六人の神の遣い
極楽浄土と見紛うような花園。繁殖地域も期間もバラバラな植物が彼方此方に咲き乱れ、色取り取りの羽をした鳥達が舞い踊る。花園には小さな水路が幾つもあり、水路に囲まれるように美しい東屋が建てられていた。花園の中央に聳える城は、瓦屋根のみ真っ青で、後は白土で覆われている。
艦隊の上とは到底思えない天国のような場所……高天原。
七賢聖が率いる政府軍……その頂点に君臨する“神の遣い”の棲家であった。
花々と水路に囲まれた東屋に人影が五つ。
皆白ベースの似た格好をしており、服のデザインは殆ど同じ。オレンジ、黄色、緑、紺色、紫。帯やリボン、刺繍の色がそれぞれの髪色と色合わせされていた。そして、五人全員の背中に、同じ紺碧の翼が一対生えている。
だがしかし、衣装の類似や翼よりも、驚くべきは五人の男女、全員が一卵性のようにそっくりな顔立ちをしていることである。
「……小鳥が喧しくて、眠ることもできやしない」
「眠っちゃ駄目だよ……お出迎えがあるんだから……」
「それに小鳥さん達可愛いじゃないっスか〜」
「可愛いからって、やたらめったら肩に乗っけるの止めてくれませんかねぇ。羽ばたく度に視界が鬱陶しいんですよぉ」
「はぁ……やっぱり待つだけはつまんないね。僕も付いて行けば良かった」
まるでソコだけ時間の流れが違うように、不思議な空気感が伝わってくる。
とそこに、ふわりともう一つ人影が降りて来た。
「ただいま」
葵である。
葵が東屋の前に降り立つと、五人のこの世のモノとは思えない真っ青な瞳が、一斉に葵へと向けられた。
「おかえりなさいっス〜」
「おかえり……あおちゃん」
紺色頭の美女と、黄色髪の美青年が同時に葵へと駆け寄る。
笑顔で葵を中に入れると、残りの三人からも「おかえり」と歓迎を受けた。
「思ったより早かったね〜。ちゃんと仕事はできたのかな?葵」
オレンジ頭の美青年が葵の頭に自身の頭を乗っける。葵は「ちょっと重いよ」と眉根を寄せるが、青年の方は一切気にしてない。むしろ葵の頬を引っ張ったり突いたりと、更なる嫌がらせをし始めた。
「もう離してよ〜!ちー〜!ちー〜!」
「栞ちゃん……あおちゃんで遊ぶのもそこまでね……」
「はいはい。ったく、すぐにヒロ呼ぶんだから」
解放された葵が「ちー」と黄色髪の青年に抱き着いて行く。青年は「よしよし」と宥めるように両腕を広げてあげた。
「それはそうと、葵ぃ。今回はちゃんと任務、終えて来たんでしょうねぇ?」
紫髪の美青年が、黄色髪の青年に未だ頭を撫でられている葵に視線を向ける。
隈の刻まれた目元のお陰で目付きが非常に悪い。
葵は「うっ……」と尻込みしながらも「うん……」と蚊の鳴くような声で首を縦に振った。
「ちゃんとしたよ」
「ドウォークの後継ぎ問題でしたっけぇ?息子は数年前に勘当したんですよねぇ……結局どうしたんでぇ?」
紫髪の青年に聞かれて、葵が「えっと」と言い淀む。
視線を逸らしながらも「ドウォーク家は」と報告を始めた。
「一族皆殺しにして、新しい貴族を立てることにした。後任ももう決めてあるから、後は手続きだけ」
葵が告げる。嘘を言っているつもりはない。マイハがドウォーク夫妻を殺しているものだと思っているし、新たな貴族も葵本人が選んだ訳ではないが、ちゃんと考えているのだから。
それでもバレたらどうしようという緊張感で、葵は顔を上げることができずに俯く。
「……あら、ドウォーク潰すことにしたんスか?貴族の中では、割と真面目な優等生だったんスけどね〜」
「理由でもあるのか?」
紺色頭の美女に続いて、緑髪の美青年が尋ねてくる。
葵は目線を下に向けたまま「一応」と答え始めた。
「息子の所在を聞いたら、『家出した』って嘘吐いたから」
素直に答えれば、緑髪から「嘘か」と呆れられる。
「見栄など張らなければ、長生きできただろうに……くだらん」
「そりゃ『家出』と『勘当』じゃあ、印象全然違うからね〜。嘘吐いてもしょうがないんじゃない?僕らのこと舐め過ぎだけど」
オレンジ頭がケラケラ嗤えば、「それよりも」と黄色髪の青年が視線を真下の葵へと下ろした。
「息子はどうしたの?……居場所は流石にわからないから放置?……」
ゆったりした口調で尋ねる黄色髪の青年だが、葵はギクリと肩を跳ねさせる。
マイハとの取引が頭の中を駆け巡った。
アルテの事を見逃し、アルテが“七翼の恩災”であることを黙っておく。
取引のことがあるので、素直に本当のことを言う訳にはいかなかった。
葵は「えっと……その……」としどろもどろになりながら頭をフル回転させる。
「丁度ドウォークの屋敷にやって来たから、殺しておいた……」
「『屋敷にやって来た』って……ソイツ勘当されたんでしょ?タイミング良くそんなこと有り得る?」
「ボクに言わないでよ。ホントに帰って来たんだから」
オレンジ頭のツッコみに、葵がジト目を向ける。
「まあまあ。ちゃんと任務を終えて来たんスから、良いじゃないスか〜。よく頑張ったっスね〜。偉いっスよ、葵」
紺色頭の美女がニコニコと優しい笑みを浮かべながら、葵の頭を撫でる。
とそこで、緑髪の青年が席を立った。
「文斗ぉ?何処に行くんでぇ?」
紫髪の青年が尋ねる。
緑髪の青年は首だけ横に回すと、真っ青な瞳を鋭く細めた。
「七賢聖より任務だ。シーナ国へ行ってくる」
* * *
そうしてマイハ達がランゴ街に来てから、一ヶ月が過ぎた。
アルテのアイデアにより、アルテの両親はアルテが暮らしている洞穴で、暫く生活することになった。必要最低限の財産は持って出た為、当分はお金に困らない。それでも洞穴生活における必要事項……家事や自給自足の為の畑仕事など、培った知識や技術をアルテは二人に毎日伝授していた。
そして新たな貴族が来るまで空になった元ドウォークの屋敷は、現在マイハとラキの別荘状態になっていた。アルテが飛行船を完成させるのを待ちながら、街に入ってくる他国の行商人から噂を集める毎日を過ごしている。
「ランゴに来て一ヶ月か……真偽はともかく、かなりの噂が集まったな」
無駄に長い元ドウォーク家の食卓に、噂を書き留めた紙や地図を広げてマイハが呟く。
ラキは集めた噂を整理しながら、一つ一つ内容を確認していった。
「……『無人島で行方不明者続出』『革命軍の動きの活発化』……この中にどれか一つでも“アタリ”が入ってたら良いが……。とりあえず魔力持ちの人間に関する噂を重点的に、後は適当に色々噂話や情報を集めましたけど……これからどうします?お嬢」
「どうするも何も、一つずつ噂を確かめて行くしかないやろ。有力な情報を見つけたら、その都度進路変更……どの情報が確実かなんてわからへんねや。まずは近場から当たっていくだけやで」
言いながらマイハは、机の上でバラバラに混ぜられた、ラキが整理している途中のメモを漁り始めた。お目当てのモノを見つけると、バッと取り出しラキへと手渡す。
「……『シーナ国で原因不明の病が流行』?」
メモに書かれた内容を読み上げてラキが首を傾げた。これのどこが“七翼の恩災”に関わる噂なのか。
ラキの疑問はわかっているのか、何か言われる前にマイハが「その病やけど」と具体的な説明を始める。
「何でも国にある巨大な森に入った奴だけが罹るらしいで。森の何かが原因なんやろうけど、どんな対策をして森に入っても、皆結局病気になって重体化するから、原因はわからず終い。最近やと『森の祟りや』言うて、誰も近付かへんらしい」
「……それと“七翼の恩災”にどんな関係が?」
ラキにはまだマイハの意図がわからない。マイハはフッと笑んだ。
「“七翼の恩災”は自然そのものの力を与えられとる。自然の力は時に恩寵であり、災厄でもあるんや。もしかしたら、この病の原因は『恩災』の“災厄”の力かもしれへんやろ?」
マイハの言い分はわかった。ラキは「成程」と一つ頷く。
根拠としては薄いが、今は藁にでも縋る思いだ。一つ一つ可能性を潰していく他ないだろう。
「お嬢が言うなら、まずはシーナに行きましょうか。それで、そのシーナ国って言うのは何処にあるんで?」
ラキがメモをマイハに返せば、マイハは「此処や」と広げてあった地図の一箇所を指差す。
そこはランゴから海沿いに南へと向かった先にある臨海国だった。国の面積は大きいが、その半分は例の噂になっている森が占めている。
距離にして、およそ三千キロ離れていた。自分達で歩いて行くにはくたびれる距離である。
「……次の目的地が決まったことだし、後はアルテが船を完成させるのを待つだけですね。もうそろそろ“神の遣い”が新しい貴族を連れて、ランゴに来る頃みてぇだし」
ラキが確認するようにマイハに視線を向ければ、マイハから「そうやな」と肯定される。
「!……どうやら、待たへんくても良ぇみたいや」
マイハが告げるのと、屋敷の門を思いきり開く音が鳴り響いたのは同時だった。しばらくして、ドタドタと慌ただしく廊下を駆け抜ける音が屋敷中に響き渡る。
「マイハさん!ラキさん!」
バンとけたたましく扉を開け放って、アルテが興奮した様子で部屋の中に入ってくる。
アルテは満面の笑みで口を開いた。
「船が完成しました!」
読んで頂きありがとうございます!!
“神の遣い”のイラストですが、みてみんに挙げてから翼の描き忘れに気が付いたので、無いまま投稿してしまいました(泣)
また今度翼を書き足して、イラストを挙げたいと思います。今回は本文で名前を出せず、イラストで本名お披露目になりましたが、またいつか本文の方でも“神の遣い”の名前を正式に出すつもりです。
次回もお楽しみに!




