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彼女  作者: emi
6/12

彼女 6

今日の私は、酷く落ちている。


時々、こんなふうに、どうしようもない感情が込み上げることがある。




彼に逢いたくて、声が聞きたくて、仕方がない。


こんな発作のような感情を自分でコントロールする方法は、


未だに見つからないままだ。




彼が亡くなってからの私は、不思議な出来事をたくさん経験してきた。


きっとその全ての出来事を私に見せてくれたのは、彼なのだろう。


でも、こんな時の私には、それでは足りないのだ。


不確かで、曖昧で、空気を掴むようなやり方じゃ、納得出来ない。


私は、きっと、ではなく、絶対の確信が、どうしても欲しいのだ。


はっきりとした彼の温もりや、この耳にちゃんと届く彼の声が欲しい。


亡くなった人に、


生きている人と同じものを求めるな、などという最もな正論は、


今の私には通じない。




時間と共に、傷は癒されていく。


こんな言葉を耳にしたことがあるし、そんな経験もしてきた。


でも、大切な人を亡くして負った傷は、それには該当しないのだろう。


この世界の時間がどんなに過ぎようとも、あの夏から何年が経とうとも、


私の中に、過去にはならないあの夏が存在するのだから。




今日の私は、どんなに待ってみても、


この感情から抜け出すことが出来なかった。




ちゃんと探せば、何処かに彼がいるかも知れない




こんな思いを抱えたまま、行き先も決めずに外に出てみれば、


引き寄せられるようにこの公園に来てしまったのは、何故だったのだろう。




・・・えっ?どうして?




こんなことは初めてだった。


いつもなら、私がベンチに座ると間も無くに現れる彼女が、


今日は、私よりも先に来ていたのだ。


まるで、初めから、私がここに来ることを知っていたかのように。




「待ってたわよ。」




私は、彼女に逢いたかったのかも知れない。


彼女を見た瞬間に、一気に涙が溢れ出した。


そんな私を、彼女はそっと抱き締めると、そのまま、泣かせてくれた。


慰めようとも、元気付けるようなことを言うでもなく、


ただ、黙って寄り添ってくれた彼女が作り出す空気の中は、


とても居心地の良い場所だった。



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