表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七翼の恩災  作者: 井ノ上雪恵
序章
1/49

プロローグ

 ××年前。


 元の美しい花畑は見る影もなく、辺り一面焼け野原と化した灰色の世界の中心で、座り込んでいる人影が一つ。


「……ハァッ!……ハァッ!……ヴッ……こ、のまま……終わって、たまるかッ!……」


 息も絶え絶えに少女が天を睨み付ける。その姿は傷だらけの血塗れで、何故生きているのかも不思議な程だ。

 少女は残る力を振り絞ると、()()()()を大きく広げた。

 紺碧の翼は青く輝き出すと、光と共に天へと舞い散る。

 その様を見守った後、()()()()()少女は力尽きたように横たわった。


 ……飛べ、遥か遠く、()()()()()()彼方まで……いつか必ず、私が――……。


 そうして少女は霞んでいた瞳を閉じた。



 この物語はここから始まる――。



 *       *       *



 のどかな草原に、草花を両断する砂利道が一つ。一人の少女が歩いていた。

 雪のように真っ白なサラサラのボブストレートの髪に、宝石のような紺碧の瞳。垂れ目垂れ眉だが、不思議と気の弱さは微塵も感じられず、むしろこうべを垂れそうになる気高さすら持った顔立ちだ。抜群のボディラインを見せる濃紺のマント付きシャツワンピからはスラリと伸びた長い脚が惜しげもなく晒され、左太腿には鉄扇用のレッグホルスターが付けられている。

 道行く人々の視線を惹き付けるような、圧倒的なオーラを放つ美少女だった。

 少女の名はマイハ。旅人である。

 マイハの後ろにはペットだろうか。青にも見える黒色の毛並みをした狼が、後を付いて歩いていた。狼の名はラキだ。


「おーい!嬢ちゃん!!」

「!」


 商人だろう。荷車を引いているおじさんが、後方からマイハを呼んだ。

 マイハが振り返れば、おじさんは片手を振りながら更に大声で叫ぶ。


「その先に用があるなら迂回しろー!死にかけの町があるんだー!嬢ちゃんみてぇなのがウロウロしてたら、面倒事に巻き込まれちまうぞー!!」

「……『死にかけの』……?」


 マイハが首を傾げる。

 どういう意味かはわからないが、とりあえずこの先の道は危険らしい。

 だがマイハには関係のないことだった。

 片手を上げるとそのまま前を向き直し、マイハは再び歩みを始める。

 注意をしても止まらないのであれば、何があったとしても自己責任だ。

 商人のおじさんはそれ以上マイハを引き留めようとはせず、自分の生活へと戻って行った。



 *       *       *



 ファヴェンティア……絶対的な支配者である“七賢聖”が創造した世界の名である。

 全ての街や国は“七賢聖”の支配下に置かれ、徴税と労働の義務を負い、貴族や王族は民の監視役として街国を治めさせられた。義務を果たせぬ者、“七賢聖”に反乱の意思を持つ者……それらの者達は全て、“七賢聖”が下僕“神の使い(アンジェロ)”によって抹殺され、人々は“七賢聖”をただただ恐れ従うしかなかった。

 恐怖による圧倒的な武力支配は人々の心を荒ませ、強い者が弱い者を嬲る弱肉強食の時代が続いていく。そんな中、こんな伝説が語り継がれてきた。


『“青き鳥”に認められし者……恩寵と厄災の力を持ち、()()の翼をその背に宿す七人の者達が、この世界を滅ぼすであろう』


 伝説の七人を人々はこう呼んだ。


 ――“七翼(しちよく)恩災(おんさい)”……と――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ