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彼女  作者: emi
4/12

彼女 4

私がこの公園に来るのは、いつでも不定期だ。


曜日も時間も決まってはいない。


にも関わらず、あれから、私がこの公園のベンチに座ると間も無くに、


必ず、彼女がやってくるようになった。




「あら、また会ったわね。今日は、曇り空ね。曇りの空も素敵よね。


よく見ると、曇り空の日だって、形が違っていて、とても楽しい。


いつでも同じ空はないのよね。」




会話の始まりは、決まって、天気の話だ。


そうして、今日もまた、彼女は、当たり前のように私の隣に腰を下ろして、


空を見上げた。




1人になりたい。


そんな気持ちで此処へ来た日でも、何故か彼女のことを煩わしく思ったことは、


一度もない。


それどころか、例え1人になりたいと考えていたとしても、


こうして此処で彼女と過ごす時間は、何故か心地の良さを感じてしまうのだ。




私の隣で、真っ直ぐに空を見上げる彼女を見つめてみる。


背丈や髪型、服の好みなど、なんとなく私と同じものを持った彼女。


私たちはよく似ている気がするけれど、確実に大きく違う点がある。


彼女は、とても明るい。


暗闇の世界など、これまで一度も見たことがないような人。


そんなイメージを持つ彼女は・・・


そう、太陽みたいな人だと思う。


夏の太陽のような力強さがある人。


私はきっと、彼女のそんなところに、惹かれたのだと思う。




彼女が太陽だとしたのなら、私は・・・私は・・・


その先に、自分に当て嵌まるものが見つからないままに、空へと視線を戻した。




それから、もうひとつ、


彼女に強く惹かれてしまう理由は・・・




「私ね、あの世って呼ばれている世界は、


本当は、この世界に重なり合っていると思うの。」




ほら、例えばこんなふうに。


黙って空を見上げていたかと思えば、彼女は、いつでも唐突に、変な話を始めるのだ。


私は彼女のこういうところ、嫌いじゃない。


いや、寧ろ、好きなのかも知れない。


彼女と話をしていると、何故かワクワクとしてしまうのだ。




「えっと・・・重なり合っているって言うのは?」




「私たちが住んでいるこの世界はね、きっとひとつじゃないのよ。


ふたつの世界が重なり合っているの。


あの世は此処にあるの。私たちの目には見えていないだけ。


でも、向こう側からは、見えるのよ。


そうだな・・・


ほら、暗記シートってあるでしょ?


参考書とか、問題集についている、答えを隠す赤いシート。


赤いシートで答えを隠しているのが、私たちの世界。


赤いシートを外して、ページに書かれている全部が見えるのが向こう側の世界。


きっと私たちは、


暗記シートみたいなフィルターが掛かった世界しか見ることができないのよ。


でも、そのことには誰も気付かないまま、


自分に見えているものをこの世界の全てだと信じ込んでいるの。」




「じゃあ、亡くなった人は、重なり合った別な世界にいるってこと?」




「そうよ。でもね、そこは、空の向こう側に混ざり合った世界なの。


私はね、空の向こう側に混ざり合った世界は、


この世界と重なり合っていると思うの。」




「えっと・・・じゃぁ、空の向こう側にある世界と、


この世界に重なり合う世界は繋がっていて、


あの世と呼ばれるところは、とてつもなく広く大きな世界ってこと?」




「違うわ。繋がっているわけじゃないの。この世界に重なっているだけ。


そこに広いも狭いもないの。そこにあるものは、此処にもあるのよ。」




彼女の話について行けず、飲み込めないままの言葉もあったけれど、


話し終えた彼女が、とても満足そうに頷いているから、一緒に頷いておいた。




「ねぇ、あなたは?あなたは、どんなふうに考えているの?


向こう側の世界について。」


彼女は、いつでもこうして、自分の思い描く世界についてを話し終えると、


私の考えを知りたがった。


そんな時の彼女は、いつも瞳をキラキラとさせているんだ。




「私は、空よりも遠い場所に向こう側の世界があるんだと思う。


そこは、もしかしたら、星みたいな場所なのかも知れない。


でも、例えば、誰かが死んでしまって、


向こう側へ送り出さなければならなくなっても、


遠く離れ離れになってしまうわけじゃないの。


例えば、ここに生きている私たちが、必要としている時とか、


向こう側に逝った人が、この世界の人と逢いたくなった時、


自由に逢いに来ることが出来るの。


空の向こう側は、遠くて近い場所なんだと思う。」




「遠くて、近い場所・・・うん。素敵だわ。とても素敵ね。」




彼女と私の考え方は、似ているところもあるけれど、少しずつ違う。


彼女は、その違いを楽しんでいるのかも知れない。


私の話を聞き終えると、彼女は必ず言ってくれるのだ。


素敵ねって。


私の言葉を反芻していた彼女は、突然に思いついたかのように、目を見開いた。




「ねぇ、もしも・・・もしもよ?


向こう側へ逝った人に逢いたいって思った人が、同時に複数人いたとしたら、


どんなふうに逢いに来るの?」




「それはきっと、同時に逢いに行くことが出来るんだと思う。


肉体を持たない彼らは、きっと、1とは数えられない存在なの。


だから、何人の人にも同時に逢いに行けるのよ。きっと。」




私の言葉に頷いた彼女は、


素敵ね。やっぱり素敵だわ。そう言って、嬉しそうに何度も頷いてくれた。



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