嵐でも真っ直ぐ羽ばたく翼
「「おお〜!」」
マイハとラキが感嘆の声を上げる。
二人の目の前にあるのは、アルテが遂に完成させた飛行船だ。
純白の機体は美しく、両サイドに片翼の装飾が彫られている。自分達の背丈の何倍もある全長は荘厳の一言だった。アルテらしい気配りだろう。甲板には船から落ちないように手摺りが取り付けられている。
実に立派な飛行船だった。
「さあ!船の中を案内します」
アルテがマイハ達を先導する。
入り口から入れば、道が二手に分かれており、奥には階段があった。
「入って左手側が操縦室、右手側が居住スペースになってます。階段は操縦室の上……展望デッキに繋がってます。まずは居住スペースから案内しますね」
言いながら、アルテは右に曲がる。マイハ達も後に続いた。曲がった先にはすぐに扉があり、アルテが取っ手に手を掛ける。
扉の先には、船の中とは思えない空間が広がっていた。
大きなダイニングテーブルと九つの椅子。広々としたソファやオシャレなシェルフに、テーブルの側には豪華なキッキンまで揃っていた。
「この一階は共有スペースで、奥には大浴場もあるんですよ。ここはリビングのイメージで造りました」
「大浴場か。随分と豪華だな」
「マイハさんからのリクエストです」
アルテが人差し指を天井に向けて答えれば、ラキは「なるほど」と納得する。
「個室は二階からになります。全て間取りは同じで、全部屋にシャワールームとトイレを設置しています。とりあえずベッドと机と椅子、クローゼットだけは用意してますよ」
リビングを抜けて、大浴場があると言う扉をスルーすれば、廊下の突き当たりに螺旋階段が伸びていた。
三人は階段を登り、二階へと向かう。
「個室は全部で十部屋用意しています。一つの階に五部屋ずつ……一部屋余りますけど、客室用と言うか……まあ念の為のお部屋です。最上階の四階には、今の所用途が決まってない空き部屋を四つ用意してます。何か欲しい部屋があれば、それ用に改装するので遠慮なく言ってください」
「つまり個室は二階から三階の十部屋の内から一部屋選ぶと……後で部屋割りせんとやな。それはそうと、キッチンあるけど、誰が料理するん?」
マイハが尋ねる。
毎日外食という訳にもいかないし、折角立派な台所があるなら使うべきだろう。問題は当番制にするか、料理人を固定するかである。
マイハの質問に、アルテが「えっと」と謙遜気味に手を挙げた。
「皆さんさえ良ければ、俺が料理をしようかなと思ってるんですけど……コックの資格は結局取れず終いでしたけど、一応料理の練習は頑張ってきましたし……」
「ん。なら決まりやな。頼んだで、アルテ」
異論はないのか、あっさり決定した。
頼りにされたのが嬉しいのか、アルテが「はい、お口に合うよう頑張ります」とはにかむ。
そうして食事問題を解決した一行は、居住スペースから操縦室へと移動した。
「操縦室はこんな感じで、ここに取り付けてあるマイクは、船内の全部屋に設置したスピーカーと繋がってます。何かあれば、此処からメッセージを船内中に通達できますよ。一応操縦はオートモードにもできますけど、オートの時は速度がゆっくりになるので、速く移動したい場合は手動運転しかありません」
操縦室は当たり前というか、複雑そうな機械が散乱していた。入ってすぐの前方の壁一面がガラス張りになっており、今は工場の景色が見えている。アルテの言うマイクは、舵輪のすぐ側に設置されていた。
「そして最後は展望デッキです」
操縦室から出てすぐの階段を登って、扉を開ける。
「!!……へぇ」
「これは凄いな……!」
広がった視界に、揃って感嘆の声を漏らすマイハ達。
そこは壁も天井も、床以外の全てがガラス張りで出来た空間だった。今は工場の風景が広がっているだけだが、空を飛ぶとなれば絶景であることは間違いないだろう。
ゆったり寛げるソファが二つと、天井扉に繋がっている螺旋階段があるだけで、他には何もないシンプルな空間だった。
「あの天井扉から甲板に出られるようになってます。ガラス張りなので、外に出ても中の様子は確認できますよ。それから……」
アルテは扉の近くの壁に取り付けられたボタンを一つ押した。
すると、「ゴ、ゴ……」という鈍い音と共に天井が開き始める。
マイハ達は目を見開いて、その様子を見守っていた。
完全に天井が開いたのを確認してアルテが説明を始める。
「いざという時の為に、展望デッキの天井は開閉式にしてみました。これなら一々甲板に出なくても、天井が開いてれば、いつでも船内と外を出入りできますよ」
これで飛行船の案内は終了だ。
アルテは最後に「どうですか?」とマイハとラキに感想を伺う。
マイハは口を閉ざしたままアルテに近付くと、アルテの頭に自身の手をポンと置き……フワリと花開くように微笑んだ。
「アルテに頼んで正解やったわ。良ぇ船をありがと」
「!!!」
マイハの言葉に、アルテがパァアと表情を明るくさせる。その目には薄らと涙が浮かんでいた。
「そう言って貰えて、とっても嬉しいです!俺こそ、こんな俺に依頼してくれて……本当にありがとうございました!!」
ガバリと頭を下げるアルテ。
互いに礼も済んだところで、マイハは「さて」とアルテに顔を上げるよう促す。
「船も完成したことやし、今夜は酒でも開けよか。アルテ、次の目的地やけど、今日決まったから後で話すわ。出発は明日の朝にする」
「はい!わかりました!」
いよいよ明日から旅が始まるのかと、アルテが緊張と興奮が入り混じった顔で応えた。
とそこで、ラキが「そう言やぁ」とアルテへ視線を向ける。
「この船の名前は決まってるのか?」
ラキが首を傾げた。
アルテは一瞬固まれば、恥ずかしそうに「は、はい……一応」と頬を赤らめながら頷く。
「『嵐の中でも真っ直ぐ羽ばたく翼』という意味で……《テンペスタ・エール号》です」




