15.過去を繰り返したくない
「もう朝ごはん出来てるから2人とも座っちゃって」
朝の身支度を済ませ、向かうと既に母さんが朝ごはんを作り終えて食器を並べていた。
「で、2人はいつ付き合うの?」
母さんは、テーブルの上に両肘を立て頭を乗せた状態で少し含みがあるような笑みをこちらに向けた。
「っ!ごほごほっ母さん!?」
俺は、食べてる途中に突然そんなことを言われたので思わず咳き込んでしまった。
「だって、付き合ってない男女が同じベッドで寝るなんて普通ありえないわよ?」
「う…」
正論すぎて何も言えない…
一緒に寝ようと言ってきたのは、優なのだが俺もそれを断れなかったのでお互い様だ
「き、清子さんっ!一緒に寝てたのは私が…」
優は、焦った様子で弁明し始めようとした。
恐らく自分のしていた行動を改めて考え直してみたら相当恥ずかしかったのだろう。
「優、諦めろ…これ以上言ったって、前みたいに悪化するだけだぞ」
母さん、この状況を楽しんでいるな…
母さんの方を見てみると、優の焦る様子を見て喜んでいるようなので俺はひとまず優がこれ以上何も言わないように止めることにした。
「そ、そんなぁ……」
「もぅ秋人、今からもっと面白くなりそうなところだったのに」
母さんはぶーぶーと唇を尖らせながら言ってきた。
もうこれ以上悪化させるのはもうごめんだ。
「やっぱり楽しんでたか」
俺は、呆れた目を母さんに向けた。
「まぁまぁ、朝ごはんも食べ終わったことだし秋人は、優ちゃんを家まで送ってきなさい」
───言われた通り優を家まで送り家に帰ると、母さんがテーブルに座っていた。
「秋人、もういいんじゃない?」
母さんは、さっきの雰囲気とは全く違う真剣で少し心配しているような目を向けて言った。
「…え?」
「優ちゃんには、まだ言ってないんでしょ?中学であったこと」
俺は、それを言われてようやく理解した。
「うん」
「あなただけで背負わなくてもいいのよ」
少しこちらを気遣う様子で母さんは言ってきた。
「別に気にしてない…」
「嘘よ…だって今も思い詰めたような顔をしてるじゃない」
え…?
俺は、確認しようと鏡を見ると言われた通り無意識だがいつもより冴えない表情になっているような気がした。
俺は、『あの時』のことをまだ気にしていたのか…
そのことを母さんに言われてようやく気づいた。
中学の頃優は、今よりもどんな人に対しても愛想が良かった。
しかし、それが原因となってクラスの男子の大半が優に対して好意を持つようになってしまった。
最悪なことにその好意を持っていた男子の中にカースト上位の気が強い女子が思いを寄せる男子も優に惚れていた。
そして、その女子は優に嫉妬して嫌がらせをしてきた。
例えば上履きが泥で汚されていたり、優の偽りの悪い噂話を流されたりだ…。
優は、それにより精神が病んでしまい、一時的に不登校になってしまった。
優に寄り添って慰めたりしたり、クラスに流れていた噂を否定して回ったりと徐々に優への印象回復や精神状態の回復などで優を助けようとした。
その結果、いじめの標的は俺に変わったが優は少しずつ学校には来てくれるようになった。
でも、俺はその時に決意した。
学校では、優を泣かせるようなことを繰り返さないために決して優と仲良くしたり目立ってはいけないと…
「あれは、秋人と優ちゃんのせいではないじゃない!」
分かってはいたけれど母さんは、ちゃんと俺のことも心配してくれていたんだな...
母さんは、心配するような目をこちらに向けて少し興奮した様子で言った。
「うん…分かってる…。でも、あの時の優を思い出すとこれ以上優を傷つけたくないんだよ……」
あの時の優は、本当に壊れてしまう寸前だった。
だから、二度とあの時の優じゃなくて今を楽しんでいる元気な優であって欲しい。
「でも…!………」
母さんは、言い返そうとしたが母さんもあの時の優を見ていて同じ気持ちなはずなので言い返す言葉を見つけられずにいた。
「……だから、俺は大丈夫だよ母さん」
俺がそう言うと、母さんは俺を見て少し悲しげで悔しそうな様子だった。