二人目
「心を読めるなんて凄いですね!正体を言い当てられた時は流石に驚きましたよ」
あの後、ちゃんとテトから自己紹介と状況説明が入り、ラキとアルテは現状を理解した。
「……にしても、狼に追い付かれて海に落ちたって……お嬢、あれだけ『大丈夫だ』と言っておきながら……」
「何?犬の分際で何か文句でもあるのかね?ラキ君」
ラキからジト目を向けられれば、ベッドの上で毛布に巻かれてるマイハは、反省の意を示すことなく逆ギレで返す。
ムムムと睨み合う二人に、アルテが慌てて「で、でも」と割って入った。
「本当に無事で良かったです!何はともあれ結果オーライですよ!ね!?今は全員が無事なことを喜んで、マイハさんを助けてくれたテトさんに感謝しましょう!?」
言いながら、改めてアルテが「ありがとうございます」とテトへとお礼を告げた。溜め息と共に溜飲を下げたラキも、テトに対して頭を下げる。
「本当に感謝する。お嬢を助けてくれてありがとう」
「良いよ。動物を大切にしたい気持ちは俺もよくわかるし、それに……この国の人間でもないのに、“祟り”のことを調べようとしてくれたこと、すっごく嬉しいから」
そう言ってテトが微笑めば、アルテは「あぁああ!!」と突然叫んだ。
「そうでした!“祟り”のこと調べないと!!狼達の所為ですっかり忘れてました!!」
「ああ、そうだな。お嬢の状態をいつまでも放っておく訳にいかねぇし……ウッ!?」
「「ラキ(さん)!?」」
マイハとアルテの声が重なる。
急にラキが身体をよろめかせると、床へと倒れ込んでしまったのだ。ピクピクと痙攣を繰り返し、脂汗を額に滲ませている様を見て、マイハはまさかとラキの身体を注意深く観察する。そして、腕にある幾つかの切り傷を見つけて、「お前」と口を開いた。
「森の毒草にやられた訳?ある程度の処置の仕方なら教えてるでしょ?……私のこと優先して、放置したね?」
「…………」
ラキは応えない。図星だ。
マイハが溜め息を吐けば、テトが「ちょっと良い?」とラキの側に近寄る。
「俺が診るよ。採血しても良い?」
「い、否……」
ラキが渋る。まだテトのことを信用し切れていないようだ。しかし、マイハの方から「頼むよ」とテトに診察を依頼する。
ラキは少しだけ目を見開いて、マイハへと視線を向けた。
……いくら命の恩人と言えど、お嬢がこうもアッサリ信用するなんて……。
驚くラキだが、マイハが信用したなら自分に疑う余地はない。
大人しくテトに右腕を差し出した。
「俺も手伝います。これでも医学を齧っている身なので」
アルテが手を挙げる。テトは拒むでもなく、「お願い」と柔らかく応えた。
ラキから血を採った二人は、それぞれ作業へと取り掛かる。
作業の手を止めることなく、テトは勝手に頭の中へ流れ込んでくる三人のコエへと意識を向けた。
……この森の毒草や薬草に関する研究結果ねぇ……念の為読んでおこうかな……。
……あー、情けねぇ。よりにもよってお嬢が不調の時に動けなくなっちまうなんて……。
……うぅ……いくら知識を持ってるって言っても、初めての調剤は緊張する……でもラキさんの為にも頑張らないと……!
三人それぞれの心の声に、テトはフッと小さく微笑む。それに気付いたアルテが「テトさん?」と不思議そうに首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「ううん。久しぶりだったから。一緒に居て、落ち着く人間と出会ったのは」
テトの返しに、アルテが更に疑問符を飛ばした。そんなアルテの心情を読んだのか、テトは「いつも」と教えてくれる。
「勝手に色んなコエが頭の中に入って来るから……動物や植物みたいに純粋なコエなら平気だけど……人間のコエは必ずしも綺麗な訳じゃない。聞きたくないコエも全部聞こえちゃうから、あんまり大人数と一緒に居ると気持ち悪くなっちゃうんだよね」
「……だから森に一人で住んでるんですか?」
「うん。森の動物達と友達になったっていうのもあるけど……一番はソレかな。人間が多い所はやっぱり怖い」
「…………」
アルテにはこれ以上深く聞くことができなかった。テトの抱えているモノは、簡単に寄り添えるような問題ではない。
そうこう話している間に、薬が完成した。
できた粉末状の薬を紙に包んで、水の入ったコップと共にラキへと持って行く。
「はい。一気に流し込むから、咽せないよう気を付けてね」
一声かけてから、テトがラキの口に薬を入れる。すぐ後を追うように水も流し込めば、ラキは薬の苦味を我慢して何とか嚥下した。
「即効性だから、すぐに良くなるよ」
「あぁ……ありがとう」
とりあえずラキの解毒が終わり、マイハとアルテはホッと胸を撫で下ろす。
とそこで、ふとアルテはテトに対する疑問が出てきた。
「そう言えばテトさん、ずっとこの森で住んでるんですよね?“祟り”は平気なんですか?」
アルテが心配する眼差しでテトを見つめる。テトは「あー」と言い淀むと、少し視線を逸らした。
「俺は平気……昔は自分が普通の人間じゃないからだと思ってたけど……」
言葉を濁して告げるテトだが、アルテに気にした様子はない。
狼男の末裔であるラキが、それ程“祟り”の効果を受けていないのだ。テトも特異体質持ちなので、“祟り”が効き難い体質なのだろうと一人納得する。
だがしかし、テトは「でも違った」と言葉を続けた。
「アルテも“祟り”平気なんだよね?なら“七翼の恩災”だから、効かないだけだと思う」
「そうですよね。俺も普通の人と違う所はソレくらい……ん?え、今……」
テトの言葉を流しかけて、アルテがピタリと動きを止める。
二人の会話を見守っていたマイハとラキも、目を丸くしてテトへと視線を向けていた。
いち早く我に返ったマイハが「テト」と口を開く。
「お前まさか……“七翼の恩災”な訳?」
「?……あれ?まだ言ってなかったっけ?……そうだよ。俺は“七翼の恩災”の一人。“貫波”……水に関する魔力を持ってる」
あっさり頷くテト。
時が止まったかのように静まり返った数秒後。三人分の叫声が森中に響き渡ったのであった――。




