49話 海を見に行きましょうね。
ミリナが住む屋敷のすぐ近くに海がある。
わたくしがミリナの屋敷についたのはもう暗い時間だった。
「海にはまだ行けないわね」
わたくしの声があまりにもがっかりして落ち込んで聞こえたみたいで、ミリナが必死でわたくしの手を握る。
「ブロアさん、明日は一緒に浜辺を散歩しよう、ねっ?」
「約束しましょうね、ミリナちゃん」
「うん!海の砂はサラサラしているの。それに貝殻もたくさん落ちてるの。あとあとね、美味しいお魚も食べられるわ。いーっぱい楽しいことがあるから!楽しみにしていてね」
「ええ、楽しみにしてるわね」
ミリナに微笑んではいるけど……本当は馬車から降りることもできないでいた。
先生が馬車の中でわたくしの体調を診てくれた。
「そろそろ薬が切れた頃でしょう?」
ミリナに聞こえないように、こそっと聞いてきた。
頭を縦にコクンと頷けば、先生は「やはり…」と頭を抱えているのがわかった。
「ブロア様、誰か呼んできます。まず馬車から降りて部屋へ連れて行ってもらいましょう。とにかく横になってしばらく休みましょう」
流石に体が怠くて自分でもどうしていいのかわからないくらいキツい。抵抗せずにエイリヒさんのところの使用人に抱きかかえられてなんとか馬車を降りた。
客室に連れて行かれてそのままベッドに横になると先生がすぐに傷を診てくれた。
「ふー、思ったより酷くなっていませんでした。これなら傷の方は大丈夫でしょう。ところで体調は?」
誤魔化しても仕方がない。歩くこともできない状態なのだもの。
首を横に振ると「やっぱり……」とだけ呟いて診察を始めた。
ミリナには診察のため外に出ていて欲しいとお願いした。
「ブロア様………よく頑張りました。ここまでの道のり、ブロア様の体が耐えられるのかそれがずっと心配でした」
先生の目には涙がいっぱい溢れていた。
「先生、わたくしが泣いてもいないのに先に泣かないで。ねっ?」
本当は笑うのもキツいのに、先生の前では必死に笑顔を作った。元気そうな声だけは出しているけど、本当は倒れそうな状態で起きているのもやっとという感じ。
もうこれ以上先生に無理してほしくないの。わたくしのせいでずっと老体に鞭打って頑張ってくれたんだもの。
「明日は約束の海に行こう。ヨゼフもこちらに向かってる。三人で海を見よう」
「うん、そうだね……先生本当に連れてきてくれてありがとうございました………わたくし……疲れたから……寝るわ」
「わかりました、ではいつもの不味いお薬を飲んで寝てください」
わたくしは薬を飲んでしばらく休むことにした。
ーー明日は歩かないといけないから……
さあ、ゆっくりと寝ましょう。
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「ブロア様は?かなりお疲れのようですが、大丈夫でしょうか?」
「エイリヒ、ここまで連れてきてくれてありがとう。ブロア様は眠られたよ。やはり無理したようだ、本人は心配かけたくなくて元気そうに振る舞っていたが、いつ容態が悪くなってもおかしくない……すまない、迷惑をかけることになるがもう少しこの屋敷に居させてもらえないだろうか?」
「ブロア様のためならいくらでもこちらに居ていただいて構いません。ただ……食欲もないようですし……心配なんです」
「さっき、薬だけは飲んでもらったんだが、食欲はないみたいなんだ……とにかく今は体を休ませてあげるしかない」
「わかりました……お目覚めになったらいつでも食事が食べられるように、準備はしておきましょう」
「本当にありがとう」
先生が頭を下げた。
「先生、それよりも貴方も体を休めてください。長旅ご苦労様でした」
「わたしも少しだけ横になるよ……」
◆ ◆ ◆
あと少し…………
ブロアを追いかけるサイロとウエラ。
「お嬢、頼むから生きていてくれ」
「ブロア様……絶対会いに行きますから」
「ブロア………君は今何を思ってる?」
ブロアの死が迫っていることは知らないセフィル。
「会ったら『愛してる』と必ず告白するんだ。そして幸せにする……だからもう逃げないで」




