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視察

メルンを訪れてから、三日後。

相変わらず、私は資料を読み漁る毎日だった。


「……さて、今日は出かけてくる」


暇そうに欠伸をしていたアルフェに声をかける。


「どちらに行くのですか?」


「騎士団の視察。ホラ、以前にディラン殿下に視察許可を貰っていただろう?」


「ああ、あれですか。一体、何の用で?」


「王宮警護がどのように行われているか、一通り見るつもり。そうだな、長くて十日は騎士団に通うことになりそうだ」


「随分と、長々と視察するのですね。一体、何が目的で?」


「言った通りだよ。一通り、見たいだけ」


「へぇ……朗報、楽しみに待っていますよ」


そのまま、アルフェはその場で眠りの体勢になる。


その頭を撫でてから、騎士団の詰所に向かった。



騎士団の詰所は二つある。


一つは、王宮の敷地内。

王族や宮中の警護を担う騎士たちがいる場所だ。


そしてもう一つが、王宮の敷地外。……とはいえ、王宮のすぐ隣にあるが。


この詰所は、王都の警護を担う者がいる場所だ。あるいは、国境警備の任を担うものたちが王都に来た時に一時滞在する為。


私が向かったのは、後者。つまり、敷地外の詰所だ。詰所に辿り着き、まずはそこの責任者に会いに行く。


「はじめまして、エマール卿。私、クローディアと申します。ディラン殿下の側勤めをしております」


目の前にいる男は、エマール第三騎士団団長。

この詰所の実質的な責任者でもある。


肉体を鍛え上げていることが一目で分かるほど、筋肉隆々の体つき。

焦茶の髪は短く刈り上げられ、鋭い眼光が特徴的な顔つきだ。


彼は私が持ってきた許可証を一読する。


「クローディア殿、お初目にかかります。此度は視察として我が騎士団と行動を共にされたいとのこと、承知掴まりました」


流石は、ディラン直筆の許可証だ。

一枚の紙切れで、簡単に了承して貰える。


とは言え、エマールはの表情は優しげだ。


見た目に似合わないと言ったら失礼だけど、むしろ強面だからこそより優しく映るのかもしれないが。


それでも彼の表情と視線は、宮中で挨拶をしてきた面々と異なり、私を対等な人間としてくれているのが一目で分かる。


「突然のことで大変恐縮ではございますが、ご迷惑をお掛けしないよう励みます。どうぞ、よろしくお願い致します」


「こちらこそ申し訳ないが、一つ質問をしても宜しいか?」


「勿論でございます」


「一体、此度の視察はどのような趣旨なのであろうか? それ次第で、案内する場所も変わってくるかとは思うのですが」


「私はこれまでも、殿下の手足として働いていました。しかしながら、残念なことに国政に携わったことはございません。折角殿下にお誘い頂きましたのに、それでは十全に働けません。勿論、必要な資料は一通り読んでおりますが、王都の実態を掴むためには、第三騎士団を視察するのが良いかと考えた次第です」


「なるほど……そうすると、本当に文字通り、我々と共に行動をなさりたいと?」


「はい、そうです」


「そうですか。……オーバン」


部屋の外にも聞こえるように、彼はオーバンという名を大きな声で呼んだ。


それからすぐに、部屋に騎士団の団服を着た男が現れる。


エマールを見た後だと、オーバンと呼ばれた男は、ほっそりとした体つき。ただ、細身とも言えないので、やはり鍛えているのだろう。


濃い緑の髪は、耳の上ぐらいの長さで綺麗に切られていた。

目つきは柔らかく、このまま団服を脱いで街にいたとしても、見事に溶け込みそうな姿だ。


「どうされましたか、団長」


「お客さんだ。彼女は、ディラン第二殿下の側近であり文官のクローディア殿」


「ゔっ……ディラン殿下の側近ッスか?」


「言葉遣い!」


オーバンの言葉に、エマールが言葉を荒げた。


「……っ。失礼しました、お初目にかかります。私は、第三騎士団中隊長のオーバンです……あ、いや、申し……ます」


「ご丁寧にありがとうございます。今し方ご紹介に預かりました、クローディアと申します。大層な肩書を頂いていますが、若輩者ですので、どうか肩の力を抜いて接していただけますと嬉しいです」


「は、はあ……。よろしく、お願いします。……それで、団長。クローディア殿が私の客とは、一体何が……?」


「クローディア殿は暫くの間、我が騎士団の視察として行動を共にされる。その案内を、お前に任せたい」


「いっ……え、自分にですか?」


オーバンはキョロキョロと、エマールと私を不安そうに交互に見ていた。


「ああ、そうだ。……クローディア殿、貴殿の目から見て彼は少々言葉遣いに難があるかもしれませんが、王都生まれの王都育ちで、誰よりも王都に詳しいです。加えて、中隊長の役職に相応しい力量も持っていますので、外に出る場合も安全でしょう」


「エマール卿、ありがとうございます。とても、頼もしいです。……オーバン殿、どうかよろしくお願い致します」


「えっ……い、いや、自分は……」


困ったように、視線を右往左往させている。

彼に対する申し訳なさを更に感じた。


「オーバン」


一言、エマールが名を呼んだ。

そしてオーバンが腹を括ったように、しっかりと前を見据える。


「承知致しました。クローディア殿、至らない点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」


「よろしくお願いします。……それでは早速ですが、施設内の案内を頂けますでしょうか」


「承知致しました」


「エマール卿、此度の視察について受け入れを快諾を頂き、改めて御礼申し上げます。引き続き、よろしくお願い致します」


そうして、オーバンの後に続き部屋を退出した。


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