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雑にブラックホールに飲まれて死ぬ悪役令嬢に転生したのだが、こんなもんどないせいちゅーねん

作者: 園日暮

勢いだけで書きました。



 乙女ゲームの世界に転生していた。

 今時それぐらいでは別に驚かない。この私を驚かすほどのことではない。


 この世界は乙女ゲー黎明期に出たパクリクソゲー「ルミナスアージュ」の世界だった。


 私は頭を抱える。


 ノーマルエンドでも宇宙崩壊して全滅するクソエンドのやつじゃねえか。


 「ルミナスアージュ」とはヒットした名作に後追いして作られた、名作の表面だけをうす~くかじって真逆のコンセプトに付きぬけた駄作である。

 プレイしていない人からは名作のパクリと思われ。プレイした人からはパクリの域にも達していないと評価される。

 使いにくいシステムとUI。すがすがしい程にバランスの崩壊した育成パート。次から次へと噴き出してくる致命的なバグ。

 パクリ元と差別化しようと改変した要素はことごとく滑っていた。


 星の女神の力が衰え、崩壊の危機に瀕する宇宙。

 新たな女神を生み出すため集められたのは25人の少女たち(無論、この無駄に増やした人数はゲーム内で全く生かされることはない)。

 その中の一人であるヒロイン「ルミナ」が成長し、恋をして、宇宙を救う物語だ。


 攻略対象は星々にまつわる守護衛星と呼ばれる、星座にちなんだキャラクターたち。いろんな人気作からのパクリである。パクリ元が老人のキャラクターは老人のまま攻略対象となり、パクリ元と同様、実は女神の秘術により年を取っていなかったのだと言って若返るという、無駄なパクリへのこだわりを持っている。


 少女たちはこの攻略対象たちに教えを請い、時にはぶつかりながらも絆を深め、女神を目指していくのだ。


 私が転生したのは、失敗した差別化の一つ。ド派手な髪色と髪型でプレイヤーの目をチカチカさせる。ヒロインのライバルに変えて配置された、邪魔者の悪役キャラだ。

 攻略対象も宇宙の危機もガン無視して、とにかくヒロインの足を引っ張り、嫌がらせをすることだけに終始する。露出の高い服装で派手な扇子を持ち、非現実的なまでに傲慢な言動を繰り返す。それでいて嫌がらせの内容だけは現実的な生々しさを持っている。

 名をアクージョという。


 ちょっとはネーミングひねらんかい。


 アクージョはストーリ面でもゲーム面でもプレイヤーのヘイトを稼ぎ、終盤、宇宙崩壊の前兆として生じたブラックホールに飲まれて雑に死ぬ。


 ここまでがこのゲーム共通ルートである。

 ここから攻略対象の個別ルートに分岐するが、このゲームは隙の無いクソゲーである。全キャラクター、セリフに最小限の差分を用意して、立ち絵を挿げ替えただけの同じ内容である。個別ルートが用意してある分、このクソゲーにしてはマシとも言われている。


 アクージョが死んだ後に前女神さまが命を捨て、一時的に宇宙の崩壊を食い止めてくれる。


 遅いわ!


 前女神さまが稼いだ猶予の間にヒロインが女神の力に覚醒しなくてはならない。プレッシャーに追いつめられるヒロイン。ヒロインの育成と攻略対象のフラグ建てに失敗していた場合、個別ルートに入れない。個別ルートに入れなかった場合、時間だけが過ぎ去り宇宙は崩壊して、みんな死ぬ。これがノーマルエンドだ。

 個別ルートに入れれば、ヒロインは攻略対象との絆を深めていくことになる。だが、女神となれば攻略対象たちとは離れ離れにならければならない。苦悩するヒロイン。

 そして、何の脈略もなくいなくなっているヒロイン以外の女神候補たち。何の描写もなかったが、彼女たちもブラックホールに飲みこまれたのだろうか。

 攻略対象のピンチに覚醒するヒロインの力。

 女神となったヒロインと攻略対象の別れ。ここで攻略対象の好感度が足りていないと離別エンドとなる。

 (なお、バランスがおかしいせいで、バグを利用しないと絶対に必要な好感度を満たせない仕様となっている)

 ベストエンドになると、いきなりヒロインの親友の女神候補が沸いていくる。今まで影も形もなかった親友がヒロインから女神の力を受け取り、あっさりと新たな女神となる。


 ちなみに親友のグラフィックは、アクージョの立ち絵の流用である。黒塗りにして、他のモブと同じ仕様にしたものである。

 ここまでプレイしたプレイヤーなら、このゲームにしては手間をかけているという感想を抱く所である。


 障害のなくなったヒロインと攻略対象が結ばれてクソゲーは終わる。



 え? なんで、こんな見えてる地雷を踏みに行ったかって?


 当時は需要に対して供給が少なすぎて、こんなのでもないよりはましだったのだ。

 いや。今思い返してみると、ないほうがましだったかも。


 ともかく、そんなクソゲーはクリアした後、さっさと封印して記憶から消していたのだが、それから二十年以上もの年月が過ぎて、


 「ワシはこのゲームの神じゃ。お主は世界で唯一このクソゲーをフルコンプした者」


 そうなん? 確かに再現できないバグが偶然起こらないと進めないイベントがいくつかあったけど。

 私だけしかできてないんかい。

 この神様も、自分でクソゲー言っちゃってるし。


 「残念ながらお主は死んでしまったが、このゲームをそこまで愛してくれたお主に礼として、このゲームの世界に転生させてやろう」


 なぜ私はあんなムダな時間を・・・・・・




 気づいたら、アクージョとしてこの世界に転生していた。


 この世界で私が死から逃れるには、ブラックホールを回避するしかない。


 ・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・


 こんなもん、どないせいちゅーねん。




 いろいろ考えた末、私はヒロインの育成に協力することにした。

 ヒロインが女神の力に覚醒すれば、宇宙は崩壊しないし、ブラックホールも発生しない。

 ブラックホールが発生する前に攻略RTAを目指すことにした。


 まずヒロインと仲良くなって、共に女神を目指し切磋琢磨しましょうという方向にもっていくのだ。

 ヒロインのパラメーターの成長はランダムな上、恐ろしい低確率にされている。普通にやっていては到底、必要なパラメーターに達しない。

 利用できるバグ技を駆使してヒロインの能力を上げていくのだ。



 「立ちなさいルミナさん。まだ今日の修練は終わっていなくてよ」

 「栄養も取らなくては体が持ちませんわよ。タルトを作ってきましたの」

 「貴方が諦めたら、女手一つで貴方を育ててくれた貴方のお母様の運命も終わってしまうのですよ」

 「ほら、こうしていると寒い夜でも暖かくなるでしょう」

 「この雄大な自然に人間は守られてきたの。今度は私たちがこの惑星(ほし)を守らくなくては」


 つい、往年の名作たちに登場するライバルキャラになりきってしまった。最後の方はライバルとか関係なく名言を言ってみたかっただけだ。

 楽しんでいる場合ではない。


 攻略対象たちのとの交流もそっちのけでヒロインをしごいてきた。

 なんだか、原作通りヒロインをいじめているだけのような気もしてきた。

 これで大丈夫なのだろうか。



 大丈夫ではなかった。



 ブラックホールは絶賛発生し、ただいま私は空を舞いあがり、ブラックホールに飲み込まれている最中だ。


 やはり、リセットとセーブロードと乱数調整ができない状況で使えるバグ技には限度があった。

 育成は間に合わなかった。


 ブラックホールに飲み込まれているにしては遅い速度だが、原作でもアクージョが死にたくないと泣き叫び助けを求める描写に多めに尺が取られていた。この世界のブラックホールはこんな速度なのだろう。


 しゃーない。

 こうなってしまったものは仕方がない。なんもかんもクソゲーの神が悪い。出てきてブラックホールを引き取ってかんかい。


 ・・・・・・・・・・・・


 クソゲーの神はやはりクソ神だったか。

 地面でルミナが私を見つめている。なぜ彼女がブラックホールに引き寄せられないのかは不明だが、彼女がこの宇宙を救えるように祈っておこう。


 頑張りーや。


 「アクージョお姉さま! あなただけを行かせはしない!」

 私に向けて手を伸ばしジャンプするルミナス。その体がピカーッと光った。女神パワーが目覚めたのだ。

 背に光の翼を生やし、舞いあがる。私の元まで飛んできて私の手を握り締める。

 ブラックホールはまだ消えていない。完全に女神の力に覚醒したわけではないようだ。

 「一緒にやりましょう、お姉さま」

 何だか分からないが、とりあえず

 「よくってよ」

 と言っておく。

 すると私の体もピカーッと光って、女神パワーが放たれ始めた。

 そういえばルミナスと一緒に同じ訓練をしていたのだ。私も女神パワーに目覚めていたようだ。


 吸い寄せられる力が止まった。

 しかし、ブラックホールは消えない。

 これでもまだ、女神パワーが足りないようだ。


 「あなたたちだけに、やらせはしないわ!」

 巨大ロボが出てきた。


 そういえば、そんなんあったな。

 牡羊座の攻略対象のイベントで唐突に出てきて、唐突に消えるやつだ。無駄に専用BGMまで用意されていた。

 要素だけ抜き出してみるとバカゲーに見えてしまうのも、このクソゲーの恐ろしい(トラップ)だ。プレイしてみると間違いなくクソゲーだと分かるのだが。


 ロボはジェット噴射で空を飛び、私たちをその手で優しく掴んだ。

 コクピットが開き、パイロットが顔を出す。

 その特徴的な髪型。アクージョのグラを使いまわしたルミナの親友だ。

 無論、彼女も女神パワーでピカーッと光っている。

 シルエットではないので顔が見える。アクージョとは全然違う顔だ。それなのに髪型だけが一緒なのはなんとも不可思議な光景だ。

 なぜ彼女はあんな髪型にしているのか。

 彼女はその髪を手でぽふんと揺らして意味ありげな視線をこちらに送ってくる。


 ああ、うん、おそろいやね。


 心なしか私の手を握っているルミナの手の力が増した。


 親友が巨大ロボに乗って助けに来るというシチュエーションに興奮しているのだろうか。

 スポ根にも乗ってきたし、この子、結構小学生男子みたいなところあるよね。


 「私たちは」

 今度は、他の22人の女神候補たちが声を揃えて出てきた。

 「ルミナの圧倒的な女神力(めがみちから)の前に諦めていました」

 女神力(めがみちから)って何?

 「でも、お二人の特訓を見ていて、目が覚めたのです。私たちにもできることがあると」

 そう言って彼女たちも22人もピカーッと光って、女神パワーの力を放ち始める。


 まぶしっ!


 「よくやりました、少女たちよ」

 天界から女神さまもピカピカしながら降りてくる。

 「今こそ、救世の時!」


 もう何が何やら。




 よく考えると、いきなり湧いてきたモブが女神になれる存在能力(ポテンシャル)を秘めていたのだ。そんなのが25人も揃えばブラックホールの一つや二つなんとでもなる。


 無駄に多い少女たちの数は伏線だったのだろうか。

 このクソゲーのことだから、適当に着けておいた設定が上手いこと噛み合っただけに違いない。


 ともかく、25人分の女神パワーを受けとった女神さまは力を取り戻し、宇宙を平穏に戻した。ブラックホールも消えた。


 「ありがとう少女たちよ」

 そう言い残して、女神さまは天界に帰って行った。


 「よくやった、少女たち」

 そう言い残して、攻略対象たちも自分の守護星に去って行った。

 こいつらホンマ空気やったな。


 少女たちも、女神パワーは無くなり、それぞれの故郷に帰って行った。


 残ったのは私とルミナだけ。


 私も実家に帰るか。アクージョの実家は貴族だが、それ以上の設定は存在していない。

 そのせいか、爵位も領地も王家もないのに、何故か我が家だけは貴族という、よく分からないことなっていた。


 「あ! あの!」

 ルミナが瞳を潤ませ私を見上げる。

 「わ、私の実家に行って、お母さんに会ってくれませんか」


 う~ん・・・・・・


 ま、そんなエンドもええやろ。


 私は空を見上げ、しみじみと思う。


 サンキュー、クソゲーの神。フォーエバー、クソゲーの神。


 もう二度と出てこんでええからな。






毛色の違うような、大して変わらないような長編もやってます。

『無限転生 地道に無限の研究したいのに、次から次へと無限が見つかって、向こうから押し寄せてくる』(https://ncode.syosetu.com/n3226im/)

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