10.文化祭
文化祭前日まで準備は続いた。
―文化祭当日の朝―
「今日はついに文化祭だね秋人」
優は登校する時間より少し早く俺の家に来てソファーにくつろいでいる。
「...そうだな」
俺も今日は少し早く起きたので優の隣に座っている。
「えーもしかして...秋人緊張とかしてるの?」
優は、いいこと聞いちゃったっと言いたげな顔で見てきた。
「いや、今日の文化祭の接客大変そうだなって思ってな...」
「あぁ、うちの学校の文化祭はお客さん結構来るから毎年大変って聞くよね」
俺たちの学校の文化祭は、毎年売られているお菓子が美味しいこともあって例年来校者がとても多いのだそうだ。
「そういえば、今日秋人のお母さん来るんだっけ?」
「あぁ、午前の仕事を終わらせてから来るらしい」
「じゃあ久しぶりに会うの楽しみだなぁ〜」
俺の母さんは夕方から夜までの仕事が多いのであまり優に会う機会がない。
「あ、そうだ!ちょっとまってて」
そう言うと優は部屋を出る。
「え?」
「どう...ですか?……ご主人様」
5分程経つとメイド服を来た状態で戻ってきた。
優は、少し恥ずかしそうにメイドのセリフを言うと『どうかな?』と上目遣いで見てきた。
正直に理由を言うと、優にメイド服はあまりに似合いすぎていて心配になるほどだった。
「えへへ…これ言うの結構恥ずかしいんだね...秋人に一番に見てもらいたかったから少し調子乗っちゃった……」
優は少し頬を赤らめる。
恥ずかしいなら言わなければいいのにといつもは言うのだが、今はそれどころじゃなかった。
「メイド服すごい似合ってる...」
「えへへ...やった秋人に褒められたぁ」
放心状態だったのでなにか言おうしたのだが普通の褒め言葉しか口から出なかった。
しかし、その一言でも優は嬉し恥ずかしかったらしく
両手で頬を包んでいた。
「てか、私はこれでいっぱいいっぱいなのに秋人はなんか余裕ありそうでずるい」
「......全然余裕ではない」
頬を赤らめ手の甲で口を隠した。
「へぇー秋人ってこういう服でご主人様って言われるの好きなんだぁ」
俺が、そう言うと優は勝ち誇ったようににやける。
「やっぱりさっきの撤回で」
「冗談だってー!」
そんなことを言っているうちに学校へ向かう時間になったので俺たちは準備をして家を出た。
「よし、みんな揃ったな」
「今日はついに文化祭本番だみんなが準備してきたことを思いっきり出して楽しもう!」
奏の一言でクラスの中が一斉に盛り上がった。
そして、俺たちの文化祭が始まった。
俺と優はシフトを一番最初に入れているので教室にいると、ティラミスは結構人気なようでたくさん注文が入っていた。
「はい、注文承りました。」
メイド喫茶の方も大盛況だったが、俺はあまり面白くなかった。
なぜなら。ほかのクラスメイトのメイド姿もとても似合っているのだが、優のメイド姿は一際目立っていたので、みんなの視線が優の方を向いていたからだ。
恐らく、食事目的ではなく優などのメイド姿を見に来てる人も多いのだろう。
俺は無意識に優の方に向かい優への視線を防いだ。
なので見ていた客は不満そうに俺を見てきたが、何もしらないふりをした。
「ん?どうしたの? ...あー、ふーん……ありがとう」
小さな声で俺に礼を言い優は少しにやけた。
「前田くん、遠藤さん休憩入っていいよー!」
そう言われたので俺は、優と裏へまわって着替えた。
「さっき私のメイド姿をみんな見てるのに嫉妬しちゃったの...?」
優は、にやけながら言う。
「うるせ...」
「心配しなくても大丈夫だよ、私が奉仕するのは秋人だけだから」
そういうことを平気で言うから安心できないんだ...
「あ!やっと見つけた!秋人と優ちゃん!」
そろそろシフト交換の時間になったので教室を出ると横から俺の母親─前田清子が大きな声で呼んできた。
その時は運がよく誰も近くに知っている人はいなかったが、俺は色々バレるとめんどくさいので比較的人が少ない所へ誘導した。
「清子さんお久しぶりです」
「優ちゃんも久しぶり!」
そう言って母さんは優に抱きつく。
「そういえば2人はもう今日のシフト終わったの?」
「はい、ついさっき終わりました」
「それなら良かったわ、3人で一緒に周りましょう!」
「母さん、俺と優が一緒にいるとめんどくさいことになるんだよ……」
すると、母さんは俺にめんどくさい奴を見るような目を向けてきた。
「はぁ...母さんせっかく休みとったのにこのめんどくさい息子のせいで家族で過ごせないなんてねぇ...ねぇ優ちゃん?」
母さんはわざとらしく言う。
「はい!私もそう思います!」
「よし!優ちゃんが言うならいいわよね」
なぜか俺抜きで話が決まってしまった……
「わかったよ……」
俺はどうしよう出来ないので渋々諦めることにした。