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アフタートーク:星空の下の宴

(エンディングの後、再び休憩所「失われし星空のサロン」。中央の大きなテーブルには、先ほどよりもさらに豪華な料理と飲み物が並べられている。暖炉の炎が暖かく空間を照らし、穏やかな音楽が微かに流れている。)


(ピタゴラスの前には:彩り鮮やかな蒸し野菜や新鮮な果物(無花果、葡萄など)、ナッツ、蜂蜜、そして透き通ったハーブウォーターのデキャンタ。シンプルだが素材の良さが伝わる。

ヘーゲルの前には:ふっくらとした白ソーセージ(ヴァイスヴルスト)、香ばしいプレッツェル、温かいジャーマンポテトサラダ、そして泡立つヴァイツェンビアのジョッキ。ドイツの家庭料理を思わせる。

曹操の前には:豪快な羊肉の串焼き(孜然の良い香り)、ほかほかの蒸しパン(饅頭)、棗の甘煮、そして琥珀色の紹興酒が注がれた杯。大陸の力強さを感じる。

キルケゴールの前には:数種類のスモーブロー(ニシンの酢漬け、小エビとディル、ローストビーフとレムラードソースなど)、バターの香り豊かなデニッシュペストリー、そして深煎りコーヒーのポット。北欧の洗練されたカフェのよう。)


あすか:「皆様、長時間の対談、本当にお疲れ様でございました!激論の後はお腹も空くでしょう?ささやかではございますが、皆さんの故郷や時代を偲んで、わたくしども自慢の時空修復師シェフチームが腕によりをかけてご用意いたしました。どうぞ、ごゆっくり召し上がってください。」


曹操:「ほう、これは気が利いているな、小娘。して、これは一体…?」(羊肉の串焼きを指差す)


あすか:「それは、曹操閣下の時代の宴席をイメージして、羊肉を香辛料と共に炙り焼きにしたものだそうです。紹興酒もご用意しましたよ。」


曹操:「(満足げに頷き、串を手に取る)うむ、良い香りだ。どうだ、ヘーゲル殿も一本やらんか?議論の後の一杯は格別だぞ。」


ヘーゲル:「(ビールジョッキを手に)いや、私はこちらで十分だ。だが、その肉は実に美味そうだ。プロージット(乾杯)。」


ピタゴラス:「(無花果を一つ手に取り)私はこれで満足だが…この大地の恵みには感謝せねばな。実に甘美だ。」


キルケゴール:「(コーヒーを一口飲み、ほっとした表情で)このコーヒーは素晴らしい…。あ、これはスモーブローと言って、デンマークでは一般的な軽食です。ライ麦パンの上に色々な具材を乗せて…。ピタゴラスさんも、こちらのお野菜のスモーブローなどいかがですか?」


ピタゴラス:「ふむ、見た目も美しいな。では、少しだけいただこうか。」


(それぞれが料理を味わい、和やかな会話が始まる)


ヘーゲル:「しかし、曹操殿は詩もよく嗜まれると伺ったが、本当かね?あの現実主義的なお考えからは、少し意外な気もするが。」


曹操:「ほう、どこで聞いたのかは知らんが、まあ、嗜む程度にはな。(紹興酒を一口飲み)戦や(まつりごと)だけでは、人の心は渇くものよ。詩は良い。言葉では言い尽くせぬ、この胸の内にある複雑な想いを託すことができるからな。『短歌行』などは、あるいは君たちの時代にも伝わっているかもしれんな。」


キルケゴール:「(目を輝かせ)『短歌行』!存じております!なんと、あのような力強くも、人生の儚さを歌った詩を、閣下ご自身が…!実は、私も言葉の響きや、それが持つ表現の力には、特別な想いがあるのです。時に、論理を超えた真実を、詩的な言葉が捉えることがあるように感じます。」


ヘーゲル:「ウム、詩的言語もまた、精神の重要な表現形態の一つだな。私も若い頃には、シラーやヘルダーリンの詩に感銘を受け、自らも筆を執ろうとしたものだ…まあ、才能はなかったようだがな。」(珍しく、少し自嘲気味に笑う)


ピタゴラス:「言葉も、音楽も、そして数も、根源は同じかもしれんな。目に見えぬ魂の形を、それぞれの方法で表現しようとする試みだ。言葉の響き、音の調和、数の秩序…それらは全て、宇宙の根源的な『ロゴス』の現れなのだから。」


あすか:「(微笑ましく見守りながら)皆さん、議論の時とはまた違った、素敵な表情をされていますね。詩や音楽の話で、こんなに盛り上がるなんて。」


曹操:「まあ、たまにはこういうのも悪くない。…それにしても、皆、それぞれのやり方で、孤独な道を歩んでいるのだな、と感じたぞ。」


キルケゴール:「(静かに頷く)…ええ。真理を探求するということは、多くの場合、他者とは違う道を、一人で行くことなのかもしれません。」


ヘーゲル:「だが、その孤独な思索も、こうして他者と交わることで、新たな光が見えることもある。」

ピタゴラス:「うむ。異なる魂が触れ合うことで、互いに磨かれるのだな。」


(和やかな時間が流れるが、その時、どこからか、キラキラと星が瞬くような、清らかで少し寂しげな音が聞こえ始める。)


あすか:(その音に気づき、少し寂しそうな表情になる)「…ああ、どうやら、本当に、お別れの時間が来てしまったようです。夢のような時間は、いつか終わりが来るものですね…。」


(対談者たちも音に気づき、互いに顔を見合わせる。名残惜しそうな、しかし、どこか覚悟を決めたような表情が浮かぶ)


ピタゴラス:「(立ち上がり、姿勢を正す)…時は来たようだな。諸君との対話、私の長い魂の旅路においても、忘れがたい一時であった。魂の糧となったことに感謝する。さらばだ。」


ヘーゲル:「(同じく立ち上がり、軽く会釈する)ウム。実に刺激的な邂逅であった。我々はそれぞれの時代で、それぞれの精神の段階を生きることになろうが…またいつか、どこかの『精神』の高みで再会できるかもしれんな。では、諸君、健闘を祈る。」


曹操:「(豪快に立ち上がり、杯に残った酒を飲み干す)ふん、まあ、達者でな。それぞれの『真理』とやら、せいぜい己の信じる道を突き進むがいい。俺は俺のやり方で、再び天下を目指すとしよう!」(力強く言い放つ)


キルケゴール:「(立ち上がり、胸に手を当てる)…さようなら。この奇跡のような出会いを、私は生涯忘れないでしょう。ピタゴラスさん、ヘーゲル先生、曹操閣下…皆さんのそれぞれの実存の上に、神の恵みがあらんことを、心から祈っております。」


(一人、また一人と、彼らの体が淡い光に包まれ始める。互いに最後の視線を交わし、頷き合う)

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― 新着の感想 ―
 やはり曹操が曹操でなく諸葛亮。  同じ傲慢な存在であれど曹操は他者の意見を無下に扱うことはありませんし、己に過ちがあれば素直に認める謙虚さも持ち合わせていますしね。  さて、今回のテーマ『真理とは…
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