舞台裏
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……その知らせを受け取った時。
「はははははっ……!」
盛大に、ディランが笑った。
脇で控えていたカールとルロイが何事かと訝しむ。
……否、訝しむことを越えて、顔を青ざめさせていた。
笑いは最大の攻撃とは、誰が言ったことか。
まさに、ディランの笑いはそれだった。
獰猛で、触れれば火傷では済まされないような、そんな笑い。
「これを見てくれ」
一旦笑いを引っ込めると、手元にあった報告書を二人に渡す。
二人は恐る恐る、それを受け取った。
「これは……っ!」
「財務部長と総務部長、それから財務部のナサニエルを被疑者と定め捜査する!?」
ルロイとカールがそれぞれ叫んだ。
「すぐに止めなければ!」
カールが慌てて提言する。
「何故だ?」
「第一王子派との要らぬ軋轢を生みます!」
「それはないと思うよ」
クスクス、とディランは笑った。
二人の焦りようと彼の反応は、酷く対照的だった。
「何せ、第一王子派のヴィラード侯爵家からの申し出でベザード商会を調べていたところ、『たまたま』三人との癒着が捜査線上に上がってきてしまっただけだから。第一王子派も第二王子に権力闘争云々と言いがかりなんて、できないだろうね」
第一王子派の中で、ヴィラード侯爵家は決して小さな存在ではない。
そしてヴィラード侯爵家のことを思えば、今更捜査を取り止めさせることの方が難しいだろう。
そのことに思い至ったカールは口を噤んだ。
「彼女、小憎らしいぐらい気遣いができる」
単に第二王子派が三人をターゲットに捜査を進めたら、第一王子派が黙っていなかった筈。
けれども最早、三人が第一王子派・第二王子派どちらにとっても目障りな存在となっていた。
つまり彼女は、誰にも邪魔されることもなく、動くことができる。
「……偶然、ですよね?」
ルロイが顔を青ざめさせて、呟いた。
「まさか。余程、腹に据えかねていたのだろうね」
「だからといって、こんな規模……」
「良いじゃないか。目障りな奴らを消すことができたんだ。こんなに清々しくて笑ったのは、久しぶりだよ」
そう言って、ディランは再び笑った。
「……一体、彼女は何者なんですか?」
「言っただろう?私が、その能力に惚れ込んで何とか引き入れた存在だと。ははは、何かしてくれるとは思っていたが、まさか初っ端からこんな大事を引っ張り上げるとは、想定していなかったけど」
そうして、彼は笑った。
「どちらを取れるかな。両方は、流石に欲張り過ぎか」
愉快そうに、愛おしそうに、冷酷な目をして。
その様を、側近二人はただ黙って見ているしかできなかった。




