9.大切な思い出
「投票の結果は皆も分かっているかとしれないだろうがメイド喫茶に決まったから、メニューとかは後々決めていくことにして...服はどうするか?」
「はーい!私バイト先から借りられると思うよー!」
クラスの1人女子生徒が元気に手を挙げて奏に言った。
「お!助かる!ならもうメニュー決めるか!何か案があるやつは居ないか?」
文化祭の案の出し合いが進み、俺たちのクラスは洋菓子をグループに別れて何を作るか決め、作ってそこから抜擢していくことになった。
俺たちの班は、優、奏 とクラスメイトの一人の増田有華さんだった。
「何を作るか?」
奏が俺たちの班の中で仕切ることになった。
しかし、優と奏は料理下手だ。優に関しては
前回も家で手伝ってもらった時は危なすぎて目が離せなかったので今回もそうなりそうで結構怖い。
「...ティラミスはどうですか?」
増田さんがそう提案した。
彼女の家はケーキ屋らしくティラミスには自信があるのだそうだ。それに比べ優の方を向くと何故か自信がありそうな顔をしているので逆に怖い。
「私もティラミスいいと思います。」
「秋人もいいか?」
「あぁ」
「なら、ティラミスを作るか!」
「まず、いいか?」
「ん?どうした秋人」
「俺は、一応ある程度なら作れるんだけど、この中で料理できる人はいる?」
そう聞くと増田さんは少し自信なさげに手を挙げた。しかし案の定、奏と優は手を挙げず目を背けていた。
「......じゃあ」
奏はそう言うと俺と優を見て少しニヤけたように笑った。
余計なお世話だ...
俺と優はひとまず協力して作ってみることにした。
まぁ、半分以上俺がやることになりそうだが
「秋人、ティラミスは任せて!」
俺にだけ聞こえるような声で自信があるように言った。
どこからその自信が溢れ出てくるのか謎だが俺はティラミスを作ったことがないのでとりあえず俺はサポートに回りその他を優に任せてみることにした。
そして徐々に美味しそうなティラミスが出来ていくと
「優……お前料理出来たんだな……」
優が普段料理する時は危なっかしいが、今回は俺が手伝う必要も無いぐらいだったので驚いた
「酷いなぁ!私だってティラミスくらい作れるよ!」
優はぷぅと頬を膨らませた。
「どうしてティラミスは作れるんだ?」
いつもの様を忘れるほどの手さばきで美味しそうなティラミスが出来上がったので俺は思わず聞いてしまった。
「それは……私が初めて秋人に作ったものだから...」
優は頬を赤く染めながら小さい声で言った。
「え?なんて言った?」
「なんでもないですよーだ」
「おーいそっちは出来たか?」
「え…すごいな」
「すごいです!これ私の家のケーキ屋に置いても他の物と変わらないくらいの出来ですよ!」
奏と増田さんは俺たちが作ったティラミスを見ると絶賛してくれた。
「秋人、お前が作ったのか?」
「いや、俺は少しサポートしただけで大体遠藤が仕上げた」
「すごいよ!遠藤さん!」
増田さんは目を輝かせて優に言った。
「ありがとうございます。増田さんと佐伯さんのティラミスもとても美味しそうですね」
「...嬉しいです!佐伯くんにも手伝ってもらったから結構良いのができました」
奏と増田さんのティラミスは優にも負けないくらい美味しそうだった。
増田さんはそう言っているものの実際には奏は料理が出来ないので、ほぼ何もできていなく大体を増田さんが担当したらしい。
「じゃあ二組のが揃ったことだし試食してみるか」
まず俺は奏と増田さんが作ったティラミスを口に入れた。
「美味しい……」
2人のティラミスは口に入れた瞬間ティラミスが溶けだしてほんのりとした甘さの中に苦さもある、とてもちょうどいい味が口の中に広がった。
「美味しい!」
「美味いな……これ」
俺が2人のティラミスに感心していると俺たちのティラミスを食べていた奏と増田さんも同じように感想を言っていた。
「美味すぎる…」
優が作ったティラミスは甘さと苦味が7:3の割合で甘すぎず、苦すぎずほんのり甘く優しい味で結構俺の好みの味だった。
それと同時にどこか懐かしい味だなとも感じた
「遠藤さんは、なんでこんなに美味しいティラミスを作れるの?」
「それは……私の大切な思い出のスイーツだからです…」
そう言いながら何故か優は俺をちらっと見てきた。