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55話  束の間の幸せ。

「お嬢、生きててよかった」


 サイロは怒った顔でもなく嬉しそうでもなく、わたくしをただじっと見つめた。


「………ごめんなさい……」


 その言葉しか言えなくて……


 ウエラはわたくしから片時も離れようとしない。髪を櫛で梳いてくれる。

 動かなくなった足を何度もマッサージしてくれた。


「ウエラ、もういいのよ」


 そう言っても「嫌です!何かしていたいんです」と、言って言うことを聞かない。


 サイロは先生とエイリヒさんと話があるとどこかへ行ってしまった。


 わたくしがここから離れたいとお願いしたので、その話かしら?


「ウエラ、雨が止んだら海を見にいきましょう」


「はい!来る途中で見た海はとても綺麗でした。ブロア様……ここに来てよかった。わたし、今、ここに来なかったら一生海を見れませんでした!」


「ふふっ、そんな考え方もあるのね」


 ミリナとウエラはすぐに仲良くなった。


 雨が止んだらわたくしを連れて港まで行こうと言い出した。

 大きな船があるのだと教えてくれた。


 遊覧船もあるので、みんなで乗りたいと。


 若い二人が楽しい話をしているのをベッドの上で聞いているのは、それだけで楽しい。


「あっ!ブロアさん!雨が止みましたよ!」


「ほんと……ねぇあれは虹?」


「ほんとだ!」


「綺麗ですね!」


 海の上に見える虹はとても綺麗で、車椅子に乗せてもらいベランダに出て虹を見つめた。


 潮風が心地よくて……


「ヨゼフが来ました!」


 先生が部屋に入って来て告げた言葉に、「ヨゼフが?」驚きを隠せなかった。


 わたくしが死ぬまでに会えないだろうと思っていたのに……


「ブロア様……」


 ヨゼフ達は夜通し馬車を飛ばしてこちらに向かって来てくれたらしい。


 みんな現れたらボロボロ。


 それくらい過酷な旅をしてまで会いに来てくれた。


「ヨゼフ……大丈夫なの?無理して…」


「庭仕事で体力だけはあります!」


「置いて行ってごめんなさい。会いに来てくれて嬉しいわ」


 もう思い残すことはない。


 会いたいと思っていた人たちに会えた。


 サイロ、ウエラ、ヨゼフ。


 ずっと心に引っ掛かっていた三人。


 その日の夜はわたくしの部屋にみんな寝ていた。


 マットを敷いて毛布を被った三人。


「寝づらいんじゃないの?」

 そう言っても「そばにいます」と誰も譲らない。


 サイロまでそんなことを言うなんて……


「仕方ないわね。みんなありがとう」



 わたくしにとって束の間の幸せな時間だった。




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