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七翼の恩災  作者: 井ノ上雪恵
“七翼の恩災”捜索編〜閃光〜
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動物好きの迷子

 港街へと向けて道を歩いている二人は、順調に進むスピードを上げていた。

 とそこで、ラキが人型に変わって「そう言やぁ」と思い出したかのように口を開く。


「今は俺とお嬢の二人旅ですけど、これから“七翼の恩災”のメンバーが一人ずつ旅の仲間に加わるとすれば、歩きで旅をするのはかなり大変では?」


 ラキが疑問を口にする。

 言われてみればと、マイハも頭の中で想像してみた。

 現在、街から街への移動手段は徒歩だ。当然、必ずしも目的地が近いとは限らない上に、目的地までの道のりに休憩できる村や町があるとも限らない。下手をすれば何日も歩きっぱなしな上に野宿となるわけだ。マイハとラキだけならともかく、この先九人所帯になることを考えるなら、毎日の宿くらいは保障したいところだ。


「……それもそうだね。“神の遣い(アンジェロ)”の戦艦みたいなのがあれば良いんだけど」

「あぁ確かに」


 マイハの意見にラキも賛成する。

 “神の遣い(アンジェロ)”の戦艦は、まるで空に浮かぶ一つの街であった。大きな艦体の上に家や畑などを丸ごと乗せており、“神の遣い(アンジェロ)”達はその中で生活している。それも幾つもの艦隊から成っており、それは軍艦隊というより一つの国家のようだった。

 つまりは、どうせなら移動手段にも住む場所にもなるあしを手に入れたいという訳である。そうすれば日々の宿だけでなく、歩き旅からも解放される。


「今向かってる街は“職人の街”らしいですし、そういうのも探してみましょうか」

「そうだね」


 そういう訳で、一行は歩くスピードを加速させたのであった。



 *       *       *



 夕焼けの光を反射してキラキラと赤く輝く海。その上には幾つもの商船。港には沢山の品物が並んだ市場や工場、工房があり、街の中心にはレストランや土産屋などが建ち並んでいる。活気に溢れ返った最大の港街……ランゴタウン。通称“ランゴ”だ。

 無事その日の内に街の入り口まで辿り着いたマイハ達は、街の様子に「へぇ」と感嘆の声を上げる。

 数時間前まで居た町とは大違いの賑やかさだ。


「人が多いね」

「ですね。狼の姿に戻りましょうか?」

「否、そのままで良いよ。女一人と思われるのは厄介だからね」


 マイハがラキの提案を一蹴する。

 大きな街なら、それだけ怪しい連中も多いだろう。加えて港街は、各地から色々な人間が集う場所だ。


「これだけ人が居れば、情報の一つや二つくらいありそうだね」


 マイハが少しだけ期待に胸を膨らませる。

 早速二人は街へと入っていくのであった。



 *       *       *



 本当に賑やかな街だった。どの道を通っても、色んなところから客引きの声が上がっている。店によっては、その場で客のリクエストに応えて彫り物をしたり、客の選んだ布で服を仕立てたりしている所もあった。どの店もオーダーメイド可能なところが正に職人の街と言ったところか。


「まるでお祭り騒ぎだね」

「そうですね。ここまで活気のある街は久しぶりです」


 マイハとラキが周りの店をキョロキョロと見回していく。

 だが目当ては店の商品ではない。

 興味もそこそこに、マイハは「じゃあ」と港の方へと視線を向けた。


「まずは港の方にある工場に行ってみようか。そこでふねを作ってくれる職人探しながら、情報を集める。それで良いでしょ」

「はい」


 ランゴでの動き方は決まった。

 マイハの後に付いて行きながら、ラキは「有用な情報は集まるだろうか」と再び街の人々の様子を見る。


 ……アクセサリー店もあるのか。お嬢に似合いそうだな……否、それよりも情報が集まりそうな酒場の位置なんかを確認した方が……。


「!!…………」


 ラキが思わず立ち尽くす。

 視線を前に戻した時、そこには見知った白髪はくはつ頭が既に居なかった。


「…………しまった……」


 思わず両目を片手で覆って天を仰ぐラキ。

 どうやら迷子になってしまったらしい。



 *       *       *



「……………」


 ただただジィッと小鳥を見つめるマイハ。


 ラキが意識を他方へと向けている間。

 マイハは曲がり角の先に、子供達がたむろしているちょっとした広場を見つけ、進路を変更していた。

 子供達の手にはドッグフードのようなものが握られており、足元には数羽の小鳥。近くには『小鳥の餌やり』という看板が掲げられた露店もあった。

 マイハは一直線に小鳥達の元へと歩いていくと、餌を露店で買うことなく、子供達の間に入ってしゃがみ込む。

 人間嫌いのマイハだが、実は大の動物好きであった。


 ……あぁ〜、可愛い〜……。


 盛大にハートを飛ばしながら数分近く、淡く頬を染めて小鳥達を眺め続けるマイハ。


「お姉さん、餌やりしないの?」


 子供の一人がマイハに話し掛けた。

 いくら十代後半くらいに見えるマイハでも、集まっている子供達は平均五、六歳。そんな中、突然自分達よりも大人なマイハが無言で座り込めば、誰だって気になるものである。

 しかしマイハは気にすることなく「『餌やり』?」と尋ねてきた子を鼻で嗤った。


「自分で責任取れない子供が、野生動物に餌付けしちゃダメだって、大人達から教わらなかったのかね?それに、そんなことしなくたって……」

「「「うわぁ!!!」」」


 マイハの言葉を遮るように、子供達から歓声が上がる。

 餌も何も持っていないマイハの肩や膝、頭の上に、一斉に小鳥達が集まってきたのである。「チュンチュン」と囀る声は、まるでマイハに甘えているようだ。


「す、すっごーい!!」

「どうやってるの!?お姉さん!!」


 子供達がキラキラと羨望の眼差しをマイハに向ける。

 マイハはフッと笑うと、「ざ〜んねん」と見せつけるように指で小鳥達を撫でた。


「動物に好かれる体質になってから出直してきたまえ、子供達よ」


 実に大人気ないことである。

 軽く子供達からブーイングが起こるが、マイハは得意げに笑っているだけだ。

 とそこで、マイハに止まっている小鳥の内一羽が、バサリと空に舞い上がった。


「あー、行っちゃった!」


 子供の一人が残念そうに叫ぶ。

 マイハも名残惜しそうにその背中を見つめると、心の中で悩み始めた。


 ……あぁ〜、よりによってまだ触れてない子かぁ〜……。


 既に撫でている小鳥が飛んで行ったなら、動物の意思尊重派のマイハは後を追いかけるなどと無粋な真似はしない。当然、小鳥がマイハに触れられることを嫌がっているなら、例えまだ撫でていなかろうと無理強いはしないが、一度はマイハの肩に乗っかってくれたのである。マイハに触られるのが嫌という訳ではないだろう。

 マイハの心の天秤が急角度で傾いた。

 良しと内心頷けば、マイハは「ピュッ」と短く口笛を吹く。途端に小鳥達がマイハから離れ、子供達の足元へと戻っていった。

 マイハは徐に立ち上がると、視線を下へと向けて片手を持ち上げる。


「それじゃあ、いつか。また会う日まで」


 とびきり優しい声と表情でそれだけ残し、マイハは飛んで行った小鳥の後を追いかけて行ったのであった。

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