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第六話

 魔王桃園は会議室にいた。触れたものの命を奪う魔法を有する魔法使いが勇者と連れ立って台頭したのだ。どうやら、体が触れるだけでなく、剣などの武器で間接的に触れるのも効果の範囲内らしい。

 会議の参加メンバーは、対面参加は梅雨将軍ブルータス、通信系魔法による遠隔参加は雷将軍ユピテルと隕石将軍ガニメデだ。魔王が話を切り出した。

「何かこの魔法使いを倒す考えがある人はいますか?」

「ワシが適任じゃな。ワシの雷は遠隔攻撃じゃ。故に奴の死の魔法は食らわん」

 ユピテルが名乗りを上げた。

「確かに、相性が良さそうですね。ユピテルさんの炎の軍勢も、延焼でダメージを与えられます」

「今回は、私の出番はないようですね」

 水の軍勢を操るガニメデが口を挟んだ。彼らは海賊の殲滅任務を遂行中であった。

「炎と水ですからね。それに、トリトン運河はシリス村から遠い」

「ええ。それで、どうなさるのですか。相手のパーティーは僧侶と魔法使い二人。何かありそうですよ」

「そうですね。ひとまず、メフィストさんと協力して落とし穴にでもはめて、どんな力を隠しているか様子を見ましょう」

「承知じゃ」

 ユピテルが髭を触りながら返事をした。

「我々風の軍勢はどうしましょう。ここからはかなり距離がありますが」

 若き女将軍であるブルータスが発言した。

「風の軍勢は待機ということにしましょうか」

               *

 それから数日後の夜、シリス村の、例の魔法使いらが泊まる宿屋の上にメフィストが現れた。膝をつき、屋根に手を置くと、建物全体が紫色に光り始めた。光が止んだかと思うと、扉から例の魔法使いが姿を現した。メフィストに操られているようだ。

 魔法使いは、町外れまで歩かされた。そして、あらかじめ掘ってあった大きな落とし穴に、吸い込まれるように落ちていった。

 そこに突然、凄まじい炸裂音と共に雷が落ちた。真っ暗闇だったにもかかわらず、辺りが一瞬明るくなった。穴の周りには炎の軍勢と雷将軍が囲んでいた。

 それから、炎と雷の雨が降った。ユピテルが右手に雷を宿し、一帯を明るくした。皆は穴を覗き込んだ。そこには、より深くなった穴と、無傷の魔法使いの姿があった。ユピテルが細い雷を魔法使いに向かって飛ばすと、雷が触れる瞬間、緑色の何かに遮られて消えた。シールドが体に張られているのがわかった。そのシールドは、魔法攻撃を一切通していなかった。

 翌日、魔王は執務室で、メフィストと通信系の魔法で連絡をとっていた。二人はスマートフォンを持って、電話するように話していた。

「魔法が効かなかったんですか」

「そうなんですよ。おそらく、他の魔法使いの魔法がかかっていたんだと思います」

「それは、どうすればいいんでしょう……」

「他の魔法使いから倒すしかありません。ただ、おそらくその魔法使いをターゲットの魔法使いが守りながら戦うのではないかと」

「なるほど。じゃあ同士討ちさせるしかありませんね。そういう方向に持っていくことはできますか?」

「魔王様のお望みとあらば。お任せください」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。では、ご無事で」

「ええ。魔王様も」

「えっ、ああどうも」

 通信を終了した時、メフィストはなにやら不適な笑みを浮かべていたのだった。

               *

 執務室で魔王は、各地の有力者と交わされる手紙を書いていた。その業務も終わりつつあった時、なんだか無性にドーナツが食べたくなった。桃園は近所のスーパーに売っていたチョコクリンクルドーナツを生み出し、食べ始めた。そこに、女神が超常的な回線を使って話しかけてきた。

『あら、間食なんて珍しいわね。魔王になってから初めてなんじゃない?』

「食べないとやってられなくなりました」

『ストレス過多なのね』

「ほとんど生贄ですよ。求められる姿を演じないといけなくて、ほとんど、いや全く自由がない。それなのに、その姿を演じていたら誰かしらから恨まれる。(はりつけ)にされて刺されるのとあんまり変わりませんよ」

『逃げるという選択肢はないのかしら?』

「逃げ場なんてなくないですか? 顔が割れてますからね。どこかで誰かが見てますよ」

『もしかして、もう辞めたいと思ってる?』

「辞めたところで、ですよね。何者になっても幸せじゃない。現実世界に帰ってもそれは同じてす」

『まさに八方塞がりという感じね』

「あの、僕がイセカイに連れてこられた理由って、何なんですか?」

『それは教えられないわ。自分で見つけてもらわなくちゃ』

「それを見つけることで、何かが変わるんですか?」

『ええ。全てが変わることになるわ』

「そんなものがこの世に存在するんですかね」

『楽しみにしているといいわ』

 そんな話をしている時、執務室の扉を、慌てるように素早く何度も叩く音が鳴り響いた。音に敏感なうつ病患者は驚くと同時に、はい!と反射的に返事をした。すると、伝令係の青年が入ってきた。

「魔王様! 城内に敵が現れました!」

「どんな敵ですか?」

「なにやらそいつは、狼や熊を生み出し、衛兵を蹴散らしているようです」

「生き物を生み出す……。えっ、一人だけですか?」

「それが……」

「どうしたんですか?」

「実は、風の軍勢がそいつを守っているんです」

「風の軍勢が? ブルータスさんは今どこにいますか?」

「ここですよ。魔王様」

 開いていた扉の方から女性の声が聞こえた。そしてその瞬間、伝令の青年の体が魔王の背後の壁に吹っ飛んでいった。青年が立っていた所の後ろには、ブルータスの姿があった。桃園は背後の青年を気にしつつも、ブルータスから目を逸らすことができないでいた。

「風の軍勢が、侵入者を守っているそうですが」

「ええ。私がそうするように命令しました」

「あなたは何をしにここへ?」

「魔王様、あなたを殺すためですよ」

 冷たい一言の後、ブルータスは右手に風でてきた刃を生み出した。そのままその刃の切先を魔王に向けた。肉弾戦が得意でない魔王は、なんとかこの場を切り抜けるために頭を働かした。とっさに思いついた方法は、これだった。

 魔王は机の上にスタングレネードを生み出した。さらに同時に両耳に耳栓を生み出し、後ろを向いた。

 まもなく、スタングレネードが炸裂した。強烈な爆破音と共に、閃光が部屋を包んだ。近未来の武器をまともに食らったブルータスは、両目を閉じ、両耳を塞いでその場にかがみ込んでしまった。

 その隙に魔王は、耳栓を外しながら暗殺者の横を通り過ぎて部屋を出た。そして、味方の兵士に侵入者の居場所を聞き、そこに向かった。敵はもう正面玄関のところまで来ているようだった。

 桃園は二階の廊下から一階ロビーに通じる階段に行こうとしたところで、急に引き返して壁に隠れた。ロビーでは既に玄関を破った反逆者たちが城内の兵士と戦っていた。

 顔だけを出してもう少し詳しく状況を確認した。こちらがかなり押されているようだ。二頭ずつの狼と熊が、倒れた兵士に襲いかかっており、駐留している水の軍勢と炎の軍勢の数人も、風の軍勢の数に圧倒され、引きながらの応戦となっていた。

「これはまずいな。そうだ、メフィストさんに戻ってきてもらおう」

 魔法を媒介とするスマートフォン風の通信装置でメフィストに連絡を取った。が、繋がらなかった。

「向こうも大変なのかな。それとも、見限られたか」

 諦めの心と必死に戦いながら、もう一度ロビーの様子を見た。もうこちらの戦力は全滅していた。一階にも二階にも、階段にも兵士が倒れていた。

「そこにいるのは魔王だろ! いさぎよく出てこい!」

 正義の色を帯びた力強い声が響いた。青年の声だ。純真な若者に敵対されると、いよいよ自分が悪者であると思い知らされる。目を閉じて一呼吸した後、桃園は彼らの前に姿を現した。

「お前が魔王だな! 俺はお前を倒しに来た」

「……」

 魔王は返事をしなかった。黙ったまま階段をおり、正義の味方たちの正面に立った。

「どうして僕を倒そうとするんですか?」

「それは、お前のせいで不幸な人がいっぱいいるからだ!」

「僕のせい。なぜそう思うんですか?」

「それは……、お前が支配者だからだ!」

「そういうものですか」

 自分に恨みを向ける者が、弱者のルサンチマンの域を出ない程度の正義感しか持ち合わせていないことを知り、桃園は逆に憤りを覚えた。ルサンチマンの反作用のようなものだろう。魔王にも闘志が湧いてきた。

「裏切り者共々、もう容赦しません」

 魔王はいくつもスモークグレネードを生み出し、目の前にばら撒いた。それらはすぐに発動し、辺り一体が煙に包まれた。命を生み出す魔法使いは狼と熊を煙の中に突入させた。すぐさま肉が叩きつけられ、切り裂かれる音が聞こえ始めた。と同時に、風の軍勢が風を起こし、煙を吹き飛ばした。

「やったのか?」

 さっきまで魔王がいたところに、狼と熊に食いちぎられている、作務衣を着た死体が倒れていた。もちろん、それは魔王本人ではない。桃園は、奥の宴会場の扉に隠れ、鍵穴からその様子を見ていた。そして、四頭の猛獣が集まっているところで、自分の死体に仕掛けておいた爆弾を作動させた。

 爆発は死体を木っ端微塵にし、獣たちを周囲の柱や壁に吹っ飛ばした。動物らは気絶し、動かなくなってしまった。それを見ていた魔法使いは、新たな命、ミノタウロスとケンタウロスを二頭ずつ生み出した。ミノタウロスに柱の陰や二階を探させたが、魔王の姿は見つからなかった。というわけで、前の宴会場の方に進むことになった。

(さすがに多勢に無勢かな。なんだかいつもそうだった気がする。いつも僕は一人。特に本気で助けて欲しいと思った時ほど、誰も助けに来てくれない。現実世界もイセカイも、結局は同じなんだ。底辺にいようが頂点にいようが、引きこもりだろうが勇者だろうが、孤独からは逃げられない)

 そんなことを考えながら、ミノタウロスらが辺りを探している間に、魔王は宴会場の扉にトラップを仕掛けていた。扉を開けると作動する爆弾を生み出していたのだ。それを設置すると、宴会場の奥に移動し、追撃できる体勢をとった。

 しかし、魔法使いらは罠にはかからなかった。風の軍勢が強風によって触れることなく扉を開けた。そのため、爆弾はむなしく扉だけを破壊した。壊れた扉から奥にいる魔王の姿を視認すると、魔法使いと風の軍勢は、獲物を追い詰めるように広がって前進していった。

「引っかかりませんでしたか」

「卑怯者め。やっぱりお前は悪者だ」

「僕を倒して、それからどうするつもりなんですか?」

「そんなこと、終わってから考えればいい」

「僕がいなくなれば、それでみんなが幸せになると?」

「ああ。お前が諸悪の根源だからな」

「……そうですか。僕がいなくなれば……」

 宴会場が第二ステージとなった。だが、そこには華やかな匂いではなく、ガソリンの臭いが漂っていた。もっとも、この時代に生きる魔法使いらはそれがガソリンだとわかってはいないが。魔王は中央に空間を二分する鉄網を生み出した。

「小賢しい時間稼ぎだ」

 魔法使いはミノタウロス二体をやり、斧で鉄網をこじ開けさせようとした。ガシャン、ガシャンという音が広い空間に響く。それに続いて風の軍勢がカマイタチで鉄網を破ろうと構えた瞬間、いきなりミノタウロスの周りから炎が発生した。ミノタウロスが斧で鉄網を叩くたびに、金属と金属が擦れ、火花が飛んでいた。それがあらかじめ魔王が撒いていたガソリンに着火したのだ。炎の中から飛び出したミノタウロスは、火だるまになっていた。慌てて風の軍勢が風を起こして鎮火したものの、二体は戦闘不能になってしまった。

 炎はまだまだ大きくなっていく。それを見た魔王は階段をのぼり、二階の魔王の間の前まで後退した。取り残された魔法使いらは、風の軍勢が必死に消化活動をするも、炎の勢いが弱まることはなかった。

 そんな時、宴会場に雨が降り始めた。室内に起こったゲリラ豪雨だ。それにより、炎はまもなく消し止められた。と同時に雨も止んだ。魔法使いは後ろを向いた。そこには、梅雨将軍のブルータスが立っていた。彼女が天候を操り、雨を降らせたのだ。

「遅かったなブルータス」

「すまない。なにやら強烈な音と光を発する爆弾を食らったものでな」

 魔法使いとブルータスの会話に、魔王が割って入った。

「ブルータスさん。どうして僕を裏切ったんですか?」

「魔王様。あなたさえいなくなれば、世界に平和が訪れるからですよ」

「僕という存在は、そんなにこの世界に害を及ぼしていたんですか」

「ええ。ですから大人しく消えてください」

 合流した彼らは、鉄網の焦げた部分をカマイタチで破り、奥に進もうとした。その時、二階からロケットランチャーが発射された。魔王の攻撃だ。弾は中央の魔法使いに向かって飛んでいった。ロケットランチャーを知らない彼らは動揺していた。反応が間に合わなかった魔法使いをかばうように、ケンタウロスが前に出て、身代わりとなった。ケンタウロスは後ろに吹っ飛び、風の軍勢の何人かを巻き込んで壁に激突した。そこにすかさず魔王はもう一発のロケット弾を発射した。しかし、それはブルータスのカマイタチにより両断され、不本意なところに着弾し、爆発した。

「怪しい魔法を。この世界の異物らしいな、魔王」

「異物……。確かに、僕はそういう存在なのかもしれません」

「今更懺悔したところでもう遅いぞ」

「この世に生まれてきたことに、理由なんてあるんですかね」

「死んでからあの世でじっくり考えるがいい!」

 魔法使いと風の軍勢は、魔王の方に向かって走り出した。桃園は魔王の間まで引き、扉を閉めた。敵はとうとう、魔王の間の目の前までやってきてしまった。

「往生際の悪い奴」

 魔法使いらは、また扉にトラップが仕掛けられているのではと警戒し、少し離れて、風の魔法でこじ開けようとした。

 その時、いきなり扉がガタガタを音を立て始めた。反逆者たちは身構えた。次の瞬間、扉がもの凄い勢いで彼らの方に飛んでいった。二枚の扉は風の軍勢の数人に直撃し、その者たちを戦闘不能にした。扉のなくなった魔王の間からは、強風だけが吹き抜け続けていた。魔王は部屋の中で大量の空気を生み出していた。内と外との気圧差で、扉が吹っ飛んだというわけだ。

「なかなかやるな。だがもう追い詰めたぞ」

「……」

 魔法使いは、ケンタウロスに矢を打たせた。魔王は矢を防ぐために、一面に氷の壁を張った。矢は壁を貫通することなく、表面を少し傷つけるだけにとどまった。魔法使いらは魔王の間に足を踏み入れた。

「とうとうここまで来たぞ」

「ああ。あと少しだ」

 風の軍勢は強風で氷の壁を破ろうとした。それに加えて、魔法使いは火で氷を溶かすため、火竜を生み出そうとした。

 が、その時、氷の壁が突然割れ、大量の破片が魔法使いらの方に飛んでいった。全員が重軽傷を負った。魔法使いとブルータスは、ケンタウロスがかばったために軽傷で済んだが、ケンタウロスは倒れ、また他の風の軍勢は全員動けなくなってしまった。魔王は、扉と同じことをした。空気を大量に生み出し、気圧差で氷の壁を割ったのだ。

「二対一ですね」

「おいおい。俺に数は関係ないのがまだわからないのか?」

 魔法使いは隣にルシフェルを生み出した。ルシフェルは黒い羽を六枚持ち、闇のオーラを漂わせていた。なぜかその悪魔も、スーツ姿だった。

「そうでしたね。まさか悪魔まで生み出せるとは」

 桃園はフラッシュグレネードをばら撒いた。そして自身は後ろを向き、ロケットランチャーを生み出した。

 フラッシュグレネードが炸裂したのを聞いてから振り返った。怯んだ隙にロケット弾を撃ち込もうと思っていた。しかし、実際は誰も怯んだ様子がなかった。ルシフェルが、闇の力で閃光を打ち消してしまったようだった。

 魔法使いとブルータスとルシフェルは、魔王を追い詰めるようにゆっくりと前進し始めた。魔王は厚みのあるダイヤモンドの壁を生み出し、時間稼ぎを図った。

 ところが、壁は瞬時に上下に切断された。さらに、上側の壁がこちらに倒れかかってきた。握っていたロケットランチャーを発射し、魔王はなんとか圧し潰されることを回避した。

 上の壁は魔法使いの側に傾いた。そこには、いかなるものも切断してしまう勇者がいた。魔法使いはさらに、いかなるものも破壊してしまう戦士を生み出し、倒れかかってくるダイヤモンドの壁をハンマーで破壊した。

 魔王は絶望した。ダイヤモンドの壁が少しの時間稼ぎにもならなかったことに。ダイヤモンドの破片がこちらに向かって飛んでくる。きっと、ブルータスが強風を起こしているからだ。その中に、一人の青年が飛び出してきているのがわかった。見たことのない若者だ。

 我に返った時には遅かった。飛んできていた青年は、魔王の目の前まで来ていた。そして、右手を伸ばし、魔王の胸部に触れた。

「まさか、君は……」

 触れたものの命を奪う魔法使いによって、魔王は命を奪われてしまった。

               *

「おかえりなさい」

「……お疲れ様です」

 桃園は女神の間に連れ戻されていた。女神は座り込んでいる桃園の前で、足を組んで椅子に座っていた。

「今回は、自分がどうして死んだのか理解できてるかしら?」

「できれば、お願いできますでしょうか」

「ええ。まず、ダイヤモンドの壁がすぐに壊されちゃったけど、それはあなたが自害に追い込んだ、なんでも破壊できる戦士と、なんでも一刀両断することのできる勇者のコンビネーションによるものね」

「ああ、命を生み出す魔法使いが生み出したと」

「そう。それで最後に命を奪う魔法使いを生み出して、あなたに触れさせたというわけね」

「それは、命を奪う魔法使いも、死んでいたってことですか?」

「そうよ。あなたの兵を引きつけるだけ引きつけて、それから自害したの」

「陽動作戦だったんですか……」

 桃園はガックリと肩を落とし、後ろに手をついた。

「まあ、してやられた割には、奮戦した方なんじゃない? その上裏切り者までいた中で」

「魔王は敵が多すぎますね」

「魔王にはもう懲りたかしら?」

「はい……」

 桃園はなぜか正座に座り直した。

「それで、次はどうする? どう生まれ変わりたい?」

「あの、この転生って、あと何回できるんでしょうか」

「何回でもできるけど?」

「え? いいんですか?」

「いいわよ。ここに連れてこれらた理由を見つけるまでは嫌でも転生し続けてもらうわ」

「なんだかそう言われると怖いです」

「さあ、次はどうするの?」

「そうですね、次は人助けがしたいです」

「あらゆるものを手にした人間が最後に見つける道ね。いいわよ。それで、具体的には?」

「なんというか、自分の苦悩が誰かの苦悩を救うのに役立つのがいいですね」

「いいわ。その願いを叶えるのにぴったりな世界があります。それじゃあ、」

「あっ、ちょっと待ってください」

 女神が指パッチンをしようとしたのを、桃園は妨げた。女神は指パッチン未遂の腕を下ろした。

「どうしたの?」

「あの、今度は女神様も一緒に来てくれませんか?」

「どうして?」

「ずっとこの場所から見てるだけなのも退屈かなと思って」

「本当にそれが理由?」

 女神は目を細めて疑うように言った。桃園は慌てた様子で返した。

「たまには女神様が、行き詰まったり迷ったりするところも見てみたいなと」

「ふ〜ん」

「すいませんでした。一人じゃ寂しいので来て欲しいです……」

「よろしい」

 そう言うと、女神は椅子から立ち上がり、正座している桃園の目の前まで歩いた。

「あっそうだ。あなた、そろそろその何でも生み出せる魔法っていうのにも飽きたんじゃない?」

「いえ、全然」

「私が見てるの飽きたから、他の魔法に変えるわね。今度の魔法は、空間から空間を生み出す魔法よ。それじゃあ行きましょう」

 女神は指パッチンをした。二人の足元のタイルが消滅した。

「え? あっ」

 二人はイセカイへと落下していった。

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