しょっぱい最後
プロレスの人気が落ちて久しい(特に女子)ですが、その魅力はまだまだ健在です。プロレスラーはSFより奇なり。この作品を通して、多くの方にプロレスに興味を持っていただけたらと思います。
1
――ワァァアァァァァ!という大歓声の中で、私は天井を見上げていた。
スポットライトの強い光が、私の視力を一瞬奪う。
なでしこ女子プロレス最後の興行シリーズ。
私、秋山祐子vsシルバーフォックスの一戦は、よもやの展開となった。
格下だと思っていた相手の覆面レスラー、シルバーフォックスは、驚くほどしょっぱい(=面白くない)プロレスを仕掛けてきた。
こちらの技は避け、自分の技は当ててくる。時にはプロレスではご法度の急所攻撃まで含めてだ。総合格闘技が流行っている影響だろうか、プロレスらしいプロレスをしない選手が増えてきたのは確かだが、ちょっと今日の試合はひどい。
とか思っていたら、実況のリングアナの雄叫びが聞こえ、刹那、スポットライトの光が消えた。
『リングの月面水爆、ムーンサルトプレスだぁあぁぁああああ!ストライィィク!!!』
ごふっ!
何かが折れるような、割れるような、嫌な音がした。
受けるには受けたが、それでも高さ1.8メートルのコーナーポストの上から六十kgが宙返りしながら降ってくるのだ。痛くないわけがない。空中殺法を得意とするシルバーフォックスの得意技だ。これは結構効いた。・・・・・・というか、痛い。痛すぎる。
呻きながら回復を待っていると、重さが急に消えた。
少し楽になった、と安堵したその数秒後、
――ワァァッァアアアアアア!!!――
ズドーン!!!
『ムーンサルトプレス二連発ゥゥゥゥ!!!カウントォ!』
「――ワン!――」
「――ツー!――」
何とか体をねじってカウント2.5、何とか肩を上げる。まさかのムーンサルトプレス二連発。
「もう、完ッ全に頭きた!忌々しい銀ギツネ、全力でぶっ飛ばしてやる!」
そう思って体を起そうとした時、肋骨がきしむ音を私は聞いた。当たり所が悪かった!?
――マズイ!最悪の展開――。
何とか立ち上がるも、力が入らないうちに軽々とボディスラムでマットに叩きつけられ、傷めた箇所に近い場所にストンピングが二発三発と入っていく。
筆舌に尽くしがたい痛みが続けて襲ってくる。
「ガァアァアアアアァッ!」
気合いで振りほどいて立ち上がり、そろそろ私のターン!
――と思ったら、後ろから組み付かれ、私の両腕ごと腰に手を回される。
(ちょ、ちょっと待って!ここは私に一つくらい技出させるのがプロレスでしょっ!)
心の声も空しく、私の体はアーチを描いて頭からリングに落下した。
『ここでシルバーフォックスのノーザンライトスープレックスッ!!!』
「――ワン!――」
「――ツー!――」
「・・・・・・スリー!!」
カァン!カァン!カァーン!
スリーカウントを知らせるゴングの音が鳴り響く。
×秋山祐子 vs シルバーフォックス○
17分21秒 ノーザンライトスープレックスホールド
私のなでしこ女子プロレス最終戦は、あまりにもしょっぱい試合で幕を閉じた。
敗北以上に、内容があまりに情けなくて、涙で前が見えなかった。