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彼女  作者: emi
3/12

彼女 3

「悲しい顔、してるのね。」




公共の場であるにも関わらず、いつでも静かなこの場所に、


他の誰かが来るなどと考えたことのなかった私は、突然に聞こえたその声に、


ほんの少しだけ驚いて、言葉を発することを忘れてしまった。


にも関わらず、そんな私を他所に、


「今日もいい天気ね。空がとても綺麗。」


彼女は、まるで昔からの知り合いかのように話を続け、


私の隣に腰を下ろすと、空を見上げた。


「え?あ、本当ですね。」


漸くそれだけを返すと、彼女につられるように空を見上げた。




この場所で、知らない人と話をするのも、


今、会ったばかりの人と一緒に空を見上げるのも、


初めてだったけれど、なんだかとても不思議で新鮮な気持ちがした。




「あなたは、空の向こうに、何があると思う?」


隣から聞こえた唐突な質問に、彼女の方へと視線を戻すと、


いつの間にか空を見上げることをやめていた彼女は、私をじっと見つめていた。


そうして、もう一度、ゆっくりと、繰り返した。


「空の向こうに、何があると思う?」




「あぁ、えっと・・・何があるんでしょうね。」


曖昧に微笑んで見せた私に笑顔を返してくれた彼女の瞳は、


私とは真逆の世界に住む人に思えた。


とても生き生きとしていて、なんだかとても楽しそうだ。




「私はね、きっと、空の向こうには、


今の私達には見えない世界があるんだろうなって思うの。


例えば、ロケットに乗って、この地球を出てみれば、


そこに広がるのは、宇宙だけれど、


もうひとつ、そこに混ざり合っている世界がね、きっと存在するのよ。


ねぇ、その方がなんだか楽しくない?


今の私たちには、見えない世界がそこにあったらさ。


ううん。きっとあるのよ。あなたもそう思うでしょ?」




「あぁ、確かに。その方が楽しいですね。」


そう返した私の言葉に満足したのか、


彼女は、ニッと笑って、もう一度、空を見上げた。




そう。この日が彼女との初めての出会いだった。


初対面なのに、変な話をする人だな。


これが、私の正直な、彼女に対する印象。




それなのに、あの日の私は、


彼女の話に、引き込まれるように、その声に耳を傾けていた。

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