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スローライフホラー  作者: 庸
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1.大自然の驚異

男は山奥に住み、ジビエをして暮らしていた。

動物や植物、山に迷い込んだ人を食べていた。しかしある日、男がいつものように狩りに出ると子供が倒れているのを見つけたのだ。

「これは……遭難者か? それとも……」

子供は息をしていないが、わずかに温かい。死んでからそんなに経っていないようだ。

男は子供を家に連れて帰り、貯蔵庫に寝かした。

次の日、それを捌こうと持ち上げるとまだ柔らかかった。死後硬直が始まっていない。

(この子は生きているのか?)

そこで、暖炉の前に寝かせることにした。

しばらくすると突然、子供が飛び起きた。そしてキョロキョロ辺りを見回している。どうやら意識を取り戻したらしい。

「おぉ! 良かった!」

男は思わず声を上げてしまった。

すると子供はビクッとしてこちらを見た後、すぐに逃げようとする。だが体が弱っていて思うように動けないらしく、ヨタヨタしながら玄関に向かっているところだった。

慌てて追いかけて捕まえる。

「待ってくれ! 助けて欲しいんだろ?」

子供は何も言わずに暴れた。しかし衰弱しきった体では大した抵抗にもならない。

そのまま家の中へ連れ込みベッドの上に放り投げる。

「ごめんよ、でも君を助けたいだけなんだ」

そう言いながら服を脱ぎ裸になる。

「大丈夫だ。ちゃんと綺麗にするし傷つけたりしない。ただ体を温めたいだけだ」

子供の体に覆い被さるようにして抱きしめた。

体温で温めようと体を密着させる。

子供はとても怯えていたが、しばらくすると少し落ち着いてきたようで大人しくなった。

やがて男の体温で温まり眠ってしまった。

そっと顔を見ると泣き腫らしていたようだったので優しく頭を撫でる。

「もう大丈夫だからね、安心して」

子供の手足を押さえつけ、毛布で体を包み込むように巻き付ける。

それから火を起こして鍋に水を入れる。沸騰するまでの間に、肉を切り分ける。

「さぁ出来たぞ」

ギシッとベッドが軋んだ。見ると、子どもは起きていて、目には恐怖しか浮かんでない。

それでも空腹には勝てなかったらしく恐る恐る食べ始めた。

「ゆっくり食べるんだよ。急ぐことはないからな」

少しずつ口に運び、飲み込んでいく様子を観察する。

「美味しいかい?」

コクリコクリとうなずく。

その様子にほっこりする男だったが、ふとある事に気がつく。

(そういえば名前を聞いていなかった)

聞いてみるとやはり名前はないようなので適当に呼ぶことにする。

「じゃあ今日からポチだ」

犬の名前みたいだけどまあいいかと思いつつ。

子供は首を傾げるが気にせず続ける。

「ポチ、まだお前さんの体は冷たい。まずはあったかくならないといけない。一緒に風呂に入ろう」

抱きかかえると敵意をむき出しにして暴れるが、無理やり脱衣所まで運ぶ。

服を脱がして、湯船に浸かり後ろから抱え込むようにして洗う。

最初は強ばっていたがだんだんリラックスしてきたのか体の力が抜けてきた。

洗い終わる頃にはすっかり懐いている。

男の鼻腔に、温かいの血肉の香りが入り込んだ。

タオルで拭いて服を着せるとベッドに押し倒す。

男は興奮していたが、ここで無理矢理するのは良くないと考え落ち着こうとする。

子供を怖がらせないようにゆっくりと話し掛けていく。

「寒いだろう?俺も寒くて凍えそうだ。今、お前さんがあっためてくれないか?」

子供は無言のまま動かない。

「頼むよ」

男が懇願するように言うと、子供はその小さな手をのばし、男の頬に触れた。とても冷たかった。

男は嬉しくなって笑顔になり、それにつられて子供の顔にも笑みを浮かべたような気がした。二人で布団に入り寄り添って眠る。お互いの熱を分け合うかのように。

翌朝、目を覚ますとおなかが減っていた。隣を見ると同じように子供が目覚めている。

「おはよう、よく眠れたか?」

声をかけるが返事はない。

代わりに何かを探すように手を動かしている。

「んっ……あれ……?」

どうやら喉が渇いたらしい。

水を飲ませようとしたがコップを持つ手が震えている。

「ほら、これを飲んでくれ」

口元に当ててやると素直に飲む。

ごくりと音を立てて水が喉を通り過ぎていった。

「ぷはー……」

一息つく様子を見てホッとする。

「お代わりもあるぞ」

再び差し出す。今度はこぼすことなく全部飲み干した。

「よし、いい子だ」

頭をポンポン叩いてやる。

すると、ポチは顔を手で覆った。

どうやら昨日のことを思い出し恥ずかしくなってきたようだ。

「別に変なことじゃないんだぞ。生きてたら誰だってすることなんだ」

フォローするがあまり効果はなかった。

そこで、食事を用意して食べさせることにした。

パンを小さくちぎりスープに入れる。スプーンを持たせても上手く食べられないので仕方なく直接食わしてやった。

「うまいか?」

コクンとうなずいたが、途中で苦しそうにしている。

「ああごめんよ。つい夢中に……」

慌てて口を離そうとするが、子供は嫌々をしながら吸い付く。

結局ほとんど自分で食べた。

その後、暖炉の前で干し草の上に座り話をすることにした。

「俺はこの森に住んでいる人間だよ。君はどこから来たんだい?」

「……」

「答えたくないかな。でもね、このままだと死ぬかもしれないし、悪い奴らに捕まって酷いことをされるかもしない。だから正直に話してほしいんだ」

「……」

黙ったままうつ向いてしまう。

「やっぱり言えないよね。ごめんね」

沈黙が続く中、外から鳥の声が聞こえてくる。

子供の目線が窓の外に向かう。それを見て察する。

おそらく外に出たいのだと思ったからだ。

「わかった。じゃあ外に行くかい?」

外へ出ると雪景色が広がっている。辺り一面真っ白だった。

吐く息が白く染まる。風がない分マシだがそれでも肌を突き刺してくる寒さを感じる。

足跡一つない新品のような地面を踏みしめながら歩く。

時々木に積もっていた雪が落ちてきて頭に当たった。

痛かったけど我慢をする。すると目の前で足を止めてじっと見つめられたあと、頭に乗っかってきた。それが面白かったのか何度も繰り返す。そのうち調子に乗ってバランスが崩れてしまったようで尻餅をつく。

「こぉ~ら! いたずらっ子め」

笑いながらも助け起こし服についた汚れを払ってあげる。ついでに自分の上着を着せる。

また歩き始めると次は肩に乗りたがったが、さすがに大人と身長差がありすぎて首が疲れたので抱っこしてあげた。

「君の名前はなんていうんだ?」

当然答えるわけもなく無反応である。

それからしばらく歩いていると、遠くの方から地響きのようなものを感じた。

何事だろうかと思っていると、しばらくして雪崩が起きた。

それは凄まじい勢いでこちらに迫ってきていた。

男はすぐに逃げる準備を始める。しかし、子供は逃げようとしなかった。むしろ楽しげな表情を浮かべているように見えた。

「おい危ないぞ!!」

男が注意したが、子供はまるで意に介さず笑みを深めた。そして両手を広げると、なんとその身に大自然の脅威を受け入れたのであった……。

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