始まった滅亡のカウントダウン
翌朝。
異様な空気の重さを感じて、マイハは目が覚めた。
すぐさま朝の支度を終え、エール号の自室から外へと移動する。
……コレは……。
マイハの視線の先では、シーナフォレストがザワザワと不気味な音を立てて、目に見える程の濃く暗い“瘴気”に包まれていた。
「お嬢!!」
ラキも起きて来たようだ。慌てた様子で、エール号から飛び出しマイハの隣まで駆けて来る。
「コレ……お嬢の言ってた“瘴気”、ですよね?……昨日より酷くなってませんか?」
「…………」
マイハは応えない。その表情は険しく、眉間に皺が寄っている。
それが何よりの答えだ。
昨日アルテとテトが祓った“瘴気”よりも、明らかに濃い。森に入ってすらいないのに、嫌な空気の圧迫感で押し潰されそうである。つまり“瘴気”の範囲が森の中だけに留まっていないということだ。
……何で……祓った“瘴気”が復活するなんて、そんなの一度も……しかも威力が上がってる……まさか……また“悪魔”が復活した……!?
口に出さず疑問に思うマイハだが、そう悩んでいる時間もない。
今日はレインを救いに行く日だ。
「マイハさーん!!!ラキさーん!!!」
「ッハァ!ハァ!ハァ!……」
とそこで、森の中からアルテとテトが走って来た。二人に“瘴気”による空気の重さは感じない筈だが、流石に一晩でこうも様変わりした森を見れば、異変に気付いたらしい。
焦った様子でマイハの元までやって来ると、乱れる息もそのままに「マイハさん」とアルテが口を開いた。
「あ、朝起きたら、森がすっごく暗くてッ……ハァ……テトさんが、『森の狼や植物達の様子が変だ』って言ってますしッ……マイハさん、コレって“瘴気”ですよね!?」
アルテが尋ねる。
森の異変を指摘したと言うテトは、アルテの隣でへばって倒れ込んでいるが、今はそんなことを気にしている状況でもない。
今度はマイハも応えてくれるようで「そうだね」と重く頷いた。
「間違いなく“瘴気”……それも昨日までのモノより、一段と酷い。この分だと、森に入らずとも“瘴気”に侵される人間が出てくるだろうね」
「な、何でッ……“瘴気”は昨日、俺とテトさんで祓えた筈なんですよね!?何でまたこんな……!」
アルテの疑問も最もだが、残念ながらマイハにも今回は知り得ないことが多い。
マイハは首を横に振ると、「一つだけ言えることがあるとすれば」と前置きをした。
「誰かが意図的に“悪魔”を復活させてるってことだよ」
「「「!!?」」」
マイハが断定すれば、三人がそれぞれ目を見開く。
そんな中、ラキは昨日のマイハとの会話を思い出していた。
〜 〜 〜
「『この国の滅亡』って……一体何でそんなこと……!?」
「さあね。でも……千年以上もの間、何処にも現れることのなかった“悪魔”が偶然シーナ国で蘇って、国民達の不満や怒りが募って来たタイミングで偶然『革命団』を名乗る連中が現れて、果ては都合良く武器の施しをしてくれました?有り得ないでしょ。それに加えて、“祟り”問題が起こる前に、森に怪しい人物が現れたって……どう考えても作為的なモノを感じる。恨みか嫌悪か、それともただの気紛れか。まあ何にせよ……ただ国を滅ぼしたいだけに、わざわざ『“悪魔”の復活』なんて馬鹿げた手段を使った、ふざけた奴が居るのは確かだよ」
「…………」
〜 〜 〜
昨日マイハから聞いた通り、祓った翌日に“瘴気”がまた復活したとなれば、“悪魔”を故意で蘇らせている人物が居るのは確かだ。
……本当に“悪魔”を復活させている奴が……この国を滅ぼそうとしている野郎が居るのか……。
ラキが改めてシーナ国を襲う問題の闇深さを理解する。
とそこで、隣に立っていたマイハの身体がグラついた。
「ッお嬢ッ!?」
慌ててラキがマイハの身体を支える。
マイハの顔を覗き込めば、青白くなった肌が見えた。間違いなく“瘴気”の影響だろう。
「マイハさん!!……テトさん、もう一度昨日みたいに魔力でッ……「待った!」」
アルテの言葉をマイハが遮る。
マイハはラキの身体を押し退け、ちゃんと自分の足で立った。
「誰かが故意に“悪魔”を復活させてるなら、いくら“瘴気”を祓っても無駄だよ。それに、今日の目的はソレじゃないでしょ。今昨日みたいな大技使えば、また魔力切れで倒れるよ。そんなことより、アルテにはやって貰いたいことがある」
「『やって貰いたいこと』、ですか?」
アルテが聞き返す。
その時……。
……ユルサナイ!コロセ!
……王ヲ殺セ!
急に流れ込んで来たコエに、テトが「ウッ!!」と呻き声を上げて、頭を押さえて苦しみ出した。
「テトさん!?どうしたんですか!?」
テトに“瘴気”の影響はない。アルテが驚いてテトの肩を抱く。テトは固く目を閉じ、唇をギュッと噛んでいた。
「……こ、コエが……」
「『コエ』……?」
マイハが首を傾げる……と同時に、街の方から一羽の鳥が飛んで来た。
「ピィ!!ピィピィ!!」
バサバサと忙しなく羽をバタつかせ、テトの頭上をグルグルと飛び回る。尋常じゃない様子だ。
鳥の言いたいことがわかるテトは、段々と顔を青褪めさせていった。
「……テト?どうかしたのか?」
ラキが恐る恐る聞けば、テトは震える唇で「どうしよう」と小さく漏らした。
「……反乱軍が……城に向けて進撃を開始したって……」




