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侮蔑

……各部署を回って理解したこと。

それは女性の割合が極端に低いということだ。


思わず、溜息を吐いた。

カールが私を訝しむのも、この環境を所与の前提としているのであれば、頷ける。


今更ながら、思い出した。


文官になるには、専門の学校を卒業しなければならない。


通常、貴族の三男・四男が通う。

けれども二代前に、やっと平民や女性にも門戸を開いた。


その理由は、隣国との戦争だ。

単純な話、その戦争のせいで男性の人口が減っている。

貴族も例外ではなく、むしろ貴族の務めだとかで嫡男以外の男性は積極的に兵役に志願した。


結果、働き手が減り、皮肉にも女性も働きに出れたという話。

けれども根底には、未だに女性が働きに出るのが忌避される傾向にある。


故に、この文官の男女比率は悲しいかな、納得できるものだ。


文官の学校を通うためにはある程度の教養が必要で、そのレベルに至る者の多くは、裕福な貴族の令嬢が多い。


そして貴族の令嬢であれば尚更、働きに出ないことが美徳とされている為、当然の結果といえば当然の結果だ。


……そんな美徳は無意味だと、私個人は思っているが。


……尤も、そんなことを私が思うのは、祖国であるベルディオの影響が大きいのかもしれない。


祖国ベルディオは、その辺が撤退して平等だった。その理由は当然、労働人口を増やし、ひいては国力をあげるため。


一国で、世界中の国にケンカを売るのだ……当然、国は常に人材を欲していた。


それ故に、優秀な人材が継続的に働けるようにしつつ、さりとて出産率を下げないように、女性の働き易さが十分配慮された職場環境だった。


その点だけは、ベルディオの美点だと思う。


改めてイデモンデ王国の中枢を見て、そう実感した。


同時に、この状況下でディランの側近か……と溜息を吐きたくなる。

……ディランの先見の明に感服すべきか、職場環境が整っていないと嘆くべきか。


「関係者の挨拶回りをして、どう思いましたか?」


カールの皮肉に、思わず笑みが溢れた。


「とっても愉快な職場環境で、驚きました。……まさか、祖国を懐かしむ日が来るとは思ってもみませんでしたわ」


皮肉に皮肉で返す。


「……興味本位ですが、貴女の祖国はどういった国なのですか?」


「端的に言えば、この国と比べると実力主義の色が強い国ですわ。性別を意識したことは一切ありませんし、出自に関しても……名家の出の方が有利なことは否定しませんが、実力がある者は国の中枢に登用される例は数えきれないほどですもの」


「そのような革新的な国、聞いたことがありませんが」


「残念ながらイデモンデ王国とは、国交が樹立しておりませんから。とはいえ、祖国以外も同様の国があると認識しています。例えばヴィオレット王国は、軍事色が強い国が故に平民だろうが女性だろうが、実力さえ確かであれば上り詰められると聞いたことがあります」


「そうですね。…….ただ、国の権力は血筋に由来するもの。そうでなければ、ヴィオレット王国のように、何らかの歴史的背景や目的で血筋から移行していると理解しています。果たして、貴女の祖国はどのような理由なのでしょうね?」


まさか、世界征服の為ですとは言えない。


「まあ……イデモンデ王国よりも遠く離れた私の祖国に関心をお持ちとは、流石はカール殿」


そう言って、ニコリと笑った。

まるで、祖国に興味を持って貰って嬉しいと言わんばかりに満面の笑みを。


それを見て、カールはこれみよがしに再び溜息を吐いた。


「……真面目な話、貴女にとって相当に厳しい環境かと思いますが」


「ええ、ええ。仰る通りですわ。ただ一日、ほんの一瞬接するだけでも理解できるほど」


苛立ちを隠すように、笑みを深める。

分かっていて聞くのだから、タチが悪い。


「特に財務部のヴィンデッド部長とナサニエルは素晴らしい方々ですね。あのような人格の者を責任ある地位に置いてる時点で、この国の方針がよくよく理解できる程でしたわ。何ともご立派な方針ですこと」


つい軽口を言ってしまった。

それだけ、強烈な印象を残してくれたのだから。


そもそもで最後に行った財務部の他も、最悪だった。

露骨に、私にディランの側近が務まるのかと蔑むような態度で挨拶をしていたのだから。


けれども、それでも財務部のヴィンデッドとナサニエルよりはマシだった。

まだ、態度だけで、直接的な言葉には出していなかったから。


……まさか会って早々に、疑念と皮肉の塊であるカールよりマシだと思うとは、想像だにしていなかった。


『側近?愛妾の間違いではないかね?』


ヴィンデッドの第一印象は、痩せ細った不健康な男。妙に美しい金髪が浮いていた。


そんな彼からそんな第一声と共に、蔑み八割・情欲二割を孕んだ視線をよこした時、殴らなかった私を褒めて欲しいと思った。


『部長、愛妾などと……。流石 殿下もそこまで趣味は悪くはありますまい』


隣にいたナサニエルは艶やかな緑色の髪が特徴的で、顔は非常に整っている。

服装はヴィンデッドもそうだが、正に貴族的な品の良い豪奢な服だ。


『それもそうか』


『君……青い血が流れていない者には、難しいかもしれないが、我らは長い信頼関係のもとに職務を遂行している。せいぜい邪魔だけはしてくれるな』


『違いない。……引き続き、我々はカール殿に話を通せば宜しいかな?私どもの職務の重要性を鑑みると、その方が良いかと思うが』


……拳を握り締めた。

我ながらよくぞ我慢できたと思う。


「殿下よりカール殿に、私が職務を全うするに当たり、何かご指示はありましたか?」


「……否、特にこれといった指示事項はありませんでしたが」


「左様でごさまいますか」


本人の言った通り、好きにして良いということか。


「まずは資料を拝見したいと思いますが、どちらにありますでしょうか?具体的には、組織図、官僚の権限規定、それから全部署が作成した資料及び決裁を直近五年間」


にこやかに笑って申し出たというのに、何故かカールは怪訝な目を向けていた。


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