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第三話 恵まれない。



 学校で優璃と芽美と話す機会が殆どなくなった。

 どちらかが私と会話しようとすると邪魔が入るのだから当然かもしれない。


 一ヶ月前。

 同じように、私は一人だった。


 優璃から距離を置いて、一人で学園生活を過ごす。

 そのまま卒業へ。

 そんな風に思い描いていた。


 ……そうなのだ。

 ただ、以前に戻っただけなのに。その時の心境と今の心境が違うのはなぜなのだろう。


 今の私は、もどかしくて。心が、ぐらぐらしている。


 答えは、簡単だ。

 知ってしまったからだ。


 優璃と芽美と共に過ごす時間を、優璃と芽美の純真な気持ちと一緒に。

 私の生涯の一生分かと思えるほどの気持ちの揺らめきと慌ただしさをセットで教えてくれたからだ。





「あ〜、最近は凪沙と話せなくて寂しいよ〜」


 私と優璃、互いの自室の窓を通しての会話。窓から顔を覗かせた優璃が、拗ねた顔で私に愚痴を溢す。

 そんな優璃の手には携帯が片手にあり、画面も私に向けられている。

 というのにも、理由がある。


「芽美もそう思うよね!」

『はい、本当ですね……』


 それは、芽美と通話が繋がっているからだ。

 学校では周りの目があるし、放課後も同様だ。

 だけど、今のままでは寂しい。

 そう考えた優璃が考案した形で、芽美も賛同して寝る前の夜にこうして三人で会話する機会を設けたのだ。


 その芽美もビデオ通話越しだが、声色と同じように残念そうな表情を浮かべていた。

 表には出さないようにしているが、優璃も芽美も私と一緒に話したい、過ごしたいと思ってくれているらしい。


「まあ、私安曇さんたちに嫌われてるもんね」


 瞬間、爆弾投下。


「ええっと……」

『そ、それは、その』


 答えづらそうにした優璃と芽美の言葉が詰まった。

 どうやら、私は反応に困ることを言ってしまったようだ。


 ……だけど、それでもいい。

 最近、一人で色々と考え込み過ぎたせいだろうか。今はスッキリした気分だ。


「いいよ。気にしなくて。さすがに、雰囲気とか態度で分からない方がおかしいって」

「……でも、おかしいよ。凪沙の何が嫌なんだろ? 私、ずっと凪沙の良いところも言ってるのに……」

「それは嬉しいけど。たぶん、そういうところが余計に私を嫌いになる要因だったりするんじゃないかな〜」

「な、なんで!? 芽美もおかしいと思わないっ!?」

『えっ、ええっ、私ですか!? で、ですが、私は人を嫌いになったことはありませんので……!』

「私もだよおっ! うう……あずみんもいーづもうるうるも普段は良い子なのに……凪沙、ごめんね?」


 ……二人とも、気が付いてないだろうけど私が嫌われてるのを暗に認めたな。

 あずみん、いーづ、うるうる。

 ってたぶん、安曇さんと飯塚さんと漆原さんのことでいいんだよね……?


 まあ、前述した通り。私が嫌われていると気が付かない方がおかしいという話で。

 ただ、それを話題に出すというのも憚られたからここまで言及されるのが先延ばしになっただけの話でもある。


「優璃が謝っても仕方ないよ。何となく、三人の気持ちも理解出来ないこともないし」

「私には分かんないよっ! それに、わざわざ凪沙を遠ざける理由にはならなくない? 中学の時もここまでじゃ……」


 確かに、誰とでも気兼ねなく会話出来てしまう優璃からすれば三人の気持ちは理解出来ないだろう。

 それに、私だって理解出来るからと言って納得しているわけじゃない。


 スクールカーストとか、くそくらえってね。

 迷惑を掛けているのならともかくだ。

 誰が誰と仲良くするとか、どういう行動を取るとか、その人の勝手じゃないかと思う。


 だけど、それだけ優璃の影響力とか人を惹き付けるカリスマ性みたいなものが特別だって話。

 それはそれとして、一応頭では理解出来る部分。


 問題は、それが以前より過激になった理由。


「まあ、当時から思うところはあったんだろうけどね。だけど、中学の時と変わったことで言えば、私と優璃を引き離す理由は一つ出来たよね」

『引き離す理由……? そんなの、あるんですか?』


 画面越しの芽美が小首を傾げた。

 芽美は違う学校だったからピンと来づらいのかもしれないが、少し考えれば分かることでもある。


 それに気が付いていない様子の本人たちに関しては、単に鈍感って一面もあるのかもしれないけど……。

 それは、当事者であればあるほどに気付きにくいし見えにくいものなのかもしれない。


「二人が、付き合い始めたからだよ」


 私は、ぽつりと呟くように言葉を吐いた。

 優璃と芽美が「あっ」とハッとした表情を浮かべた。


 二人は、二つの理由で恋人同士になった。

 一つ目は、男避けのため。

 二つ目は、私に気を引かせるため。


 うん、大成功だ。

 だから、この前まで。私はそのままでいいと思った。


 だけど、それじゃ駄目だ。

 結果として、優璃と芽美は学園公認のカップルになって私の気も引けた。

 しかし、その弊害が生まれてしまった。私との関わりを絶たせる理由が出来てしまった。


「そんな、理由で……」

『私、納得出来ません……』


 私だって思う。アホらしいことだって。


 だから、駄目だ。

 だって、このままでは。


 優璃が恵まれない。

 芽美が恵まれない。

 そして、私が恵まれない。





 ――――夜風に吹かれ、髪が靡く。


 まだ夜は涼しい日もあるけれど、もう夏も手前だ。

 昼は暑くなってきたし、まだ稼働はさせていないが事前にエアコンの掃除も済ませた。


 もう数週間もすれば、夏休みが始まる。

 そうすれば、学校も長期休暇だ。

 夏休みに入ってしまえば、優璃と芽美と過ごす時間も今よりは格段に取りやすくなるだろう。


 だけど、本当にそれでいいのだろうか、とも思う。

 状況を悪化させないようにしつつ、ただただ時間の流れに身を任せる。


 うん、私にお似合いの戦法だ。


「二人とも、今のままじゃ嫌だと思ってるの?」


 しかし、と。そこで、考え方を改める。

 それだと、結局今抱えている問題から逃げているだけのような気がした。


「……うん、思ってる!」

『私も、このままじゃ嫌ですっ』


 その言葉が聞きたかった。

 ……いや、言えなかったのは私の方だ。


「私に、考えがあるんだけど」


 二人が私に対して静観していた意図は分かる。

 このままじゃ嫌だ。

 そう思いつつも、現状のままでいいと判断した私の意思を尊重して多くは意見して来なかった。


 二人に甘えるのは、もう終わりにしよう。

 愛香ちゃんも言っていた。

 もっと自分に自信を持って、周りの目を気にし過ぎない。

 言いたいことを言ってるようで、したいことしているようで、本心を隠そうとしていた私から脱却するんだ。


「その考えってなに? 凪沙は、何か思い付いたの?」

「……一応、ね。でも、上手くいく保証はないよ。むしろ、今より悪くなるかも」

『ですが、このままだと……』

「何も変わらない、と思う。そういう賭け」


 以前までの私なら、深くは考えない。きっと、即答で現状維持を選んだはずだ。


「じゃあ、賭けに乗る!」

『私もです! このままなんて嫌です!』


 二人の決断も早かった。

 まだ、何も言ってないのに……。


「二人とも、簡単に私を信用し過ぎじゃない?」


 百均で買った代物でも私がこの壺は良い壺だよ、とでも言えば本当に買ってしまいそうな勢いだった。


「だって、凪沙の言ったことなんだもん!」

『これ以上ないぐらい、信用出来ますっ』


 ……まあ、それだけ素直で真っ直ぐな二人だから。

 そんな二人だから、こんなにも捻くれた私を好きだと言ってくれるのかもしれない。


「……じゃあ、手始めにだけど」


 だから、私も緊張する。

 こんなことを、初めて二人の報告を聞いた日から。私自身の口から言うだなんて、思ってもみなかったから。


 ごくり、と生唾を飲む。

 喉がカラカラなのは、夏のせいじゃない。


 言う。

 言ってしまえ。


 そして、そこから。

 また、全てを一から始めるんだ。


 とは言っても、これは私の一方的な考えだ。

 だけど、優柔不断な私が、今の私が出した精一杯の答え。




「優璃と芽美には、別れてほしい」



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[良い点] 21/21 >>>「優璃と芽美には、別れてほしい」  このセリフを言えるのはさすが [気になる点] 髪が靡くのやっぱり女の子だなぁと [一言] さあどうなる。ワクワク
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