時を越えて結び直す
「……マイハーーーー!!!!」
一瞬の沈黙の後、『カナタ』と呼ばれた青年は、満面の笑みで両腕を広げながら、マイハに向かって飛び込んで来た。
当然マイハが自分の意思で実体化しない限り、マイハの魔力の前ではあらゆる物理接触が不可能である。
「グヘッ!!」
マイハの身体を思いきり擦り抜けたカナタは、お手本のように勢い余って地面に倒れ込んだ。
マイハはまだ状況に頭が追いついていないのか、唖然とした表情のまま固まってカナタを見つめている。対するカナタは大してダメージを負っていないようで、ムクリと起き上がるとクルリと振り返り、ビシッとマイハに人差し指を突き付けた。
「お前なぁ!!実体化しろよ!!思いっきり転けたじゃねぇか!!」
開口早々愚痴である。
脳内処理に手間取っていたマイハも思考を停止させ、カチンと売られた喧嘩を買った。
「は?何でわざわざお前の為に実体化してやらないといけない?つまらない寝言は寝てから言いたまえ」
「……お前ほんと変わんねぇなぁ〜。感心するぞ」
素っ気ないマイハの対応に、呆れを通り越して少しばかりの感動を覚えるカナタ。それに対して、マイハは「お前にだけは言われたくない」と額に青筋を立てた。
「大体ッ……何でお前がここに……本当にカナタなのか?お前はあの日……」
目を伏せ、グッと奥歯を噛み締めるマイハ。
カナタは真面目な表情を浮かべて、マイハの側まで歩み寄って来ると、マイハの背中へと腕を回した。マントで隠れる位置に取り付けてある小瓶を手に持つと、素速い動きで勝手に中身をマイハへとぶちまける。あまりに唐突過ぎて、流石のマイハも避けることができず中の液体をまともに頭から被ってしまった。
「……は?……テメッ、何しや……ッ!!?」
言葉の途中で、マイハの声が途切れた。
いきなりカナタに抱き締められたからだ。
驚きで身動ぎ一つできないマイハとは対照的に、カナタはニシシと白い歯を見せて嬉しそうに笑っている。
「ただいま!マイハ!!ずっと会いたかった!!!」
「………………」
眩しい笑顔にマイハが惚ける。
聞きたいことも言ってやりたい文句も沢山あったが、全てどうでも良くなってしまった。
マイハがフッと表情を緩める。
「本当にカナタなんだな……何してくれやがるんだ、テメェ!」
「イッテェ!!?」
穏やかな口調から一転。性格が変わったように荒々しい言葉遣いで、マイハはカナタの頭を容赦なく殴った。涙目になりながら、たんこぶのできてしまった後頭部を押さえるカナタ。
「何すんだよ!?」
「それはこっちのセリフだ!!私の物、勝手に使うんじゃねぇよ!!中身全部使っちまって……補充すんのも楽じゃねぇんだぞ!!?」
「別に良いじゃねぇか!そんなの無くたって、実体化しようと思えばいつでもできるだろ!?」
「そういう問題じゃねぇんだよ!!!」
「イッテェ!!!」
再度マイハの強烈な一撃がカナタを襲い、カナタは悲鳴を上げた。
どうやらカナタが勝手に持ち出した小瓶の中身は、マイハの意思関係なく、マイハの身体を実体化できる液体だったらしい。
魔力の効果を一部消せる液体など、聞いたこともないような稀少品である。マイハが怒るのも無理はない。
そんな常識もわからないのか、カナタは「すぐ手が出るんだからなぁ〜」とぼやいていた。
そんなカナタにマイハは溜め息を一つ溢すが、いつまでも言い合いをしてる場合でもない。
「カナタ。この際お前が生きてる理由はどうでも良い」
「否、ソコは気にしろよ」
カナタからツッコみが入るが、マイハはこれをスルー。涼しげな表情で話を続けた。
「ここに何しに来たかも、今何をしているかも知らねぇが……次私に会ったとしても、もう二度と関わってくるな。いくらお前が救いようのねぇ馬鹿とは言え、どういうことになるかは流石に学んだだろ。良いな?」
冷たい声でマイハが告げる。
冷え切った眼差しを受けて、カナタが黙ること五秒。胸を張ったと思えば、大きく口を開けて一言。
「嫌だ!断る!!」
堂々と宣言した。
清々しさすら感じられる否定の言葉に、思わずマイハは一瞬フリーズする。
だが我に帰れば、「ハァア!?」と眉を吊り上げた。
「テメェ、誰に向かって言ってやがる!?テメェの意見なんざ聞いてねぇ!!私はもうッ……お前の顔も見たくねぇんだよ!!!」
「嫌だ!俺はマイハに会いたい!!マイハと話したい!!マイハを触りたい!!ずっと一緒に居たい!!」
「テメェは餓鬼か!!?」
「好きな奴と一緒に居たいって思うのは当然だろ!!?」
「私はお前のことなんか、これっぽっちも好きじゃねぇんだよ!!!」
「なら俺のこと好きになってくれ!!」
「ふざけんな!!!」
段々と口論が加速していく。
互いに力が入っている所為か、一歩も動いていないにも関わらず、二人共「ハァハァ」と肩で息をしていた。
マイハは舌打ちを溢すと、憎悪を宿した瞳でカナタを睨み付ける。
「……『好きになってくれ』、だと……?ふざけるなよ……私がどんな気持ちでずっと…………嘘吐き……お前なんか大っ嫌いだ!!!」
赤らむ目元を隠すように、マイハは顔を背けて目を伏せた。
カナタは何も言わない。
ただ不思議そうに、身体ごと首を傾げている。
「??……俺、嘘なんか吐いてねぇぞ?」
「は?……どの口が……」
「そんなことよりさぁ……」
「聞けよ!!」
マイハのツッコみも虚しく、カナタは勝手に話し始める。
他人の話を聞かないのはカナタの悪い癖だ。
マイハは額の青筋をより一層深めながら、仕方なくカナタの話に耳を傾ける。
「マイハ、俺と一緒に来ねぇか?」
「は?」
「今俺さ、『革命団』の団長やってんだけどよぉ……」
「………………」
「マイハと一緒にやりてぇなって」と続けられたカナタの言葉など、最早マイハの耳には届いていなかった。
……今、何て言った?コイツ……。
思いもよらない単語に脳内処理が混乱してしまったマイハだが、数秒経てば通常通り脳が回転し始める。
「……『革命団』だとぉお!!!?」
思いきりマイハはツッコんだ。
珍しいマイハの大声に、カナタは一瞬ビクッと肩を震わせたが、すぐに「おう!」と白い歯を見せてくれる。
「『おう』じゃねぇ!『革命団』って……つまり革命団だろ!?お前が団長!?リーダー!?ふざけてんのか!?」
「ふざけてねぇよ!俺はいつでも真剣だ!」
ムッと眉根を寄せたカナタが、フンと胸を張る。
そんなこと、一々言われなくたってマイハにはわかっている。わかっているからこそ、腹が立つしツッコみたくなるのだ。
そんなマイハの心情など露知らず、カナタは尚も「なぁマイハ!」と続ける。
「一緒に来いよ!『お前が笑って暮らせる世界』……俺が作ってやるって約束だろ?隣で見ててくれよ!」
「!!…………」
「……覚えてたのか……」とマイハがボソリと溢した。
到底聞き取れないような声量だったが、カナタの耳には届いたらしく「当然だろ」とはにかむ。
「だからさ!一緒にやろうぜ、革命団!!マイハと一緒だと、絶対楽しい!!」
ウキウキと、まるで子供のようにはしゃぐカナタに、マイハはフッと柔らかく笑みを浮かべた。
……死にかけた癖に……否、一度死んだ筈なのに、それでもまだ……お前は約束を果たそうとしてんだな……なら別に良い……。
マイハはカナタの頬を両手で包み込む。
「お前とは一緒に行かねぇ。私には私のやり方がある。だから……これからは競争だ。どっちが先に約束を果たせるか、のな。お前が勝ったら、大人しくお前の気持ちを認めてやるよ」
「……ホントか!!?」
食い気味にカナタが聞き返す。
マイハがにんまりと頷けば、カナタは「よっしゃー!」とマイハの身体を思いきり抱き締めた。
すぐにマイハから「暑苦しい!離せ!」と怒号が飛び、カナタは言われた通り身体を離す。だがしっかり両肩は掴んだままだ。
満面の笑みでカナタは、左手の小指をマイハの前へと突き出す。
「絶対に俺が勝つ!!約束だ!!」
「シシシッ」と笑うカナタに、マイハが「約束を果たす為の約束って……」と呆れる。しかしその表情は穏やかだ。
マイハも小指を前に出し、カナタの指と絡める。
「精々頑張りたまえ、カナタ君」
「……お前ホントに変わんねぇなぁ(上から目線なとこ)……」
カナタがジト目を向ければ、マイハは素知らぬ表情でさっさと指を離した。
とそこで、「お嬢!」と焦った声が裏路地に響く。
ラキだ。狼の姿ではなく、人型になっている。
「……迎えが来たからもう行く。あぁ、そう言えばカナタ。お前何しにここに来た訳?」
マイハが尋ねる。
カナタは「ん〜?」と間の抜けた返事を溢した後、「それがよぉ」と眉を下げさせた。
「『俺達の名前を騙る偽物が居る』って騒ぎになって……仕方ねぇから、仲間と一緒に様子を見に来たんだ」
「!……そう……じゃあね、カナタ」
聞くべきことは終えたと、マイハが踵を返す。
その後ろ姿に向かって、カナタは大きく手を振った。
「またなー!!マイハー!!また絶対会いに行くからなー!!」
読んで頂きありがとうございました!
恐らく、この話を読んだ読者様は「否否どういうこと?」となっていると思います。
多分過去一謎を放り投げた話だと思いますが、深く考えずに流して読んで頂けたらと思います。
カナタのことや、マイハとの関係は後々出てきます。
次回もお楽しみに。




