ベルディオ※
「大変です、ブリジット様!」
バタバタ、と部屋に男が部屋に入りつつ叫ぶ。
部屋にいたブリジットという名の女性は、胡乱げに男を見る。
「一体、何があったの?」
……彼女は、美しかった。
彼女を見た人は、第一印象を白と答えるだろう。
抜けるような白い肌に、白銀の髪。
瞳は薄灰色。
まるで、一流の細工師が作り出した人形のように整った顔だ。
「ナサニエルの魔力反応が、ロストしました」
「……ナサニエル?誰だったかしら」
「イデモンデ王国に潜入していた魔法使いです。どうやら政争に巻き込まれ投獄されそうになったところを、寸前のところで逃げたようですが……その後、何故か魔力がロストしました」
「興味ないわ。普通に、死んだのでしょう」
「なっ……!」
男の狼狽振りに、彼女はコロコロと笑った。
「何?貴方、魔法使いを無敵だとか不死身と勘違いしているの?」
「それは……」
「死ぬわよ、魔法使いだって。人の悪意で」
「非魔法使いが、魔法使いを殺せる?そんなこと……信じられません」
「愚か、愚か。そう、ね……例えば、遅効性の毒を毎日盛られたら?不意打ちや罠に嵌められる、なんていうのもあるわね」
指を一つずつ折り数えながら、笑いながら囁くように話す。
……けれども、次の瞬間。
「人の悪意は、魔法使いを簡単に殺す」
ゴッソリと、表情が抜けた。
その落差と冷めた視線に、相対する男はゾッと鳥肌がたった心地がする。
「今、外地にいる面々は、いつだって死の可能性がついてまわるわ。だから、一々慌てふためいても仕方のないことよ」
彼女は、再び笑みを浮かべた。
感じていた圧が消えて、男もホッと息を吐く。
「それより、クローディアみたいな才ある子は現れていないの?」
「直近検査した者から、大魔法師並みの魔力量を保有する者は出ませんでした」
「……そう」
「ブリジット様は、いつもクローディア様のことを考えていらっしゃるのですね」
「あら、当たり前じゃない。大魔法師たる私と同じ景色を見れたのは、彼女だけ。私の生を彩り、そして終わりに花を添えることができるのも彼女だけ」
「不吉なコメントは、どうかご容赦を。ただ、私としても大魔法師が増えるのは歓迎です。より、戦線が楽になる」
「……貴方って、つまらないわね」
ふう、とブリジットはこれ見よがしに溜息を吐く。
「……は?」
「話はそれだけなら、下がって頂戴」
「はっ……畏まりました。それでは、失礼致します」
男が下がった後、彼女は再び深い溜息を吐く。
「一番、大事なことじゃない。私を殺すことができる、愛し子。早く、現れてくれないかしら」
そんな彼女の囁きは、誰の耳にも入ることはなく、空気に溶けて行った。




