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不必要な加護  作者: 猫殿
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4 手紙


 悪意から妹を守ろうと誓った私の決意はどうやら方向を間違っていたらしい。


 「君、アステル嬢の妹なんだって?」

 「困っていることがあったら何でも言ってね」

 「重いものなんて持たなくていいよ」


 今日もターシャの周りに男子学生が群がっている。姉の贔屓目に見てもターシャは可愛いのだが、そう感じるのは他の人も同じだったようだ。


 「ターシャ!!!」


 大声で妹を呼ぶ。男子学生の隙間から私を見つけたターシャが彼らを押し除けてこちらに駆けてきた。


 「いつまでかかってるのよ」

 「ご、ごめんなさい」


 側から見たら、妹をこき使う意地悪な姉に見えているだろう。実際そう言う噂はもう立ち始めていた。妹を無理やり自分の世話係にした酷い姉だとか、妹に近づく男を嫉妬から追い払う心の狭い姉だとか。


 妹の可愛さが分かる人たちの事が憎いわけではない。むしろ良くわかっている、と後方腕組みでもしたい気分だ。だが妹に近づいてくる男は大抵素行がよろしくない。妹の見た目が小動物のようだからとそう言う男が寄ってくるのだろう。


 妹に集る悪い虫を払っているうちに、私に近づいてくる男子もいなくなっていた。


 だがそれは私にとって好都合だ。


 家にいる間は特に問題がなかったのだが、学校に来てから女神の加護に振り回されていたのだ。女性相手なら友愛に留まるところが、男子相手ではそうもいかない。誰かれ構わず愛さずにはいられないのだ。今後女神に会うことがあれば一言物申したい。


 見かける男全員を愛すのが本当に女神の加護なのか?と。


 呪い以外の何者でも無いではないか。


 学校では授業を受ける以外は教室から出るようにし、生徒に絡まれているターシャを見かければ助ける生活が続いていた。

 



 ******

 


 「お姉様、お父様から手紙が来てますよ」


 ターシャが手紙を私に手渡す。他の貴族が連れてきたメイドたちに良くしてもらっているようで、最近のターシャはメイドの仕事が板についてきていた。2人の間の空気が少し柔らかいものになったように錯覚してしまう。


 私は学校に来てから一度も妹を叩いていない。その事実を妹がどう思っているのかは分からなかった。聞く勇気が無いのだ。彼女が私を嫌っているのは疑いようの無いことなのだから。


 「ありがとう」


 礼を言い手紙を受け取る。父から近況報告の手紙がたまに来ることはあったが、前回の手紙からそう日にちが経っていない。一体どんな内容だろう。


 「……は?」

 「お姉様?」


 手紙を持つ手が震える。


 「こ、婚約って……」

 「え、お姉様誰かと婚約するんですか?」


 ターシャが可愛く首を傾げた。


 「するんじゃなくて、もうしてるみたいよ」


 手紙をターシャにも見えるように掲げた。相手はどうやらこの学園内にいるらしい。男子と顔を合わせないようにしているから、名前だけでは誰だかわからないが。


 「お父様、なんでそんな勝手なことを……」

 

 流石のターシャも呆れ顔だ。


 「お相手は侯爵位らしいわね。お父様も断れなかったんでしょう」


 きっと侯爵家の方も、女神の加護を受けているという令嬢を箔をつけるために引き入れたいのだろう。


 「その方と結婚するんですか?」

 「結婚ねぇ……」


 私は手紙を机に放った。会ってみないことには何もわからないが、加護のせいで私が彼を愛してしまうことだけは確定していた。



******




 翌日、今度は学園内の生徒から手紙が届いていた。


 「例の婚約者の方からですかね」

 「多分そうね」


 白く輝く手紙が恐ろしく感じたのは初めてだ。


 恐る恐る内容を確認すると、今度の放課後2人で会おうと簡潔に書かれていた。


 「ターシャ、着いてきてくれる?」

 「はい、構いませんよ」


 流石に1人で行く勇気はない。妹は即答でついて来てくれると返事をしてくれた。彼女はこの数ヶ月でとても成長していた。私と話すことさえ苦痛だろうに、メイド然とした態度を崩さずに誠実に働いてくれている。妹を傷つけることでしか守れなかった自分が情けなくなる。いや、守れていたのかさえ分からない。私が味方につかなかったことで彼女を更に追いやってしまった。


 「……ありがとう」


 鼻がツンとして、慌てて顔を逸らした。


 「お姉様?」

 「何でも無いわ。もう寝なさい」


 ターシャの方を見ずに手を振り仕事の終了を告げる。妹は深く聞いてくることはせず、静かに就寝の準備を始めた。 

ありがとうございました!

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