63話 セフィル編 9
ギルド長は、しばらくダンマリを続ける。
俺はイライラしながらも、黙って待つしかなかった。
「エイリヒ様のところにもういません」
「えっ?」
「今日……たぶん……別のところへ向かったと思います」
「ブロアに何かあったのか?彼女は今体調が悪そうだと聞いている。頼む!教えてくれ」
「貴方の身分に偽りはありません。そして婚約者だと言うのも事実のようですが、何故探し回っているのですか?婚約者なら探し回らなくても連絡くらい取られているものではないのですか?」
「…………」
どこまで答えればいい?
この国の関係のない人にどこまで話せばいい?
だが、こんな無駄な時間を過ごすのはもういい加減時間が勿体無い。
早くブロアに会いたい。
「事情を話せば教えてくださるのならいくらでも話します」
俺達は政略結婚のための婚約であること、だが婚約解消をブロアから一方的に求められていること、それからブロアに会ってもらえないこと、幼馴染との関係を勘違いされていること、そして本人に直接言いたいこの言葉……ブロアを愛しているとまだ伝えていないことを話した。
「……なるほど……ならば、諦めるのが一番良いのでは?」
「はっ?何故其方にそんなことを言われなければならないのだ?」
「甘いからですよ。幼馴染のことだって妹のようにしか思っていない。など言い訳ですよ。後ろめたいからブロア様に伝えていなかったのでしょう?」
「なっ…ち、違う!」
違う?違わない……リリアンナのことを愛してなんかいない。妹でしかない。だけど、ブロアに誤解されたくなくて隠していたのは本当だった。親に命令されていたとは言え、知らないで済むなら知らせない方がいいと思った。
「会ってもらえないなら無理矢理にでも会いに行けばよかったんです」
「行ったさ!毎日のように通ったけど会わせてもらえなかった」
「ほお、見た目は優男で他人に流されやすそうに見えますが存外男らしいのですね」
「ギルド長、悪いが時間がない。俺は説明をした。いい加減に教えてくれないか」
怒りで爆発しそうになる。
何故金を払って聞いているのにここまで言われなければならないのだ。
でも、悔しいが、ここで聞くのが一番早い。知らない国に来て、分かっているのはエイリヒ商会に世話になっていることだけ。
その手がかりだけで会いに来ている。
ならばこの国の情報を把握しているギルドで聞くのが一番だ。
ギルド長は後ろを振り向き、部屋の奥のもう一つの扉を開いた。
「中にどうぞ」
俺は奥のもう一つの部屋へと案内された。
そこにいたのは、いかにも商売人という感じの男だった。
人当たりの良さそうな作り笑い。
しかし俺をみた瞬間、鋭い目で俺を冷ややかに見つめているのがわかる。
「貴方がセフィル様ですね?」
「貴方は?」
警戒しながらその男を見た。
「わたしは、エイリヒ商会の当主のエイリヒ・バルンと申します」
「バルン?」
「普段はエイリヒとしか名乗っておりませんが、この国の国王の従兄弟なんですよ」
「失礼いたしました。セフィル・ブレイシャスと申します。アリーゼ国の第一騎士団で副団長を務めております。ブロアの婚約者です」
「承知しております。貴方の為人を見させていただきました」
俺のことを試していた?何故?
俺の目をじっと見つめるエイリヒ殿は先ほどまでの鋭い目が少し和らいだように感じた。
「何故試すようなことを?宿でのあの出来事も?」
「よくお分かりで。マナに貴方を誘惑するようにと命じたのは私です」
「マナはとてもよくしてくれました。高熱で寝込んでいるわたしの看病をしてくれた、あんな優しい人が突然誘ってきました。父親がそうさせたと思っていましたが、あの宿屋の主人もとてもいい人でした。だからこそ腹も立ったが、少し違和感もありました」
「申し訳ない。ちょっと調べたところ、貴方が婚約者であるブロア様を蔑ろにして他の女性に好意を持っていたとお聞きしました。
ブロア様が婚約解消したがっているのに貴方が嫌がっていること、ブロア様を追いかけてこちらに向かっていることを突き止めました。
たまたま貴方が泊まられた宿はわたしの商会が運営している宿でして、試させていただきました」
「わたしが女好きか?不誠実か?」
「そうです。わたしはブロア様には最後まで幸せに過ごしていただきたいのです」
そう言ったエイリヒ殿の顔は何故か悲しそうだった。
「最後まで?どういう意味ですか?ブロアに何があったのですか?まだ刺された怪我がひどいのですか?」
ずっとあるこのなんとも言えない不安。取り払うことができない。
「今日、わたしはブロア様をお守りすることが出来ませんでした」
悔しそうにエイリヒ殿が言った。
「守れなかった?」




