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後片付け※

空に、闇の帷が覆い被さっていた。


その中で星々は宝石のように輝いて、存在感を示している。


そしてその中で一際輝いているのが、月。

淡く白く光る満月が、優しく地上を照らしている。


暗い夜道を、クローディアは迷いなく歩いていた。


「やっと見つけたぞ、女!」


怒鳴り声の先には、ナサニエルがいた。

けれども、彼女が初めて会った時の姿は見る影もない。


ボロボロの服に身を包み、顔は痩せていた。


「貴様のせいで、貴様のせいで……っ。全部、台無しだ!」


捕まった恨みを、彼女にぶつける為に現れたようだ。


「貴方は牢に繋がれている筈では?」


「逃げたんだよ」


「大変、挑戦心に富んでいますが……再度捕まれば、刑期が伸びるだけです」


「ぬかせ……っ。大体、ただの人に、俺を捕まることができる訳がないだろう」


ナサニエルの言葉に、クローディアは笑った。


丁度そのタイミングで、アルフェが彼女から離れて路地裏へと足を進める。


「……何をしているんですか、こんなところで」


彼が声をかけたのは、メルン。

人目を避けてか、闇に溶けるような色合いの質素な服を着ていた。


「あ、貴方……彼女の使い魔だっけ」


彼女は、小声で彼に言葉を返す。


「ええ、そうです。それで?何故、貴女はこんなところに?」


「その、心配になって……」


「あの男をですか?我が主人の忘却魔法によって、貴女の存在は彼の記憶から消えているのに?随分と、健気ですね」


「ありえない!あんな嫌な男、縁が切れて清々しているわ」


アルフェは首を傾げた。


「それなら、主人を心配したのですか?」


「それこそ、まさかでしょう?」


一人と一匹は、同時に路地裏からクローディアの様子を伺う。


「彼女は、ベルディオに三人しかいない大魔法師の称号を持つ、最強の一角。あの男じゃ、かすり傷を負わせることすら無理よ」


そう言うが早いか遅いか、ナサニエルが魔法を放った。

けれどもその魔法は宙に消える。


想定していなかったその事態にナサニエルが慌てる間もなく、クローディアの魔法がナサニエルを襲う。


そして、彼はチリ一つ残さず消えたのだった。


「ちなみに、それなら何を心配したのですか?」


「この前、クローディアが来た時に、アイツがベルディオの工作員だってこと、うっかり、すっかりと伝え忘れたことを、急に思い出して……。謝りついでに、さっさと伝えようと、こうして帰り道で待っていたのだけど……」


「運悪く、先にあの男と遭遇していた、と。……つまり心配していたのは、自身の安全?」


「そ、そうよ……」


アルフェは苦笑いを浮かべる。


猫だというのに、苦笑いと一目で感じるほど器用に笑うアルフェが凄いのか、それだけアルフェを呆れさせたメルンの言動がすごいのか。


「ブレないですねぇ……」


そう呟いた瞬間、その場にクローディアが現れた。


「おや、メルン。こんなところに来て、どうした?」


「クローディア!私、心配したのよ。クローディアのことだから、あの男の正体は把握した上で、計画を立てていたとは思ったのだけど……」


メルンの言葉に、アルフェはその後ろで笑みを深める。


「ああ、メルン。大丈夫だよ。この通り、特に怪我はない。あの男が魔法使いというのは、魔力の動きで確かに認識していたよ。魔力の制御が雑過ぎて、むしろ視界がうるさかったぐらいだったかな」


「そ、そうよね……」


「それでも放置していたのは、何か仕掛けられても、単独なら簡単に始末ができると思ったからだよ。きっと、メルンも同じ結論で、わざわざ私に伝えなかったんだろう?」


「も、勿論……っ!」


クローディアはメルンの全力の肯定に、苦笑を浮かべた。

それを見て、アルフェは再び笑う。


自分たちの会話を聞いていたのか……と思いながら。


その上で、彼女に牽制を効かせるために言ったのか、それとも彼女の話に合わせてあげる優しさからなのか。


アルフェはその問いを口に出すことはないまま、クローディアの肩に乗った。


「それじゃ、この辺で失礼させて頂くよ。君も、気をつけて帰ってくれ。……メルン」


「ええ、お気遣いをありがとう」


そして一人の男が消えたとは思えないほどの和やかな雰囲気のまま、二人はその場を去って行った。




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