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私の幼なじみを寝取った彼女を好きになってしまったかもしれない。  作者: みやけたまご
第二章 私は尊い百合に挟まる異物らしい。
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第一話 私は尊い百合に挟まる異物らしい。



「あのおっ」


 突然だが、私の通う峰ヶ丘学園は中高一貫の私学だ。

 そんなシステムだから、高等部生徒の九割以上が中等部生徒からの内部進学生なのだ。

 クラス一組を取って見ても入学直後から周りには殆どが見知った人間ばかり、という状況が既に出来上がっていた。

 私も優璃もまたその内部進学組の一人なのだけど……交友関係に雲泥の差が生まれているのはご存知の通り。


「すみません!」


 もしも優璃が同じクラスでなければ、私はクラス内で完全に孤立していたことだろう。

 まあ、私はそれでも構わなかったんだけど……。

 それが高等部に上がった途端(優璃はともかく)、学園ツートップの人間と親しい関係になってしまっているのだから人生とは不思議なものだ。


「聞こえてないんですか?」


 因みに芽美は、数少ない高等部生徒からの外部進学組だ。

 だから、友達も少ないらしい。

 それ以外にも、周りが芽美を神格化し過ぎて声を掛けられないだとか、今では優璃が恋人になって余計にだとか――。

 色々理由は考えられるが、本人的にもあまり気にしている様子も見受けられないので問題ないのだろう。


「もしもーし」


 ところで、今日は珍しく一人でお昼休みを過ごしている。

 優璃がたまにはクラスの友達と食べなきゃヤキモチさせちゃうからという理由で、芽美は優璃の彼女として紹介される立場にあるらしく、連行されていた。

 今更、紹介も何もないとは思うけど……。


 私も誘われたが、さすがに断った。

 そういうわけで、私は元々一人が好きな事もあって今日は珍しく静かな環境でお弁当に舌鼓を打たせて頂いている。


「……すぅー」


 だから、別に寂しくない。

 突然友達が少ない事を再確認したのにも、取り分けて大きな意味はない。

 うん、そうだよ。

 だから私は、今日はネブくんが来ないなぁ、なんて思いながら――。


「あのおっ! すみませーん! アナタ、綾川凪沙さんですよねっ!?」


 ……私?


「えっと、私は綾川凪沙だけど……何かな?」

「何で無視するんですか!」

「無視したというか……他の人に声を掛けてるのかと」

「こんな辛気臭いところ、アナタしか居ないですよ!」


 辛気臭い。

 そうか、この中庭は辛気臭いか。


 ぐるりと辺りを見渡す。

 花の散った桜。申し訳程度に整備された花壇。陽の当たらないベンチ。

 ……最近は華やかな二人に囲まれていたせいで忘れかけていたけれど、確かに此処は辛気臭いところかもしれない。

 確かにこんな場所には、特別な用事でもなければ私ぐらいしか利用しないだろう。


「はぁ、今日はようやく一人で居るからと声を掛けたというのに……」


 私に声を掛けてきたのは、小さな少女だった。

 ……と言うと失礼に当たるかもしれないが、小さな少女なのだから仕方ない。

 身長はおそらく百四十センチにも満たない。

 よく見ると、その制服姿は中等部生徒のものだった。


「中等部の子……? なんでこんなところに?」

「アナタに用事があって来たんですっ」


 はて、何の用事だろう。

 交友関係の薄い私に、中等部生徒に知り合いは居ない。


 改めて、その全体像をじっくりと見る。

 藍色の髪にはカールが掛かっていて、幼い容姿、小さな背丈が相まって愛くるしい小動物のようだった。

 だというのに、そんな自身を大きく見せようとしているのか――背筋をピンと伸ばして、ふんぞり返ったようなポーズをしているのが不恰好に見える。

 これは、優璃や芽美とは違う意味で可愛いな。


「アナタみたいな人が、百合に挟まらないでください!」


 だけど、先輩に当たるはずの私に対して少々口が悪く感じられるのはマイナスポイントだ。

 私は上下関係に煩くないけれど、世間の風当たりはどうだろうか。此処は、私が先輩として――って、冗談はいい。


 ……今、何て言った?


「アナタみたいな異物が! 尊いっ! 百合に! 挟まらないでくださいっ!」

「いや、繰り返さなくていいから」


 思わず突っ込んでしまった。


「ふうっ」


 言い切ってやった!

 そんな雰囲気で、少女はドヤ顔を浮かべる。


「では、私はこれで」


 え、それだけ?

 そんな言葉を返す間もなく、少女はさっさと私の前から居なくなってしまった。

 中等部の校舎に帰ったのだろうか。

 確かに自由に行き来することは可能とされているはずだったが、距離的にもそれなりに手間が掛かる。


 だというのに、それだけの用事で、そんな意味の分からない事を私に言いに来たのか。


(……最近の若者は分からない)


 最近は同級生や幼なじみの事すらも分からない私は、そんな風に話を締めてお弁当を食べる作業に入った。





 翌日、お昼休み。

 中庭にて。


「また居るよ…………」

「え、どうかした?」

「何がいるんですか?」


 今日のお昼休みは、優璃も芽美も居る。

 中庭に唯一あるベンチ。

 左隣に、優璃。

 右隣に、芽美。

 真ん中に、私。

 それがいつもの定位置だった。


 そして、昨日の事がある。

 もしかして――と思い、お弁当を食べながらも辺りを注意して見ていると、昨日私の前に現れた少女が居た。


「じーーーーーー…………」


 ギリギリ死角になっていない位置から、顔だけ覗かして此方を見ている。

 もしかして、気付いてなかっただけで今までもこうして見られていたのだろうか……。

 そう思うと、気が滅入る。

 無視をした方がいいのだろうか。

 だけど、既に二人には怪しまれちゃってるからな……。


「凪沙さんの見てる方……あれ? 人が居ませんか?」

「うん……? あ、ほんとだっ」


 そうこうしているうちに、二人が気付いた。


「おーいっ、愛香ちゃーんっ!」


 愛香ちゃんというのか。

 どうやら、優璃の知り合いだったらしい。後輩にまで知り合いが居るとは……さすがだ。


 一方の愛香ちゃんと呼ばれた少女は、突然声を掛けられるとは思っていなかったのか「ぴゃあっ」と情けない声を上げて辺りをキョロキョロと見渡していた。


 君だよ、君。

 そんな突っ込みを心の中で入れている間に、優璃は少女の元へ向かっていった。


「優璃さんのお知り合いだったんですね。その様子だと、凪沙さんもですか?」

「私? ううーん……知り合いというか……」


 何も事情を知らない芽美は、呑気にそんな事を言う。

 知り合いというかなんというか……昨日、一方的に変な事を言われたぐらいで。


「久しぶりだねえ。卒業式以来かな?」

「は、はいっ。優璃先輩はお変わり無くお美しいですね!」

「あはは、そんな事ないよお。でも、ありがとうね」

「いえいえ、真実です。最近は、優璃先輩にも劣らないほどの恋人が出来たとかで……」


 二人の会話が聞こえてくる。そういえば、優璃は後輩にも人気だった。

 言われてみれば、優璃の追っ掛けにあんな感じの子を見た事があるような気も……。

 その少女は、幼児の引率のように優璃に手を引かれて此方まで来るところだった。


「あっ」


 そして、私を見て本来の目的を思い出したかのように口を大きく開く。

 なんか、既視感がある。

 ええっと、昨日言われた言葉は、確か……。


「尊いお二人の間に、挟まらないでくださいっ!」


 あ、うん。

 ちょっと違うけど、確かにそんな感じの事を言われた。

 なるほど、そういうことか。


『え?』


 優璃と芽美が、戸惑った表情で私と少女を交互に見る。

 戸惑いたいのはこっちなんだよね。

 また、面倒な事になりそうだ。私は、久しぶりに出掛かった溜め息を寸前のところで押し殺した。


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