フグの毒を甘く見てはいけない
ふぐぅ、クソやらかした。
俺はどうやらもう助からないらしい。
全身を襲う気だるさと尋常ではない体の暑さ。
体が鉛のように重くもはや身動きもできない。
どうして俺はあんな俺かな行動をしたのか。
ただ単に調子に乗っていたのである。
死ぬ。
俺はそれを確信した。
助けを呼ぼうにももう俺の体は俺のものではないのだ。
指一本動かせず、このまま孤独に死んでいくのだ。
薄れているはずの意識なのに過去の思い出が早送りではっきりと頭の中を駆け回る。
俺は欠陥品として生まれてきた。
人にあるものが自分にはなかった。
それに気がついたのは小学生の低学年の時。
周りの人間はさまざまな、才能を開花させているのに俺だけ一向に何も才能が開花しなかった。
俺のような人間は非常に珍しく、言うなれば障害者という部類の人間なのだろう。
とはいっても特にいじめられることもなく、普通に学校生活を送っていたのだが、中学に上がる頃くらいから俺の人間関係はガラリと変わった。
今まで仲良くしていた友達たち、言うなれば幼馴染たちはなぜか全員優れた才能が開花しておりその才能にあった、学校に行き相応しい人間とつるみ俺とはあまり関わりを持たなくなった。
寂しく感じる一方でそれもしょうがないかと思ってもいた。
それからはただ生きていく毎日。
ニュースで流れてくる幼馴染たちの活躍をまとめたり、調べたりする。
そういうことが好きだった俺はジャーナリストになった。
あいつらは気づいていないみたいだが、あいつらのヒーロー記事の大体は俺が原稿を書いたものだったりする。
世の中面白いもので、人間関係や社会問題や組織的隠蔽。
調べれば調べるほど、しっちゃいけない知られちゃいけない世間に公表できない情報ばかりで溢れていた。
何の特別な才能も開花しなかった俺だが、そういった才能はあったらしく気がつけばこの国の政府と交渉できるほどの影響力があるほどの情報量を持っていた。
汚いものには蓋をして金庫にしまい厳重に鍵をかける。
俺は、その金庫の鍵を持っていてその気になれば蓋を取り汚いものを世間にぶちまけることもできるといった人物だ。
政府にとって救いなのが俺が一切そういった汚いものをぶちまける気がないといったことだろう。
あくまで俺が描きたい記事はヒーロー記事であり、浮気や汚職疑惑が可愛く見えるようなヘドロのようなこの国の闇の部分ではない。
たまたま、幼馴染たち以外のヒーロー記事を書くにあたって情報を集めていた際にたまたましってしまったということだけである。
そんな俺がどうして、死ぬのかというと先ほども記した通りに調子に乗っていたのである。
俺は趣味というわけでもないがたまに釣りをする。
そして今回取れたのが、残念ながら一匹。
それもフグである言わずと知れた毒魚である。
小さくこれと言って食べれる部分も少ないし、何より毒魚である。
適切な資格を持ったプロでなければ捌いてはいけないと言われているほどの毒魚である。
裁く動画や捌き方の手順はインターネットで調べればすぐ出てくるが毒魚である。
何を思ったか、俺はそのフグを自分で捌いた。
料理には自信があったし、もしあたっとしても死にはしないだろうと調子に乗って、フグを捌く動画を見ながらこの毒魚を捌き食した。
それも生で、それがいけなかった。
ちょうど一口サイズだったので捌いて軽く水洗いしてそのまま口に放り込んだ。
味は淡白で骨は硬かったが噛み砕けないほどでもなかったのでそのまま咀嚼し飲み込んだ。
そして寝た。
この日は特に予定もなかったし、眠かったからねた。
それから何時間経ったのだろうか、わからないがうたた寝している最中体が異常に暑くなっていくのを感じる。
いや、むしろ寒い、悪寒が止まらない。
息も途絶え途絶えになり、ろくに呼吸もできなくなってきている。
これはやってしまった、そう気がついた時にはもう遅かった。
もはや指一本動かせずに、俺は何もできないまま今の状況に至る。
その気になればこの国といや世界中のさまざまな国とも取引可能なほどに情報をもつこの俺が、さまざまな暗殺者や情報を狙ったスパイからも命からがら生き延びていたこの俺がまさか食中毒で死ぬとは。
食中毒、確かブッタもそれで死んだんだっけか?
後世に残したいことが二つもできてしまった。
一つは国家がどうしてフグを捌くのに免許を発行するのか。
もう一つはテトロドトキシン、フグ毒を甘く見ないほうがいいということだ。
完全に消え去る意識の中、俺はその二つを思い浮かべながらゆっくりと意識を完全に手放したのだった。
フグぅ。