泥酔
「……すっかり遅くなってしまったな」
仕事が終わり、家に向かって歩きながら呟く。
既に太陽が沈んでから随分と時間が経っており、もう少しで明日になるような時間だ。
「本当に、仕事中毒ですね」
肩に乗っていたアルフェが、呆れたように呟く。
今、歩いているのは南北に真っ直ぐ伸びた中央道路だ。
主要な道路だけあって、この時間でもそれなりに人通りは多い。
それでもアルフェの声に気づかれないのは、アルフェが小声だからということもあるが、通行人の殆どが酔っ払いだからだ。
「もう少し、職場の近くに住みましょうよ。貴女なら、まあ安全面は問題ないでしょうが……無用なトラブルは避けた方が良いかと。何より、通勤時間が減らせるのは大きいでしょう?」
「うん、君の言う通りだ。ま、今の家は王都に来た時に、慌てて借りたものだからね。もう少し良い物件がないか、探してはいるんだ」
「そうでしたか。……良い物件が現れることを、祈っていますよ」
そんな会話をしていたら、突然、目の前に初老の男が転がってきた。
思わず、立ち止まって何度か目を瞬く。
ふと周りを見渡せば、どうやら通り沿いの店から、その老人は字句の通り叩き出されたらしい。
金がないなら、出て行け!
そんな声が、店から聞こえてきた。
「なんだと!俺はな……ヒック」
その老人の顔は、赤く染まっている。
怒りではなく、純粋に酔っ払ったせいのようだ。
「おじいちゃん、大丈夫か?」
立ち上がれないその老人に声をかけた。
夜は肌寒い。
「ふん……同情なんか、いらんわい」
差し出した手を叩き落として、老人は立ち上がる。
けれども歩き出した足取りは、覚束ない。
フラリと再び転んでいた。
「放って置けないよ。ほら、家はどこ?」
「わしはなぁ……」
「はいはい、文句は後で聞くから。とりあえず、家に帰ろう」
強引に腰を掴み、歩き出す。
老人は諦めたのか、やがて文句を言うことはなく、家までの道筋を教えてくれた。




