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彼女  作者: emi
5/12

彼女 5

「私ね、向こう側の人と話す方法を見つけたのよ。」




彼女が突然に、こんなことを言い出したのは、


また別の日のことだった。




「えっと・・・何か話したの?」




「話したとも言えるのかも知れないけれど、まだ話してないとも言えるわね。


ねぇ、どんなふうに話せば良いのか、気になるでしょ?知りたいでしょ?」




相変わらず彼女は、突拍子もないことを言いながら、とても楽しそうに笑っている。


今日の彼女は、不確かで、曖昧な情報を提供してくれるらしい。




「それはね、ただ、想えば良いのよ。心を込めて、大切な人を想えば良いの。」




これだけを言うと、満足そうに笑っている。


とても簡単よねなんて、頷きながら。




「想えば、話が出来るってことなの?」




「そうよ。」




「でも、あなたは、まだちゃんと話したわけじゃないんでしょう?」




「そうよ。だって、話すのはあなたでしょう?私じゃないわ。」




「え?どういうこと?」




「向こう側にいる大切な人と話したいのは、あなたでしょってことよ。」




言葉に詰まった。


彼女は、何故、急にこんなことを言い出したのだろう。


こんな私の心の声を読み取ったかのように、彼女は、言葉を続けた。




「あなたは、初めて会ったあの日、悲しそうな顔で空を見上げていたわ。


彼に逢いたいって、そう言っていたじゃない?


だから私は、今、こうしてあなたの隣にいるのよ。」




「えっと・・・」




それは、どういう意味なのだろう。


彼女は、姿を変えた彼なのだろうか。


そんなわけはないと思いながらも、


ほんの僅かな期待を込めて、彼女の瞳をじっと覗いてみた。




不思議そうにこちらを見つめ返す彼女の瞳の中には、


なんの答えも見つからないまま、


僅かに息を吸い込んだ私よりも先に、口を開いたのは彼女だった。




「言っておくけれど、私は、あなたが逢いたい人ではないわよ。


だって、私は、私だから。」


そう言って、朗らかに笑った。




あの後、彼女は、胸の中に浮かぶ言葉は本物なのだという話を聞かせてくれた。


向こう側の大切な人を想った時に、


胸の中に聞こえる声は、フィルター越しの向こう側からの声なのだと。




振り返ってみれば、


彼を見送ってからの私には、彼の想いだと感じる言葉が浮かぶことがあった。




彼女に言わせれば、感じたその想いたちは、どれも本物で、


それは、話をしていることと何も変わらないのだということだった。




この世界には気のせいなど存在せず、


それは、どれも本物なのだというのが、彼女の考え方だった。

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