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彼女  作者: emi
7/12

彼女 7

「こんなつもりじゃなかったのに・・・突然、泣いたりしてごめんね。」




どれくらいの時間が経っただろうか。


漸く、気持ちを落ち着かせることが出来た私は、


彼女から離れ、ベンチへと腰掛けると、彼女も黙って、隣へと腰を下ろした。


いつものように、彼女とふたりで空を見上げてみる。




今日が始まってからの私はずっと、何も見ていなかったのかも知れない。


今日の空も、こんなに綺麗だったんだ。


これまでの時間を取り戻すかのように、瞬きもせず、今日の空色を見つめ続けた。


やがて静かに口を開いたのは、彼女だった。




「私はね、亡くなった人を想って泣くことは、悪いことじゃないと思っているの。


亡くなった人に心配させないように、前を向かなかければならないって、


こんな考え方もあるけれど、それは無理をしなければならないのとは、違うと思う。


もしも私が、向こう側から見守る立場だとしたのなら、


本当は泣きたいのに、無理をして笑っている姿を見る方が心配だわ。


立ち止まるのも、座り込むのも、全然悪くない。


どんなに泣いても、悲しみが減ることはきっとないけれど、


泣くことは、向き合うことに繋がっていくのだと私は思うの。


それにね、生きていれば、いつかはお腹が空くし、眠くもなるし、


ずっと、泣き続けたままの人なんていないのよ。


あなただって、ほら、涙が乾いてきたでしょう?」




そう言って、優しく私の頬を拭うと、


「ほら、チョコレート食べない?」


いつからそこに準備されていたのか、彼女が突然に、


私の口にチョコレートを押し込もうとするから、なんだか、笑ってしまった。




口の一杯に広がった甘さは、


なんだか私の中にある傷を優しく包み込んでくれた気がした。




「美味しい?」


彼女のこんな声に、とても美味しいと頷くと、


それなら、もう大丈夫だと笑った。




「たくさん泣いたらね、大好きなものを食べなさい。


今のあなたが幸せだと感じるものを、たくさん食べるといいわよ。


それはね、小さな幸せを集めることにも繋がるのよ。」




ふたりでチョコレートを食べながら、黙って空を見上げた。


それぞれに、小さな幸せを集めるように。




「あなたも、誰かを亡くしたの?」


この日は最後に、こんな質問をしてみたけれど、


「私は、ただ、あなたのことが心配なだけよ。」


あの時の彼女は、こう言って、ただ静かに微笑んだ。




私の質問に対して、否定も肯定もしなかった彼女のことは、


結局、何も分からないままだった。



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