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不必要な加護  作者: 猫殿
8/28

8 決意


 もう遅いから寝ろ、と屋敷に用意されていた部屋で一晩過ごし、翌日私はまたラザ様に会いにきていた。


 「ラザ様。お願いがあるのですけど」

 「なんだ」


 今日のラザ様は顔の左半分を専用の覆いで隠してしまっている。傷が見えていてもかっこいいのに。


 「今日はなぜ傷を隠しているのですか?」

 「……」


 答える気がないようだ。


 「傷を見せて欲しいと言うのが願いか」


 嫌そうな顔をされてしまった。


 「あ、違います。その、許可を頂きたくて」

 「許可?」

 「はい、ラザ様を愛する許可を!」


 昨日の夜散々考えた。そして沸々と怒りが湧いてしまった。女神の加護がないと、私がラザ様を愛する訳がないと言われてしまったのだ。


 彼はそこまで卑屈になるほど落ちぶれてしまったのか?傷を負ってもなお威厳に溢れているではないか。自分をそこまで低く見ていることが気に入らない。それなら女神の加護が追いつけないほどに彼を愛して愛して愛しまくってやろうではないか。貴方は素敵だと本人に自覚させたい。


 それに、1人だけを思い切り愛せると言うのは私にとっても嬉しい話だった。


 彼に加護が無くなったと嘘をつき続けるのは心苦しかったが、私が彼を愛することに無駄な疑念を抱かせたくない。


 と言うのは建前で、単純に彼に知られてしまうのが怖かった。今まで周りから奇異な目で見続けられていた。この人にだけは普通の女性として接したい。


 気合い十分!と拳を握る私をラザ様は目を少し見開いて無言で見つめ、すぐに半眼で私を睨む。


 「……なんのアピールか知らないが、俺や屋敷の皆に迷惑をかけないのであれば好きにすればいい」

 「やった!ありがとうございます」


  呆れた様子の彼を置いて私は自室に戻り計画を練り始めた。


 まず、彼の仕事を知る。これは大事だ。あとは出かける時の玄関までの送り迎えと、食事を一緒に摂ること。やりたい事が次々と出てくる。粗方をノートに書き出し、私はその日の夕食の席でラザ様を質問攻めにした。


 「普段お仕事は何をされているんですか?」

 「騎士団で稽古をつけている。後は戦闘計画を練ったり、戦争が起きた際の諸々の計算や、現在の騎士団の収支の確認などだな」

 

 面倒臭いだろうに、彼は律儀に毎回きちんと答えてくれる。優しい方だ。時々加護の力を感じることはあったが、私は自分の意思で彼に好意を持っていると確信していた。


 「ふむふむ、なるほど。私が仕事場にお邪魔したらご迷惑ですか?」

 「……迷惑だと言ったらやめてくれるのか?」


 痛い所をつかれた。


 「う、その……ラザ様が嫌だと思うことはしたくないのですが......」


 恥ずかしくなりもじもじとしてしまうが、彼を愛しまくると決めたではないか。私は彼の方を見ずに聞こえるか聞こえないかという音量の声を絞り出した。


 「も、もう既にラザ様の事が結構好き、なので、出来れば仕事場に行くことも許可して頂きたい、です」


 顔が熱くなるのがわかる。男性に告白したのなんて初めてのことだ。


 「……騎士舎に来ることを禁止はしないが......君は趣味が悪いな」

 「なっ、それは聞き捨てなりません!ラザ様は素敵です!」

 「趣味が悪いと言われたことに怒らないのか」

 「他の趣味は自分では判断出来かねますが、ラザ様を好きなことについては自分でも趣味が良いと自負しますよ」


 鼻高々、と胸を張ってみせるがラザ様は特に思うところはないようでじっとこちらを見ているだけだった。


 「あの、許可頂いた矢先に申し訳ないのですが、もし私の言動が本当に不快に感じたら逐一仰ってくださいね。これは自己満足でもあるので」

 「自己満足?」

 「はい。私は今まで特定の誰かを愛することは出来ないまま過ごしてきました。それがとても苦しかった」


 ターシャの顔が浮かび、手を強く握りしめた。


 「溜まっていた鬱憤が晴らせるから俺がちょうどいい標的になったわけか」

 「い、嫌な言い方しないでください!」

 

 これは誠実な気持ちです!と言っても彼は納得していないようだ。


 「夫婦になったんですから、別に普通のことだと思いますけど!」

 

 怒ってみせるがラザ様は素知らぬふりだ。これはかなり手強い。私の加護は愛の見返りを求めない。だから無償の愛を存分に注ぐことが出来るのだが、彼はそれを受け取ろうとしないのだ。


 こうなったら毎日彼に愛を叫んでやろう。


 「ラザ様!私毎日ラザ様を好きだと言葉にするし、行動にも移します!ただ、先ほども言ったようにこれは自己満足です。嫌だとか、不快に思ったらすぐに言ってくださいね」

 「積極的なのか消極的なのかわからんな」


 彼の表情を窺いたかったが、タイミング悪く右を向いている。傷がある側を覆ってしまっているのでこちら側からは彼の気持ちを推し量ることは出来なかった。


 ずっとお話ししていたはずなのに、いつの間にかラザ様は夕食を食べ終えていたようで、彼は仕事が残っていると執務室に引っ込んでしまった。


 

 ******


 

 ボーフォート家に嫁入りしたからには何かしら仕事をしなければいけない、と思っていたのだが、ラザ様が言っていた通り仕事は彼1人で回っているようだ。


 そもそも領地を経営している訳ではないので仕事量もそこまで多くないのだろう。

 

 となれば、やる事は決まってくる。


 「旦那様の仕事場へ行きましょう!」


 彼が仕事をしている姿を見たいと言うのも嘘ではないが、今回は明確な目的がある。改良している染粉の完成まで後少しなのだ。どこか屋敷で使っていい部屋が無いか伺いに行きたい。

 

 用事があった方が緊張せずに突撃できる気がする。と言うのが本音だが。


 「奥様、差し入れに何か持って行かれますか?」


 老齢の執事が助言してくれた。良く気がつき、いきなり屋敷に来た私にも優しくしてくれるナイスミドルだ。名前はアトレイ。グレイヘアが素敵。


 「えぇ、何か……ラザ様は何が好きなのかしらね」

 「旦那様は体を動かされるので、少ししょっぱい物がいいかもしれませんね」

  

 何と的確なアドバイスなのだろう。


 「そうね、塩を少し混ぜたクッキーにしましょう!甘さ控えめにして、男の人でも食べやすいように……」


 今回は甘さ控えめなものを用意するが、甘いのとどちらが好きか聞いてみよう。好きな人のことを考えながら何かを用意する事がこんなに楽しい物だとは。


 「きっと旦那様もお喜びになります」

 「そ、そうかしら。そうだと良いけど……」

 

 出会って今までのことを振り返れば、私が何か用意したところで彼が喜ぶ姿は想像できなかった。


ありがとうございました!

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