ラウンド1:我が「真理」の定義と到達法
あすか:「さあ、いよいよ本題に入りましょう!ラウンド1のテーマは『我が「真理」の定義と到達法』!皆さん、まずはご自身の信じる『真理』とは一体どんなものなのか、そして、どうすればその高みに辿り着けるのか、じっくりと語っていただきたいと思います。」
あすか:「では、オープニングで宣言された通り、万物の根源に『数』を見出されたピタゴラスさんから、お願いできますでしょうか?あなたにとっての『真理』、そしてその扉を開く鍵とは何なのでしょう?」
ピタゴラス:(静かに頷き、背筋を伸ばす)「よかろう。私が探求する『真理』、それはこの宇宙を貫く根本的な『秩序』であり『調和』に他ならない。そして、その秩序と調和の根源にあるものこそが、『数』なのだ。」
あすか:「数、ですか…?あの、1,2,3…の数、ということでよろしいでしょうか?」
ピタゴラス:「然り。だが、単なる計算の道具ではない。数は、世界のあらゆる事象…天体の運行、音楽の美しい響き、そして我々の魂のあり方までをも支配する、聖なる法則そのものなのだ。例えば、諸君が美しいと感じる音楽の和音も、弦の長さが単純な整数比にある時に生まれる。これは偶然ではない。宇宙が数学的な調和によって成り立っている証左なのだ。」(指でテーブルに幾何学模様を描くような仕草をする)
曹操:「ふん。音楽や星の動きか。それはそれで結構だが、それがどうしたというのだ?その『数』とやらで、明日の戦に勝てるのか?飢えた民の腹を満たせるのか?」
ピタゴラス:(曹操を静かに見据え)「目に見える現象、束の間の勝利や満足だけを追う者には、永遠の真理は見えぬであろうな。真理に至る道は、単に数を学ぶだけではない。我々の『魂』そのものを浄化し、輪廻の輪から解き放つための厳格な修行…食事を律し、言葉を慎み、瞑想を通じて、宇宙の根源たる数の調和と一体となること。これなくして、真の知恵は得られぬのだ。」
あすか:「魂の浄化…!なんだか一気に神秘的になってきましたね…!数学と魂の修行が結びついている、と。」
ピタゴラス:「数への理解は、すなわち魂の理解へと繋がる道だからだ。」
あすか:「ありがとうございます、ピタゴラスさん。宇宙と魂を結ぶ『数』の真理…壮大ですね。では、続きまして、ヘーゲル先生。先生の『真理』は、また違った形をしていそうですが…?」
ヘーゲル:(ピタゴラスの話を吟味するように頷き、ゆっくりと口を開く)「ウム。ピタゴラス君の言う数の秩序も、ある段階においては重要な『理性』の現れと言えよう。だが、真理とは、そのような静的で固定されたものではないのだ。」
あすか:「と、言いますと?」
ヘーゲル:「真理とは、いわば『過程』そのものなのだよ。世界は、そして人間の精神は、常に矛盾を抱えながら、それを『止揚』…つまり、対立するものをより高い次元で統合することによって、発展していく。この絶え間ない自己運動、自己展開こそが『絶対精神(Geist)』であり、それこそが真理なのだ。」(指で螺旋を描くような仕草をする)
キルケゴール:「(小さく)また出た…絶対精神…」
あすか:「ぜ、絶対精神…!先生、もう少し…あの、具体的に…?」
ヘーゲル:「例えば、歴史を見たまえ。自由を知らぬ専制の時代があり、それに反発する革命が起こり、そして法のもとでの自由な国家が生まれる。これもまた、精神が弁証法的に自己を実現していく過程の一例だ。真理に至る道とは、この歴史と精神の法則性を、哲学的な『思弁』を通じて、体系的に理解することに他ならないのだ。」
曹操:「なるほどな。理屈は立派だ。だがヘーゲル殿、あなたの言う『歴史の法則』とやらで、現実に起こる裏切りや奇襲、人心の機微まで説明できるのかね?戦場では、そんな悠長な理屈は通用せんぞ。」
ヘーゲル:「曹操君、君の言う現実的な事象もまた、大きな歴史の流れの中では意味を持つ。時には非合理に見える力や偶然さえもが、『理性の狡知』として、結果的に精神の発展に寄与することもあるのだ。全ては、この壮大な体系の中で説明可能だよ。」(自信に満ちた表情で)
あすか:「理性の狡知…!なんだか難しいですが、先生の理論の中では、曹操さんのやってることも説明できちゃうってことですか?懐が深いですね…!」
キルケゴール:「(苦々しい表情で)…その体系の壮大さが、個人の苦悩を飲み込んでしまうことに、先生は無自覚なようだ…」
あすか:「おっと、キルケゴールさん、何か言いたげですね?そのお話は、また後ほどじっくり伺うとして…ありがとうございます、ヘーゲル先生!発展するプロセスとしての『真理』…勉強になります!さあ、次は曹操閣下!先ほどから現実的なツッコミが炸裂していますが、閣下にとっての『真理』とは、やはり…?」
曹操:(腕を組み、他の二人を見渡してから)「決まっているだろう。真理とは『結果』だ。いかに高尚な理屈をこねようと、美しい数式を並べようと、現実に国を治め、民を安んじ、敵に打ち勝つことができねば、それはただの戯言に過ぎん。」(テーブルを軽く叩く)
あすか:「結果、ですか!シンプルで力強いですね!」
曹操:「そうだ。俺が生きたのは、昨日までの常識が明日には通用しない乱世だ。そんな中で頼りになるのは、机上の空論ではない。この目で見て、この耳で聞き、この肌で感じた『経験』であり、状況に応じて繰り出す『知略』であり、そして人を動かす『力』だ。真理に至る道などという小難しいものではなく、ただ、現実と向き合い、あらゆる手段を講じて勝利し、生き残ること。その積み重ねの中にしか、確かなものはない。」
ピタゴラス:「ふむ…力こそが真理、と。それはあまりにも獣に近い考え方ではないかね?人間には理性と、より高次の魂があるのだが。」
曹操:「獣で結構!綺麗事を並べて滅びるより、泥水をすすってでも生き延び、事を成す方がよほど人間的だと思うがな。ピタゴラス殿、あなたの清らかな魂とやらで、この私に勝てますかな?」(挑戦的な笑みを浮かべる)
あすか:「ひゃー!バチバチですね!まさに『力こそパワー』的な…いや、でも、その力で実際に時代を動かしたわけですから、説得力がありますね…!ありがとうございます、曹操閣下!では、最後はキルケゴールさん!皆さんの意見を聞いて、いかがでしょうか?あなたの『真理』を教えてください!」
キルケゴール:(深く息を吸い込み、情熱的な瞳であすかを見つめる)「…彼らの言う『真理』は、結局のところ、私という『この個人』の外側にあるものばかりだ!数も、絶対精神も、現世的な力も…!だが、真理とは、そんな客観的な、誰にとっても同じような顔をしたものではない!」
あすか:「と、言いますと…?」
キルケゴール:「真理とは『主体性』なのだ!この私自身が、この人生において、何を信じ、何を選び取り、いかに情熱をもって生きるか!その内面的な真剣さ、その選択と決断の『瞬間』にこそ、真理はある!それは誰かに教えてもらうものでも、計算や論理で導き出せるものでもない!」
ヘーゲル:「キルケゴール君、それは単なる主観的な思い込み、恣意的な感情論に過ぎないのではないかね?普遍的な妥当性を欠いている。」
キルケゴール:「(ヘーゲルに向き直り)おお、ヘーゲル先生!あなたの言う『普遍性』の影で、どれだけの個人の苦悩や叫びがかき消されてきたことか!私は、群衆の中に埋もれたり、壮大な歴史の歯車になったりするために生まれてきたのではない!この『単独者』として、不安や絶望と向き合い、時には理性では説明できない『信仰への跳躍』によって、神の前に立つこと!それこそが、真の実存であり、真理に至る道なのだ!」(胸に手を当て、力強く語る)
あすか:「主体性…!信仰への跳躍…!自分自身の内側にとことん向き合う、ということでしょうか。これもまた、他のお三方とは全く違うアプローチですね…!」
あすか:「いやはや、皆さん、ありがとうございました!数、絶対精神、結果、主体性…もう、スタートから全く違う方向を向いているというか、それぞれの『真理』の定義と、そこへの道筋がこれほど違うとは…!これは、次のラウンド、議論がどう展開していくのか、ますます目が離せませんね!」(興奮気味にまとめる)