16.花火大会と言えばたこ焼き?
母さんと暗い話をした後、部屋に戻りスマホを開くと一通のメールが来てることに気づいた。
誰からかと思い見てみると、優からのメールだった。
『明日祭りやってるから一緒に行こ!』
そういえば近くで花火大会をやっていたはずなのでその事だろう。
俺は、別に予定などもないので行くことにした。
次の日の夜、外へ出ると既に優が浴衣を着た状態で待っていた。
「あ、きた」
「もしかして、待ったか?」
約束の時間までは、まだ少し時間がある訳だがさすがになれない服装で外に待たせていたら申し訳ない。
「ううん、全然。今来たとこだから大丈夫だよ」
「えーと…あきひと…浴衣…どう…?」
優は、モジモジしながら少し恥ずかしそうに俺を見た。
「うん、凄い似合ってるよ」
普段と印象が全く違うが、優の大人っぽさを際立たせているなと感じた。
「ふーん、秋人私の浴衣姿好きなんだぁ えへへっ」
俺が褒めた瞬間、優は俺をからかうように言ってきたが、少し照れているようにも見えた。
「じゃあ行こ、あきひと!」
優は、気を取り直したのか俺の腕を掴んだまま祭りの方角へと引っ張った。
久しぶりに来たせいか、この花火大会の雰囲気が懐かしく感じた。
優の方を見ると、既に目が屋台の食べ物方を向いていて物欲しそうな顔をしている。
「何かたべるか」
「え、うん!」
提案した瞬間に優の表情はパッと明るくなり小走りで食べ物の屋台へ向かった。
「たこ焼き2つください」
「はい、どうぞ!」
少し顔が濃い60代くらいのおじちゃんが笑顔でたこ焼きを手渡してくれた。
「んんーおいしー!」
たこ焼きを口に頬張りながら片手を頬に当て優は美味しそうに食べている。
そして、次々にたこ焼きを放り入れあっという間にたこ焼きはなくなってしまった。
「あ…」
たこ焼きが無くなったことに気づいたのか、物足りなさそうに俺を見てきた。
「食べるか?」
少し可哀想に思ったので、俺の分のたこ焼きを1つ分けてあげることにした。
「え、いいの?」
遠慮しているように言っているが、とても嬉しそうな目をしている。
「うん、いいよ」
「じゃあちょうだい」
そう言って目を閉じて小さな口をたこ焼きがギリギリ入るくらいに開けていた。
人が沢山いる中でも優が遠慮の無いことに少し驚いたが俺は周りを気にしないことにして、優の口へたこ焼きを運んだ。
「んんーやっぱりたこ焼きはおいしいね」
両手で頬を包んで誰が見てもすごく美味しそうに食べている。
「ほんと、美味しそうに食べるな」
「だって美味しいんだもん」
もー当然でしょ?と言ってまたたこ焼きを食べ始めた。
『ねぇねぇあの子すごい美味しそうにたこ焼き食べてるよ。そんなにあのたこ焼きおいしいのかな、たべてみよ』
『ねぇねぇお母さんあれ買ってー』
優の美味しそうにたこ焼きを頬張っている姿を見てつられたのか周りの人達がぞろぞろとたこ焼き屋へ並んだ。
店主ももちろん驚いたようで忙しそうにたこ焼きを次々と作って手渡していた。
しかし、作っている時も接客している時もとても嬉しそうに見えた。
優の方はと言うとそんなのお構い無しに俺のたこ焼きを食べている。
たこ焼き屋の列が落ち着くと、店主のおじさんがこちらへ向かってきた。
「そこの嬢ちゃん、ありがとうな」
おじさんの額には汗が染み出ていてさっき忙しさが目に見えて分かった。
「え?」
優は、急に感謝を伝えられたので何が何だか分かっていないようにポカンとして、首を傾げた。
「嬢ちゃんが、屋台の前で俺のたこ焼きを美味しそうに食べてくれるから、そのたこ焼き目当てにたくさんのお客さんが俺のたこ焼きを頼んでくれたんだよ。本当にありがとうな」
「いや、私はただたこ焼きが美味しかっただけで…ほんと何もしてないですよ?」
「じゃあこれだけは貰ってくれ感謝の気持ちだから」
そう言っておじさんは優に、たこ焼き5人前を渡した。
しかも、しっかり飽きないように5人前全てちがう味だった。
そして、おじさんは屋台の方へ小走りで戻って行った。
「えっと…いっぱい貰っちゃったね」
「そうだな。花火を見ながら食べるか」
「うん、そうだね」
俺と優は互いに苦笑いをして花火が打ち上がる予定の場所へ向かった。