉の前では小さく見えるしかない。

 前日のファン向け開幕イベントで、こういう一幕があった。


「イーグル前田選手、今度のリーグ戦、一番の強敵は?」

「そうだね、みんな強くなってるから気は抜けないけど、できることならやりたくないのは山倉かな。ペースを握られたら一番危険な相手だね」


 その山倉と前田さんの一戦。


『さぁ、今リーグを最後にスタ女との契約が切れるイーグル前田!最後の大舞台をどんな試合で締めくくるのか?いよいよゴングです!』


 ゴングが鳴った。

 今日の前田さんはいつも以上に真剣な表情でリングに立っていた。難敵山倉を前にどのように戦うのか。

 得意の組み合いに持ち込もうとする山倉をいなし、チョップやキックなどの打撃を打ち込んでいくが、巨体で頑強な山倉にはあまり効いている様子は見えない。それが有効打にならないだろうことは、前田さんもわかっているはず。


 試合開始から、山倉が組みにいくと前田さんがかわす展開が続いていたが、ついに山倉が前田さんを捕まえる。鬱憤を晴らすかのように力任せにボディスラムやブレーンバスターで前田さんをリングに叩きつけると、会場からも山倉コールが始まった。手数は前田さんの方が多いが、決定打に欠ける展開。猛牛の荒ぶるパワーファイトに、番狂わせの可能性を会場も期待していた。


 そして、勢いに乗った山倉が、前田さんのノドに手をかけて持ち上げた。必殺のノド輪落とし!高く前田さんの体が浮き上がる!――しかしその瞬間、悲鳴をあげたのは山倉の方だった。


「――ぎゃあぁああぁあああ!」


 この瞬間、必殺技を繰り出したのは山倉ではなく、前田さんだった。

 ノド輪落としで体が浮かされたのではなく、自ら跳んだ。そして、必殺飛びつき腕ひしぎ逆十字。


「この瞬間を待っていたんだ!」


 空中で山倉の右腕をロックすると、体重を乗せてその肘を伸ばしきった。パワーでずっと勝る山倉も、予想外のタイミングで繰り出されてバランスを崩して倒れる。

 必死で振りほどこうとするが、前田さんは離さない。

 山倉の手がロープに届くまで、約1分にわたって、前田さんは山倉の右腕を削り取った。

 再びリング中央で向かい合った時には、山倉の右腕は垂れ下がり、多量の汗が顔から流れ落ち、精神は完全に折れていた。

 山倉の巨体が力なく浮かび上がる。

 イーグル前田のフィニッシュホールド――ノーザンライトボム!


『カウント!ワン!ツー!・・・・・・スリー!・・・・・・』


×バッファロー山倉vsイーグル前田○

     4分2秒 ノーザンライトボム→片エビ固め


 終わってみれば、5分にもならない圧勝劇。

 前田さんは、何も言わず、リングの上で大の字になっている山倉より先にリングを下りていった。その表情はクールで、私たちが知っている前田さんではなかった。


「スタ女と「本気の」イーグル前田との戦いだ」


 というメッセージが、この試合にはこめられていた。

 先輩でもあり、師でもあるイーグル前田が、最高の敵として私たちの前に立ちはだかった。


【TOP STAR クライマックス 一日目終了時点】

 秋山祐子 1勝0敗0分 勝ち点3

 イーグル前田 1勝0敗0分 勝ち点3

 ラニーニャ遠藤 0勝0敗0分 勝ち点0

 バッファロー山倉 0勝1敗0分 勝ち点0

 加藤ルミ 0勝1敗0分 勝ち点0


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