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14話  お父様、返していただくわ。

 お父様に会わないでこの国を出て行くつもりだった。

 昨日までは……


 この国を出る準備もほぼ終わり、あとは先生に頼んでいるあの不味い薬をもらうだけだった。


 昨日の夜いつものようにお母様の日記をクローゼットの中に隠す時、たまたま日記を落としてしまった。


「あっ……」


 慌てて日記を拾った。破れたり傷ついていないか調べていたら、分厚いしっかりした表紙の間から手紙が出てきた。


 そこに書かれていたのはお母様がお父様に宛てた手紙。たぶんお父様に渡すことなく亡くなってしまったのだろう。


 渡すのをやめたのか、渡せなかったのか。


 今となってはお母様の気持ちはわからない。


 その手紙はお母様がお父様を愛していたことが記された内容だった。だけどそこにはお父様にはお母様以外の愛する人がいることも書かれていた。


『貴方の愛する人と幸せになってほしい』

 相手の名前は書かれていなかったけど。


 あの人は冷たい人だと思っている。でもお母様のことは愛していたと思っていた。


 腹が立ってその手紙を破って捨てようと思った。そんな時、ふと何故かお母様がいつも大切につけていたネックレスのことを思い出した。


『ブロア、これはお父様がくださったのよ。いつか貴女が結婚する時がきたら、これを貴女に贈るわね。わたくしが幸せな結婚が出来たように貴女にも幸せな結婚をして欲しいの』


 お母様の口癖だった。そう話す時のお母様の幸せそうな顔が今も忘れられない。


 幼い頃は両親の仲睦まじい姿を見ていたので『お母様、絶対よ。お嫁さんになったらくださいね』そんな約束をした。


 ーー許せない。


 元々お父様には冷遇されている。それでいいと思っていた。


 殿下との婚約破棄に対しては叱られると思っていたけどなんの反応も示されなかった。

 ただわたくしの悪評は広がり収まることがなく、屋敷から出られない日々が続いた。

 それに対しても何も言われなかった。


 ただ、悪評の中でも王太子妃教育を施されたわたくしを利用価値ありとみなした貴族からは婚約の打診がきた。


『今のわたくしでは相手の家名を傷つけることになりますわ』そう言って全て断りを入れてもらった。


 家令を介してお断りをするように頼んだので、実際どんなふうにわたくしの言葉が耳に入っているのかはわからない。

 わたくしを嫌っている家令のことだから悪くしか言わないだろう。そしてわたくしを嫌いなお父様も使えない役に立たない娘だと思っているだろう。


 そんなわたくしがセフィルと婚約したのだから内心はやっと役に立つ婚約をしたと思ってくれているかもしれない。


 そんなことすら思わないかしら?


 わたくしが婚約解消をしたいと書いた手紙も読んではくれていないのだろう。なんの返事も来ない。


 ならばそれを利用しよう、そう思って今日会いにきた。


 お母様から宝石は譲り受けた。しかしその中にはあのネックレスは入っていなかった。

 お父様ならご存知だろう。自分が昔プレゼントしたものなのだから。

 死ぬまでつけていたお母様のネックレス。最後を看取ったお父様ならどうなったかご存知のはず。

 ネックレスはわたくしが『結婚のお祝い』としていただくつもりだ。


 まさか解消しようとしているなんてご存知ではないのだから、うまく丸め込んでわたくしが手に入れる。


 お母様のあのネックレスをお父様の手元に残したままこの国を去りたくはない。


 お母様の大切な思い出をあんな男に少しでも残してあげたくなんてない。

 


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