表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女  作者: emi
8/12

彼女 8

人は、死んだら何処に行くのだろう。


答えの出ない答えを必死で探すようになったのは、


彼が亡くなってからのことだった。




「ねぇ、人は死んだらどこに行くのかな。私ね、本当のことを知りたいの。」




彼女と一緒に、チョコレートを食べたあの日から、


どのくらいが経った頃だっただろう。


それまでの彼女との不思議なやり取りを振り返ってみると、


彼女なら、本当のことを知っているように思えてならなかった。


だから、あの日の私は、彼女にこんなことを聞いてみたんだ。


人は、死んだら、何処へ行くのかと。




「あなたは、どんなところにいて欲しいの?


そこでどう過ごしていてくれたら、あなたは嬉しい?」




「そうじゃなくて、私は、本当のことが知りたいの。想像じゃなくて、真実。」




「えぇ、そうよね。


だからまずは、どんな場所にいてくれたら、


どう過ごしていてくれたらあなたは嬉しいのか、聞かせて頂戴?」




「彼に今、いて欲しい場所?」




彼にいて欲しい場所。


例えば、この世界では見たこともないような、可愛らしい花が咲く、


暖かな場所だったら良いな。


暑さに弱くて、寒がりだった彼には、過ごしやすい場所にいて欲しい。


そこには、彼を優しく包んでくれるような穏やかな風が吹いて、


どんな場所から見ても、毎日、綺麗な空が広がっていたらいいな。




そうして、夜になると、すぐ側に大きな月と星が見えるの。


星が好きだった彼なら、


きっと飽きもせずに、次の朝が来るまで、星を眺めるんだろうな。




夜にも、色があったら素敵だ。


そう。深い青色の夜がいい。


深い青色の夜空に輝く宝石みたいな星はきっと、


こちら側の世界の季節が巡ることを知らせてくれるのだ。




春、夏、秋、冬。


星の形を眺めながら、季節の移り変わりを楽しんでいる彼を思い浮かべてみる。


楽しそうに星を見上げる彼に、1番好きな季節の星は?って、


もしも、こんな質問をすることが出来たのなら、


きっと彼は、笑ってこう答えるのだろう。


選べないよ。俺は全部好きだよって。




そこにある夜を初めて見た日の彼は、どんな顔をして、笑ったのだろう。


きっと何度も、届きそうで届かない星たちに手を伸ばした彼の胸の中は、


ただ、幸せで、穏やかな気持ちで満たされていたに違いない。




思いつくままに、彼が今いる世界についてを話す間、


彼女は本当に楽しそうに話を聞いてくれた。


頷いたり、時々、素敵ね!って声を上げたり。


彼女がとても楽しそうに聞いてくれるから、私も、つい楽しくなる。




「それでね、そこでは、誰もが自分のやりたいことが出来るの。


ただ、好きなことだけを好きなだけ楽しめるのよ。


彼は、今、どんなことをしているのだろう。


楽しいことに、たくさん出会えているといいな。毎日、笑っていて欲しい。」




思いつくままに言葉にする私の声を、


とても楽しそうに聞いてくれていた彼女は、大きく頷くと、


「それで良いのよ。」


そう言って微笑んだ。




「亡くなった人が、本当は、何処にいるかだなんて、


そんな答えを必死に探しても、見つかるわけないじゃない?


だって、この世界に生きている人は、誰も死んだことなんてないのよ。


だからね、自分で答えを探すの。


そこに正しいも間違えもないのよ。


あなたは、あなたが思い描く向こう側の世界を、胸の中に持っていればいいの。


それは、亡くなった人を幸せにすることにも、


あなたのことを幸せにすることにも、繋がるのよ。


真実なんて、この世界にはないの。


・・・でもね、これだけは、あなたに約束するわ。


人は、死んでも、消えてしまうわけじゃない。ちゃんと存在しているのよ。


だから、あなたが大切な人に、毎日、笑っていて欲しいと望むように、


向こう側からも同じことを望まれているのよ。


あなたは、この世界で、あなたが生きたい道を生きなさい。」




結局そこに、私が求める真実は、何もなかったけれど、


この日の彼女の言葉に、素直に頷くことが出来たのはきっと、


約束をしてくれたからなのだと思う。


私が本当に求めていたのは、その言葉だったのかも知れない。




人は、死んでも、消えてしまうわけじゃない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ