再会
「……そんな、この反乱が仕組まれていたものだったなんて……」
「俺達はもう少しで、取り返しのつかないことを…………」
反乱軍を無事収めたレインは、マイハの指示の元、事の原因をこの場に居る国民達に説明した。
“悪魔”や“瘴気”のことは伏せ、今回は誰かの魔力が起こした事件であり、“祟り”の治療法は薬ではなく、犯人の魔力を上回る魔力で効果を打ち消すことだと話した。
嘘ではあるが、誰かの陰謀である点と“七翼の恩災”の魔力でないと解決できなかった所を鑑みても、全くのデタラメではないだろう。
「……マイハさん、本当のことを皆に教えなくて良いんでしょうか?」
怒りが鎮火し、落胆する人々に聞こえないよう、レインがマイハに耳打ちする。
国の存亡に関わる大事件だ。国民全員に真実を知る権利がある。
しかしマイハは首を横に振った。
「真相を知ったところで、“七翼の恩災”以外に解決できる人間が居ない。余計な不安を煽るだけなら、何も知らない方が都合が良いですよ。“悪魔”も“瘴気”も、人間の負の感情を餌にしますから」
「そう、ですか……“悪魔”を復活させることのできる人物……お父様にも上手く誤魔化して、犯人を特定できるよう国が尽力致します。今回の件、本当にありがとうございました!」
フワリと花が開くように、レインがマイハに向かって微笑み掛けた。
マイハはフイッと顔を背ける。
「お礼ならテトにどうぞ、オヒメサマ。私達はテトに手を貸しただけです。どうしてもと言うなら、国王にも政府の人間にも、私達のことを秘密にして頂ければ、それで結構ですよ」
「ええ!勿論です!」
愛想のないマイハの切り返しだが、レインに気にした様子はない。
元々そのつもりだったのか、マイハの申し出に力強く頷いた。
「……それで……」
満開の笑みに翳りを見せ、レインが言い難そうに目を伏せる。だがマイハが続きを促すまでもなく、意を決したようにレインは口を開いた。
「テトは……マイハさんと、他の“恩災”の皆さんと……一緒に行くんですよね?」
「……まあ、そういう条件で手を貸しましたからね」
あっさりとマイハが答える。
レインは「そうですか」と口を噤んでしまった。
無理もない。テトにとってもだが、レインにとっても初めての友達である。突然の別れは寂しいモノだ。
「……いつこの国から……?」
「さあ……テトの準備が済み次第ですね。早くて明日には出発しますよ」
「…………」
明日。
明日、友達とお別れになるかもしれない。
それでもレインは笑顔を浮かべて見せた。
「わかりました!では明日の朝、『小屋に行くから』とテトに伝えてください!」
それだけ伝えると、レインはマイハにペコリと頭を下げ、国王に“祟り”騒動が解決したことを報告する為に城へと戻って行った。
その後ろ姿を見送って、マイハは「さて」と身体の向きを変える。
元反乱軍の人達が、街中で倒れている元危篤患者達をせっせっと病院へと運んでいた。“瘴気”の影響が無くなったとは言え、体力が大幅に削られ意識がまだ復活しないのだ。
しかし命に関わることでもないので、マイハはその辺の元反乱軍の男に「ねぇ」と話し掛ける。
「ちょっと良い?」
「何だ?……!嬢ちゃん、さっきまでレイン様と居た……」
マイハの姿に見覚えがあったようだ。男が大きく目を見開く。
王女の知り合いと思われているなら、話は聞き易い。
マイハはニッコリと効果音が付きそうな程、綺麗に微笑んだ。
「お前らに武器を提供してくれたって言う『革命団』について、知ってること全部教えてくれない?」
* * *
……やっぱり大した情報は得られなかったね……。
王都の人気のない路地裏で、マイハが一人建物の壁に寄り掛かる。
あの後、何人かの元反乱軍の連中に話を聞いてみたが、『革命団』について知っている人間は殆ど居なかった。
話によれば、武器を無償で与えてくれた『革命団』の人間は、フードを目深に被り、身体全体が隠れるマントを羽織っていたらしい。声は男とも女とも取れないノイズのようなモノだったらしく、性別年齢共にハッキリしなかった。
……フードにマント……狼達から聞いた不審な人物と当て嵌まるけど、それだけじゃ同一人物とは言えないな。まあ繋がりがあるのは確かだろうけど……。
明確になることのない謎に、マイハは内心舌打ちを打つ。
だが考えても仕方のないことだ。
……できることはやったし、これ以上は時間の無駄だね。先にエール号に戻ろうかな……。
思考が纏まったらしく、マイハが壁から離れて自身の足で身体を支える。
「…………マイハ?」
「ッ!?」
突然声を掛けられて、マイハがバッと反射的に振り返った。
路地の出入り口に、青年が一人立っている。
黒単色のあちこちに跳ねた短髪。印象的な真紅の瞳。体型に比べて幼なく見える顔立ち。
……う、そ……そんな……まさか…………。
マイハは震えるように声を絞り出した。
「…………か、なた……?」
マイハの呼び掛けに応えるように、『カナタ』と呼ばれた青年はニカッと歯を見せて笑った――。




