第一章始まりの季節
中学三年になった。学年が変わった。
髪が伸びた。クラスが変わった。
教室から見る景色が変わった。
見るもの全てに色がついた。
前を向くことができた−−−、君のお陰で。
本音も言えた−−−。
無表情で、一言も話すことがなかった君と私。
たった一学期きり。
昼休み、放課後、図書室。
「えー、……中学三年生というのは、これから高校受験を迎える為の大切な時間でもあります。この一年をどう使うかで……。」
四月−−−。新たな教室で、担任になった大内先生の話しが続く。クラス替えで、教室から見える景色が変わった。これらが変化しても、私自身は変わらない。
視線を窓に移し、桜の木を眺める。もう少しで終わってしまうんだなと、ぼんやり思う。窓の隙間から、春の終わりを告げる便りがひらりと届いた。小さな薄桃色の花弁だった。数日前は、咲き誇っていたはずのこの桜を見たのは何度目だろうか。
「学級委員と役員を決めるぞー。」
いつも、ゆるい大内先生の声が教室中に響き渡る。大内先生は、国語の担当で中年のいわゆるダンディめの男性だ。この学校には、大内雅治という同姓同名がいる。もうひとりは、三〇代の若いほうの教師なので、愛称はヤングなのだとか。
(紛らわしいからと英語で古い以外あだ名を女子が勝手につけたらしい。)
「……で、次は学級委員長と書紀だな」
誰もやる気は無い。皆、自分ではありませんようにという顔をしている。私は、書紀だったらと思うが躊躇う。
この場合、目があったら最後なのだ。机から好きな小説を取り出し読み進める。
私も皆と変わらない。面倒臭いことは他人に擦り付けるような無責任だから。
腕が痺れてきたので、軽く伸ばす。
「おー、海野たしか字が上手かったよな。
じゃあ、書紀だな。」
えっ!?。咄嗟に断ることができなかった。その場で状況が理解できず話しは進んでいくばかりだった。
「で、学級委員長は、立候補や推薦はないな。」
「じゃあ、先生が決めるんだけど、学級委員長は、先生が顧問の残りの図書委員と兼任で活動してほしいと思ってるからよろしく。」
教室内にざわめきがおこった。
「村山、お前どうだ。」
その人………、村山くんは、私の斜め一つ前の席。
「俺は別にやってもいいですけど。」
私は忘れていた。
自分が図書委員長だということを。