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七翼の恩災  作者: 井ノ上雪恵
“七翼の恩災”捜索編〜貫波〜
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“七翼の恩災”の能力

「……『“七翼の恩災”の能力ちから』……ですか?」


 アルテが復唱しながら首を傾げる。

 マイハは「そうだよ」と頷くと、まずはアルテへと向き直った。


「アルテ、私の全身を『閃光』で照らすことってできる?」

「えっ……はい、できると思いますけど……」


 アルテが苦笑いで言い淀み、「えっと」と視線を横に逸らす。


「ちょっと待ってくださいね!?俺、魔力の扱い慣れてなくて……指先にちょっと出すくらいなら簡単にできるんですけど……」


 アルテが手の平に魔力を集中させようと力を込める……が、何分経っても光の片鱗すら現れない。

 溜め息を吐いたマイハは「じゃあテトからね」と、アルテからテトへと意識を移した。


「テト、さっきみたいに手の平に水の玉、出せる?」


『さっき』……『貫波』の説明をした時の話だ。

 テトは「うん」と首を縦に振ると、あっさり右手の平に水の玉を作り出した。

 それを確認して、マイハは「ラキ」とラキを見遣る。


「この水、飲みな」

「えっ!?…………」


 思わずラキが固まる。

 ギギギと、首をテトの手の平へと向ければ、自分がテトの手の平ごしに水を飲んでいる、見るに見かねない悍ましい光景が頭の中に思い浮かんだ。

 二十代後半にも見える目付きの悪い男が、未成年の少年の手の平から水を飲む……客観的に考えてレッドカードだ。

 ラキは顔色を悪くさせて、テトに「悪い」と一言断った。


「その水、コップとか皿とかに入れられるか?」

「うーん……どうだろ。できなくはないけど、力の加減が難しいから、一歩間違えると食器を貫通させて割っちゃうかも」

「そうか……」


 ラキは肩を落とす。

 こうなったら仕方ない。ラキは一度狼へと姿を変えた。

 これなら多少の見た目のヤバさは緩和されることだろう。

 狼姿のままテトへと近付くと、ラキはマイハに言われた通りテトの魔力でできた水を飲んだ。


「!?」


 そして目を見開く。


 ……さっきまでの気怠さや息苦しさが消えた……!?


 驚きながらも人間の姿へ戻れば、「お嬢コレは!?」とマイハに答えを求めた。

 ラキの反応に、マイハは「やっぱりね」とニヤリと口角を上げる。とそこで、アルテが「マイハさん!」と声を上げた。


「出ました!『閃光』!」


 笑顔を見せるアルテの両手の平には、確かに赤い光玉が輝いている。

 マイハは「良し」と両腕を少し広げた。


「じゃあアルテ、その光を私に当てて」

「はい!わかりました!……行きますよ」


 合図と共に、アルテが両手をマイハへと翳す。すると光の玉が更に赤く輝き、マイハの全身を照らした。

 魔力の扱いに慣れていない為、すぐに光はアルテの手から消えていく。それでも、マイハは自身の身体を襲っていた不調が、綺麗さっぱり無くなっていることに満足する。


「あ……すみません。すぐ消えちゃいましたけど、大丈夫ですか?」

「うん、問題ないよ。ただ、アルテは『強くなる』よりもまず先に、魔力のコントロール訓練から始めた方が良いね」

「ウッ……頑張ります」


 痛い所を突かれてショボンと背を丸めるアルテ。

 だがアルテに構ってる暇もないので、すっかり全快したマイハは気にせず「それじゃあ」と足先を扉へ向けた。


「外に出ようか」

「「「??」」」



 *       *       *



 早速小屋から外へと出たマイハ達。

 もう正午過ぎだと言うのに、相も変わらず森は暗い。

 何の説明も無いまま外に連れ出されたラキとアルテは、頭上に疑問符を散乱させているが、唯一心を読めるテトだけは半信半疑な様子でマイハのことを見つめていた。

 三者三様の視線を受けながら、マイハは森をグルリと見回した。


「……テト、此処は森の中心地ってことで良いんだよね?」

「うん……ねぇマイハ、ホントに()()()()()で“祟り”が消えるの?」

「さぁ?やってみればわかるんじゃない?」


 意味深な笑みでマイハが返せば、ラキから「お嬢、一体何を?」と質問が上がる。

 マイハは微笑を携えたまま、人差し指を口元に持って行った。


「“瘴気”を祓う……否、“祟り”を消すんだよ」

「「??」」


 はぐらかすようなマイハの返答に、ラキもアルテもキョトンと首を横に倒す。

 だがマイハに詳しく説明する気は更々ないらしく、「そろそろ始めようか」とそれだけ告げると「アルテ、テト。並んで立ちな」と二人に指示を始めた。


「二人共、最大限まで魔力を高めな。アルテはその場でフラッシュ。テトは森全域に飛沫が掛かるように、真上に向かって水柱。良い?」


 そこで漸く、アルテもマイハの考えにピンと来たらしい。「まさか」とアルテは目を丸くした。


「俺達の魔力で“祟り”の効果を打ち消すってことですか?」

「そういうこと。成功するかどうかはお前ら次第。私とラキは、お前らの魔力で“祟り”の効果が消えた。試す価値はあるでしょ」


 ニッと意地悪く微笑むマイハ。その表情はどう見ても悪人面だ。だがしかし、それでこそマイハである。取り繕っていない素の表情かおだ。

 だからこそ信頼できる。

 アルテは「わかりました」と躊躇なく頷いた。


「テトさん、やりましょう!マイハさんは()()は言っても、()()は絶対に言いません!!」

「……わかった。信じるよ」


 テトも覚悟を決めたようだ。

 アルテとテトは互いに数メートル距離を空けて並び立つと、自身の身体を流れる魔力へと集中させる。

 ザワリと空気が震えた。


「「ッ〜〜〜〜!!!」」


 サワサワと木々が揺れる。小鳥達が森から一斉に飛び立った。

 二人の背に、純白の翼が浮かび上がる。


「「ッハァア!!!!!」」


 掛け声と共に、二人の魔力が一気に膨れ上がった。

 アルテの身体から、目も開けられない程の眩い閃光が上がり、薄暗い森を鮮明に照らし出していく。

 テトは両手を天高く掲げると、手の平から特大の水砲を発射した。重力に逆らって真っ直ぐ昇っていく水柱は、やがて勢いを落とし、飛沫が森全体へと降り注がれる。それはまるで雨のようだった。

 光が、水飛沫が、森の嫌な気配を晴らしていく。


 ……空気が軽くなっていく……これが“七翼の恩災”……お嬢の求める力……。


 強い光と飛沫で目を細めながらも、ラキは“恩災”二人の姿を目に焼き付けた。



 *       *       *



 どれ程時間が経っただろう。恐らく半刻も経っていない。

 魔力が底を尽き、フラッシュが収まって水柱が落ち着けば、残されたのは魔力と共に体力切れで倒れたアルテとテトの姿だけだ。当然その背に翼はない。


「ハァ!ハァ!ハァ!……」

「ゼェ!ゼェ!ゼェ!……」


 二人共荒い息を繰り返したまま、起き上がる様子が一切ない。がしかし、マイハは構わず、二人の真ん中に立ってニコリと笑った。


「お疲れ様、良くやったよ。上出来だね」

「「…………」」


 その言葉にアルテは上半身だけを起こして、グルリと森を見回す。テトも瞳を閉じて、森の動植物達のコエに意識を向けた。

 先程までと打って変わって、明るく爽やかな風が吹き抜ける森。揺れる草木はまるで踊っているかのようだ。テトの額や胸に止まってくる小鳥達も、非常に嬉しそうである。


 ……コエが聞こえない……苦痛に満ちたコエも、憎悪に満ちたコエも……皆、元に戻ったんだ……。


 テトは震える両腕で顔を覆った。

 そして……。


「……ありがとッ……」


 お礼を告げた。


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